福井県立図書館の「覚え違いタイトル集」が1400件に、『唐魔族三兄弟』から本を探し当てる司書がすごい
図書館の公式アカウントが「ページを更新しました」と告知しただけの投稿が、1.4万いいねまで伸びている。福井県立図書館の「覚え違いタイトル集」だ。
顔文字ひとつ添えた素朴な告知なのに、リンクを踏んだ人がそのまま戻ってこなくなる。中身は、図書館のカウンターで実際に聞かれた「うろ覚えのタイトル」と、司書が一緒に探して突き止めた正解を並べただけの表だ。それがひたすら面白い。
『唐魔族三兄弟』から『カラマーゾフの兄弟』に着地する
まずは実際の並びを見てほしい。左が利用者の言った覚え違い、右が司書の出した答えになる。
- 『唐魔族三兄弟』 → 『カラマーゾフの兄弟』ドストエフスキー
- 『ニート、家を買う』 → 『フリーター、家を買う。』有川浩
- 三浦しをんの『あむ』 → 『舟を編む』
- 山崎豊子の「ひはまたのぼる」 → 『沈まぬ太陽』
- 「響け!トランペット」 → 『響け!ユーフォニアム』
- カズキ・イシダの『わたしを探さないで』 → 『わたしを離さないで』カズオ・イシグロ
- 「頭のうちどころが悪かった能の話」 → 『頭のうちどころが悪かった熊の話』
- 「こぐまちゃんのパンケーキ」 → 『しろくまちゃんのほっとけーき』
『あむ』は編むという動詞だけが記憶に残ってしまった例で、逆に司書側からすると手がかりがそこしかない。山崎豊子のほうは「日はまた昇る」と混ざったうえに意味が正反対になっていて、それでも『沈まぬ太陽』に着地している。
情報がタイトルですらない相談も混ざっている。「ローリングって名前のホストの人が書いた本ありませんか」は ROLAND の『俺か、俺以外か。』、「鳥の学者だけどそんなに鳥が好きではない、みたいなニュアンスのタイトル」は川上和人の『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ』だった。ニュアンスだけで正解を引き当てられている。
タイトル以外を全部聞き出して、そこから逆算している
ページの冒頭に、司書側の種明かしにあたる説明が置かれている。「このリストでは、司書が本のタイトル以外の情報(著者、どこ・何でその本のことを知ったか、出版社など)をたずねて一緒に探した結果のみを掲載しています」というものだ。
つまり、当てずっぽうで思い当たっているわけではない。表紙の色、装丁、どこで知ったか、何巻まで出ていたか、ドラマ化されたかどうか。そういう周辺情報を集めて包囲していく作業の結果だけが載っている。実際、リストには「表紙(主人公の背景)が緑色」「副書名が『すべてはウイルスが知っていた』」といった、決め手になった手がかりが注記されている行がある。
覚え違いの相談を受けたことがある人ならわかると思うが、この手の質問はキーワードが全部間違っているところから始まる。文字列としては一致しないのに正解が出てくるので、検索とは別の筋肉が要る。
2007年からの蓄積で、通し番号は1400まで来た
このページが公開されたのは2007年。もともとは職員のあいだで共有していた事例を、独占していてはもったいないという理由でサイトに載せたのがはじまりだと、国立国会図書館のカレントアウェアネスに載った関係者インタビューで説明されている。ねらいは2つで、蔵書検索で本が見つからない利用者へのヒントにしてもらうことと、レファレンスサービスそのものを知ってもらうことだ。
そこから積み上がって、いま公開されている通し番号はNo.1400まで来ている。No.1〜500、No.501〜1000、No.1001〜の3ページに分かれていて、今回更新されたのは3ページ目だ。最新のNo.1400は「こぐまちゃんのパンケーキ」で、正解は『しろくまちゃんのほっとけーき』だった。
ページの下には情報提供フォームもあって、自分が出会った覚え違いを送ることもできる。読者が持ち寄った分も混ざりながら伸びているリスト、ということになる。
「AIには無理でしょ」の声が並んだ
トレンドに「司書さん」が入るくらいには広がっていて、リストを読んだ人が2枚のスクリーンショットを貼った投稿も2万いいねを超えた。
反応で目立ったのは、笑いよりも司書への感嘆のほうだった。「これはAIで探しては無理だよ司書さんは必要であり偉大なり」「人間の記憶力ってこんなもんよね。正解を探し当てる司書さん凄い」といった声が並んでいる。文字列が合っていないものを、会話で削り出して当てにいく仕事なので、たしかに検索窓とは相性が悪い。
なお、このページは2021年に『100万回死んだねこ 覚え違いタイトル集』として講談社から書籍化されていて、2024年10月には文庫版も出ている。タイトルの「100万回死んだねこ」自体が、佐野洋子『100万回生きたねこ』の覚え違いとして寄せられたものだ。1行で成立している。
読み始めると止まらなくなる質のページなので、時間があるときに開いたほうがいい。自分が今まさにうろ覚えで探している本があるなら、正解が載っている可能性も普通にある。
出典: 福井県立図書館「覚え違いタイトル集」 / カレントアウェアネス「福井県立図書館『覚え違いタイトル集』ができるまで」