就活の面接に向かう途中で革靴の底が丸ごと外れた 久しぶりの一足が急に壊れる「加水分解」のしくみ
就活の面接に向かう途中で革靴が壊れた、という投稿が8月15日に出て、15万いいねを超えました。しかも片足ではありません。
写真の1枚目は、歩いている足元を見下ろした構図です。左足のソールがかかとのほうからべろりとめくれ上がり、靴の裏側の格子状の中身が丸見えになっています。2枚目はもっとすごくて、脱いだ靴が地面に置かれ、底が完全に外れて靴の中の地面が見えている状態。撮影者のもう片方の足は黒い靴下だけです。
靴箱で寝ていた靴ほど危ない
このタイプの壊れ方には名前が付いています。加水分解です。
靴底のクッション材によく使われるポリウレタンは、水や空気中の水分に触れると化学反応を起こして分子の結合がもろくなります。AKAISHIの公式サイトの説明では、その結果として剥がれ・ひび割れ・ベタつきが起きるとされ、目安は製造から5年以上。高温で水分がある状態だと進みが早くなります。
ワシントン靴店の解説はもう少し厳しくて、保存状況が悪ければ製造から3年ほどで始まることもある、と書かれています。しかも湿気がこもった靴箱に入れっぱなしにするのがいちばんよくない。ときどき履いて風を通すほうが長持ちするので、大事にしまっておいた靴ほど、いざ出番が来たときに崩れるという理屈になります。
就活の革靴、冠婚葬祭の靴、成人式で一度履いた靴あたりは、この条件にきれいに当てはまります。年に数回しか出番がなく、その数回は絶対に失敗できない日という、なかなかの巡り合わせです。
夏はもう一つ、接着剤のほうも弱る
季節も味方してくれません。
靴修理チェーンのクツショウテンはコラムの中で、夏の猛暑日にはアスファルトの路面温度が60℃以上になることがあり、この熱で接着剤が軟化・変質して接着力が大きく落ちると説明しています。素材が加水分解でもろくなっているところに、貼り合わせている接着剤まで熱でゆるむ。8月の炎天下を歩いて面接に向かうというのは、靴にとってはかなりの高難度ステージです。
同じコラムには、市販の瞬間接着剤で直そうとするのは向いていない、という話も出ています。靴底は歩くたびに曲がるのに、瞬間接着剤はカチカチに固まるので、その動きについていけずすぐ剥がれてしまうからです。接着面に古い接着剤や油分が残っている状態で貼るのも効きません。出先で応急処置をするなら、まず靴が脱げないように縛って歩き、後で修理店に持ち込むほうが結局は早いことになります。
「駅の中で剥がれて恥ずかしかった」
Xを見ていくと、同じ目に遭った人の投稿がいくつも出てきます。駅の構内で革靴の底がそっくり剥がれて人が多い場所で恥ずかしかった、仕事終わりに底がぱかっと外れた、スーツのボタンも取れるしつらい、といった具合です。ソールが真っ二つに割れて買い替えを検討している人もいました。
面接に向かう途中というタイミングの悪さも含めて、多くの人が自分ごととして反応したのだと思います。革靴を年に数回しか履かない層にとっては、明日の自分の話でもあります。
投稿した本人は、この状態で面接を受けることになったと書いていました。面接官にどう説明したのか、そこがいちばん気になるところです。少なくとも「本日は暑い中お越しいただき」の一言には、いつもより実感がこもったはずです。
しばらく履いていない革靴が家にある人は、面接や式の前日ではなく、今日のうちに一度出して底を曲げてみるのをおすすめします。壊れるときは、たいてい家の中ではなく道の途中で壊れます。