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ちいかわの造語だと思われていた「ひとりごつ」、枕草子にも出てくる古語だった

2026年8月12日 ・ トレンド「ひとりごつ 意味 ちいかわ ハチワレ 歌 ひとりごちる 古語」より

「ひとりごつ」という日本語を、どこで覚えただろうか。小説でよく見かけた人と、まったく見たことがない人が、8月12日のXできれいに分かれた。

きっかけは、くろもりさんの投稿だ。アニメ『ちいかわ』でハチワレが歌う曲のタイトルが「ひとりごつ」なのだが、それを聞いた夫が「何で『ひとりごと』じゃなくて『ひとりごつ』なんやろ?」と言い、職場の人には「ちいかわって造語も多いから造語じゃない?」と返された、という話である。

造語ではなく、辞書に載っている

結論から言うと、「ひとりごつ」は古語である。漢字では「独り言つ」と書き、意味はそのまま「独り言を言う」。タ行四段活用の動詞で、連用形が「ひとりごち」になる。デジタル大辞泉の説明によれば、名詞の「独り言(ひとりごと)」が動詞化して「独り言つ」になり、さらにそこから「独り言ちる」という形が生まれた、という順番だ。

古さの証拠としてよく引かれるのが『枕草子』で、明治期の小説にも使われている。つまりナガノさんの造語どころか、清少納言のほうが先に使っている言葉だった。

曲そのものはアニメ『ちいかわ』第11話でハチワレが歌ったもので、作詞がナガノさん、作曲がトクマルシューゴさん。2022年6月10日に配信リリースされている。

歌詞は「なんだ~もう 朝…かと… ひとり‥ごつ…」から始まる。焼けたパンにバターを塗って、雨が上がって、変な足あとだと思ったら昨日の晩の自分の足あとだった、という起伏の小さい朝の話が続く。タイトルを古語にした理由が説明されているわけではないが、この曲の温度感に「ひとりごと」より「ひとりごつ」がはまっているのは、聞くと納得できる。

「ひとりごちる」のほうが実はあやしい

ここからが本題みたいなところがあって、リプライ欄では「ひとりごつ」より「ひとりごちる」を先に知っていたという声が目立った。「魔術士オーフェンで知りました」「スレイヤーズで履修するよねぇ」「新井素子あたりから摂取したような気がする」「武田綾乃以外で使ってるの見たことないな」と、出典がそろって小説やライトノベルなのが面白い。

ところが辞書の世界での立ち位置は逆になる。「ひとりごちる」は昭和になってから使われ始めた比較的新しい口語形で、辞書によっては「ひとりごつの誤用」と書かれている。デジタル大辞泉には見出しとして載っているので完全な間違いというわけではないが、由緒でいえば「ひとりごつ」に軍配が上がる。

読書量で日本語の地図が変わる

「え……ひとりごつ、ひとりごちる、通じてない可能性あったの……?」と驚いている人もいれば、「たしかに! ひとりごちるっていつから知ってたんだろ」と自分の記憶をさかのぼっている人もいた。声に出す機会がほぼゼロで、地の文でしか出会わない言葉というのは、確かにこういう分断が起きやすい。

普段の会話に一度も登場しないのに、小説を読んでいれば年に何度も目に入る。「ひとりごつ」も「ひとりごちる」も、そういう文字でしか会わない語の代表格だった。ちいかわ経由で初めて出会った人にとっては、歌のタイトルが辞書に載っていると知るのが、その最初の一回になったわけだ。

『ちいかわ』の歌が古語の入り口になっているのは、なかなか気の利いた話だと思う。次にハチワレの歌を聞くときは、タイトルが千年ものだと思って聞いてみてほしい。