法螺貝を1日15分吹いたら睡眠時無呼吸が減った インドの臨床試験で1時間あたり4.4回、日中の眠気は34%改善
「法螺貝を吹く習慣を持つと睡眠時無呼吸症候群が改善する」という一行がXで回ってきて、タイムラインが軽くざわつきました。反応の多くは同じ方向で、山伏かよ、というツッコミです。ただ元をたどると、ちゃんと呼吸器の学術誌に載った臨床試験がありました。
1日15分、週5日、6か月
試験を行ったのはインド・ジャイプールにあるエターナル・ハート医療研究センターのチームです。集めたのは19歳から65歳の30人で、全員が中等症の閉塞性睡眠時無呼吸(無呼吸低呼吸指数が1時間あたり15〜30回)と診断されていました。
半数には法螺貝を吹く練習をしてもらいます。息を大きく吸い込んで、貝の吹き口に向かって強く吐き出す。音の高さが変わるように吹く力を段階的に上げていく、というやり方です。これを1日15分、週5日、自宅で6か月続けました。月に1回は通院して吹き方をチェックしてもらっています。
残りの半数は対照群で、鼻から静かに吸ってゆっくり吐く深呼吸を、まったく同じ時間・同じ頻度でやりました。つまり「呼吸の練習をした」という条件はそろえたうえで、法螺貝という抵抗と振動があるかないかだけを比べたことになります。
数字はどれくらい動いたか
6か月後の差は、思ったよりはっきり出ています。
睡眠1時間あたりの無呼吸・低呼吸の回数(AHI)は、法螺貝グループが4.4回減ったのに対して対照群は1.2回増えました。群間の差は5.62回です。日中の眠気を測るエプワース眠気尺度は5.0ポイント下がり、率にすると34%の改善でした。
数字としていちばん目を引くのは、レム睡眠中の値です。舌や喉の筋肉がいちばんゆるむのがレム睡眠で、無呼吸が集中しやすい時間帯なのですが、ここでのAHIが8.0回減っています。対照群は逆に7.0回増えていたので、差は15回分になりました。夜間の血中酸素の最低値も7.1%上がっています。
なぜ貝を吹くと喉が変わるのか
仕組みとして説明されているのは、気道まわりの筋トレです。
法螺貝は吹き込む息に強い抵抗がかかるうえ、音が鳴るときには喉や軟口蓋(上あごの奥のやわらかい部分)が細かく振動します。寝ているあいだに気道がふさがるのは、この周辺の筋肉がゆるんで落ち込むからなので、そこに負荷をかけて鍛えれば落ちにくくなる、という筋書きです。
この発想自体は新しくありません。2006年にBMJへ載った試験では、オーストラリアの管楽器ディジュリドゥを4か月吹いてもらったグループで、AHIが対照群より6.2回少なくなり、日中の眠気も下がったと報告されています。しかも対象は今回とまったく同じ、AHI 15〜30の中等症でした。息の抵抗と振動で喉を鍛えるという一点で、法螺貝とディジュリドゥは同じことをやっていることになります。
実際に吹くとどんな運動なのかは、音を聞くのがいちばん早いです。
腹の底から息を送り込まないと鳴らない楽器だというのは、見ればだいたい伝わると思います。
山伏の法螺貝とは、実は別の貝
ここで一つ、ややこしい点があります。
研究で使われたのはインドのシャンク(Turbinella pyrum)で、ヒンドゥー教の儀礼で吹かれる巻き貝です。一方、日本の山伏が背負っている法螺貝はホラガイ(Charonia tritonis)という別種で、インド洋から西太平洋のサンゴ礁にすむ巻き貝になります。どちらも「大きな貝に穴を開けて吹く笛」ですが、生き物としては別物です。
日本語の記事では両方まとめて法螺貝と訳されているので、山伏が吹いているあの貝そのもので試験をした、という話ではありません。ただ吹くときの動作は近いので、Xでは「これ山伏は無呼吸にならないってこと?」という当然の疑問が並びました。
反応は「音がうるさい」に集中した
盛り上がったのは効果の話より、生活音のほうです。
「法螺貝の音が聞こえたら山伏か睡眠時無呼吸症候群の人」という書き込みがあり、前に住んでいた家の近所に毎日法螺貝を吹くおじさんがいて本当にうるさかった、あれは治療だったのかもしれない、と過去を回収している人もいました。無呼吸ではないけれど法螺貝デビューを一瞬考えた、という反応も出ています。
たしかに、いびきの音量に悩んでいる人が昼間に法螺貝を吹き始めたら、家庭内の騒音の総量はあまり変わらない気もします。
国内で中等症以上の睡眠時無呼吸を持つ成人は940万人規模と推計される一方、実際に治療につながっている人はそのごく一部にとどまるとされています。いびきがうるさいと言われ続けているのに病院には行っていない、という人はかなり多いはずです。楽器で治すという話に食いつくより先に、まず一度検査を受けたほうが早い、というのが元も子もない結論になります。
それはそれとして、法螺貝は普通に売っています。趣味として気になった人は、近所迷惑にならない場所を先に確保してから探してみてください。