ちいかわの体操の曲の正体はスーパーの「呼び込み君」、韓国・台湾・タイと各国版が集まってきた
海外のユーザーが「余命43秒って言われたら聞く曲」みたいなノリでちいかわの体操シーンを上げたところ、2万8千いいねを超えるバズになりました。そこに日本語圏から入ったツッコミがこれです。
「この曲って海外の人たちは日本のスーパーで客の頭を洗脳するために流す曲って知ってるのかな?」。この一言が7万4千いいねまで伸びて、日本側でも「言われてみればそうだ」と改めてざわついています。海外では“かわいいアニメの体操BGM”として受け取られている曲が、日本人にとっては鮮魚売り場の音だという、そこそこ大きい認識のズレです。
曲の正体は「呼び込み君」のBGM「No.4」
あのメロディを鳴らしている機械の名前は、群馬電機の音声POP「呼び込み君」。スーパーの食品コーナーなどで「タイムセールです」「新鮮なお魚が入りました」といった案内を自動で再生する、白くて顔のついた箱です。人感センサーが付いていて、お客さんが近づくと喋りだします。
内蔵BGMは2種類あって、ボサノバ調の落ち着いたものが「No.2」、そしてアップテンポの有名なほうが「No.4」。ネットで「ポポーポポポポ♪」と表記されているのがこの No.4 です。曲名らしい曲名は付いておらず、開発時の通し番号がそのまま呼び名になっています。
そもそも、なぜオリジナル曲だったのか
面白いのは、この曲が「ヒット狙い」で作られたものではないところです。群馬電機の開発秘話によると、開発が始まったのは1999年の夏。当時の売り場はカセットテープで案内を流していて、大手スーパーから「テープが劣化して困る」という声が上がっていました。そこで半導体メモリを使う方式に切り替えることになり、2000年2月に試作1号が完成します。
問題はBGMでした。既存の曲を入れると著作権の処理が必要になる。ならば自前で作ってしまえということで、ボサノバ、ロック、アップテンポ、スロー、サンバ、民謡の6曲を用意して社内投票にかけた結果、ボサノバ調とアップテンポ調の2曲が残りました。作曲を担当したのは、県内の広告代理店の紹介で来た、放送局のCMソングを手がけていた作曲家だそうです。
つまり「権利関係でもめないように」という、まったく色気のない理由で生まれた曲が、20年以上たって海外のアニメファンにまで届いているわけです。
着メロでダウンロード1位、ついには音商標に
No.4 の人気はネット発でじわじわ広がり、2019年に着メロの配信が始まるとダウンロード数1位を獲得しました。声を出して呼び込みができなくなったコロナ禍には機械そのものの販売数も伸びて、2021年時点で累計7万台が出荷されています。
そして2022年、このメロディは商標登録6608744号として音商標に登録されました。特許庁のINPIT群馬県知財総合支援窓口の資料によれば、歌詞のないメロディだけの音商標の登録は全国でも5例目で、中小企業では初めてのことでした。20年以上前に権利対策として作った曲が、今度は守るべき資産になったという流れです。
なので「フリー音源として使えるのか」と気になっている人向けに書いておくと、曲の著作権は群馬電機が持っていて、フリー素材ではありません。ただし No.4 は着メロとして今もmysoundで配信中なので、正規に鳴らしたいならここです。着信音がスーパーになります。
「社会に揉まれ 都会に飲まれ」の歌詞は後付け
「呼び込み君 歌詞」で検索する人がそこそこいるようなので先に書いておくと、原曲に歌詞はありません。あるのはメロディだけです。
ただ、TikTokやインスタのリールで「社会に揉まれ 都会に飲まれ 親の偉大さを知る」と歌う替え歌が広まり、そちらを本家だと思っている人が一定数います。2022年には漫画家の瀧波ユカリさんが「続きが知りたい」と投稿して話題になりました。誰が最初に付けたのかははっきりせず、複数のバージョンが出回っている、いわゆるネット発の二次創作です。上京と一人暮らしの哀愁を、鮮魚売り場のBGMに乗せてくるセンスで定着してしまいました。
ちいかわ側では「寝起きの体操」の曲
一方のちいかわ。呼び込み君らしき機械が原作に初めて出てきたのは2020年12月16日で、そこでは販促用ではなく「朝の体操の音楽」として鳴っていました。ちいかわ世界では、あの曲はラジオ体操ポジションなわけです。
アニメで再現されたのは第44話「寝起きの体操」、2023年2月3日にフジテレビ「めざましテレビ」内で放送された回です。原作だと単行本2巻にあたります。ちいかわのアニメは1話で原作2エピソードを扱うことが多いのですが、この回は体操だけで1話を使っていて、見た目もメロディもそのまま出てきました。放送直後は「ついに呼び込み君ラジオ体操の回」「アニメスタッフに感謝しかない」と盛り上がり、その後もリバイバル配信で何度か表に出てきています。今回海外で拡散したのもこの第44話の体操です。
日本人が「スーパーの曲」として20年かけて刷り込まれてきた記憶と、海外の人が「ちいかわの体操の曲」として覚えた記憶が、いま同じツイートの上でぶつかっている。ざわつくのも無理はありません。
「うちの国だとこれ」で各国版が集まってきた
このツッコミの引用欄が、そのまま各国のスーパーBGM品評会になりました。先陣を切ったのは韓国の@naianderuさんで、「한국으로치면 이런건가(韓国だとこんな感じか)」とだけ添えて、同じ体操シーンに自国の曲を乗せた動画を投げています。3万9千いいね。ここからタイ、中国、台湾、インドネシアと引用が数珠つなぎになりました。
韓国はイーマートの「난나 난나」
乗っているのは「イーマートソング(이마트송)」。大手スーパーのイーマートが2000年のCMで使い、2000年から2007年まで店内で流していた曲です。「난나 난나 난나(ナンナ ナンナ)」「해삐 해삐 해삐(ヘッピー)」を延々くり返すだけで、意味のある歌詞はほぼありません。
元ネタがまた面白くて、これはミュージカル『南太平洋』のナンバー「Happy Talk」の編曲です。呼び込み君が「著作権の処理が面倒だから自作した」曲なのに対して、韓国は名曲を借りたほう。おかげで一時期は店内から消えていて、韓国では原曲の権利が理由だったと説明されています(作曲者の没後70年なので、切れるのは2029年から2030年ごろ)。復活したのは2023年で、イーマート30周年に合わせて原曲版に加えてユンナのモダンロック版など4アレンジが公開されました。20年前のスーパーの曲を記念事業として復刻するあたり、刷り込まれ具合は日本とそう変わらないようです。
タイはスーパーで回っている米のCM
タイの@GhostSucculent_さんは「ที่ไทยก็มีเหมือนกัน(タイにもあるよ)」と参戦。曲はパック米ブランド「ข้าวแสนดี(カーオ・センディー)」のCMソングです。「センディー米、いいねいいね。水加減そのままで炊けて、やわらかさもちょうどいい」という内容を、ひたすら明るく歌い続けます。
こちらは店のテーマ曲ではなく、小売店やスーパーの店頭広告として2012年ごろから流れている商品CM。タイでは「買い物客の耳に残る広告ソング」の代表格として記事にもなっている曲で、立ち位置としては日本の呼び込み君と同じく「店に行くと必ず聞こえる音」です。
中国は歌詞ありのにぎやかなやつ
中国の@RintheMemewitchさんは「请欣赏🇨🇳的(中国のをどうぞ)」の一言。ここまでのアジア勢で唯一、はっきりした歌詞つきの中国語ソングが乗ってきます。日本語圏の反応は「中国のBGMはなんかリズムがレゲエっぽくて楽しいね」で、たしかにテンポの取り方が他の国と違います。
台湾は全聯の「One Two福利熊」
「대만(台湾)」とだけ書いて投げたのは韓国の@Seaweed_waldoさん。曲は台湾最大のスーパー、全聯福利中心(PX Mart)のマスコット福利熊のテーマ「One Two福利熊」です。「福利熊、熊福利」をひたすらくり返す構成で、日本人の耳にもわりと素直に入ってきます。
店内で流れ始めたのは2017年10月頭。MVは台東でロケして7桁(台湾ドル)をかけたそうで、投入直後は店員が「かわいすぎて洗脳される」と言い、客のほうは「最近店でかかってるあの曲なに」とネットで質問して回る流れになりました。呼び込み君と違ってこちらは最初から人気者を売り出す気まんまんの曲です。
インドネシアはインドマレット、ついでに本家も
@hoJINchalatteさんが「Versi Indonesia 🇮🇩 (jingle indomaret)」として出したのは、コンビニ大手インドマレットの店内ジングル。歌は入っておらず、インスト版がループしています。
もうひとつインドネシアから来ていたのが、@seruminariさんの「インドネシアにもイオンがあって、店内でだいたいこれが流れてる」という報告でした。つまり本家の呼び込み君が、イオンの海外店舗ごと現地に輸出されているわけです。この投稿だけで632いいね付いています。
出てくるのが全部アジアなのはなぜ
集まった5か国が、きれいに東アジアと東南アジアで止まっています。引用欄にも「これアジアだけの文化なの?」「欧米には呼び込み君文化ないのかな」という書き込みが並びました。
並べてみると、仕組みは国ごとにバラバラです。日本と台湾は店(と機械)そのもののテーマ曲、タイは商品のCM、韓国は昔のCMソングの復刻、インドネシアはチェーンのジングル。出自が違うのに、短いループ・やたら明るいメロディ・店名か商品名の連呼という三点だけは全員そろっています。「根底にチープさがある」「文化を越えてもスーパーのBGMには共通点が見えてくる」という感想が出ていたのは、たぶんそういうことです。
本家はこの夏、コミケに出ていた
しかも群馬電機、2026年8月15日から16日のコミックマーケット108に企業ブースで出展していました。販促機器メーカーが企業ブースに並ぶ画は珍しく、SNSでは「まさかの公式参戦」と驚かれています。
卓上に並んでいたのは、開発中の新型「もっと!呼び込み君」(MC-F08)と、コミケ出展記念モデル(MC-F06)。前者は新しい顔デザインと新しい販促BGM、断線しにくいACアダプタ式、microSDカードを入れて独自BGMを流せる機能などが売りで、コミケ限定価格の税込17,600円で予約を受け付けていました。後者は「ポポーポポポポ」の通常版に加えて「お祭りver.」を収録した2曲入りで税込15,000円。ぬいぐるみやハンドタオルまで並んでいます。
声優・YouTuber向けのOEM展開も紹介されていて、群馬県出身の声優・内田彩さんとのコラボ商品も展示されていました。売り場の裏方だったはずの機械が、完全にキャラクター商売に足を踏み入れています。
家に置きたくなった人へ
「あの曲を家で鳴らしたい」という方向に振り切れてしまった人もいると思うので、実際に買えるものを置いておきます(PR)。
手を出しやすいのは、全長5cmほどのミニトイ版。ボタンを押すと本命の「No.4」が鳴ります。ただし2曲入りの「ミニDX」も通常のミニトイ版も、今はどこも在庫切れです。
業務用の本体そのものも、実は普通に売っています。人感センサー付きなので、玄関に置けば家族が通るたびにスーパーが始まります。おすすめはしません。
ミニトイ版はドン・キホーテ限定のカラー違いも出回っていて、店頭で見かけることもあります。公式のオンラインショップでも本体やグッズを扱っているので、正規で揃えたい人は群馬電機のオンラインショップをどうぞ。
次にスーパーの鮮魚コーナーであの曲が聞こえてきたら、たぶんもう体操しか思い浮かびません。