消費期限30分の「水信玄餅」を初日に3個おかわりした客、老舗・金精軒が全部引用リポストで見守る
持ち帰りができない和菓子がある。山梨県北杜市の金精軒がつくる「水信玄餅」で、消費期限は約30分。店頭で食べるしかないので、食べたければ店まで行くしかない。その水信玄餅を、販売初日に3個立て続けに食べた人がいた。しかも翌日も来た。
一部始終を見ていた金精軒の公式Xアカウントが、その投稿を1本ずつ引用リポストしていった一連のやり取りが、この8月にまたXで掘り起こされ、まとめ投稿が21万いいねを超えている。
1個目、その2、3個目
発端は5月30日。写真つきで「本日の水信玄餅」とだけ投稿したのは、@kei_an さん。透明な水の玉が舟形の器にのった、いつもの水信玄餅だ。
その30分後、同じ調子で「本日の水信玄餅 その2」。写真をよく見ると器も机も違う。別の店舗である。
そして約1時間20分後、「本日の水信玄餅 3個目」。今度は黒蜜ときな粉がしっかりかかっていて、横にコップの水が置かれている。
さらに翌5月31日、また「本日の水信玄餅」。土日の2日間で計4個である。
金精軒公式、1本ずつ引用リポストして反応する
これに気づいた金精軒の公式アカウントが動いたのは、週が明けた6月1日の朝だった。1本目には「ご来店誠にありがとうごさいます。一足早い夏の訪れを感じていただければ幸いです」と、まっとうな御礼。
2本目、店舗が違うことに気づいたらしく「本店に加え、支店にもご来店いただき大変ありがとうございます。金精軒一同、心より感謝申し上げます」。文面の丁寧さは保たれている。
そして3本目。ここで公式の敬語が一瞬ほどけた。
たった7文字。これが5万9000いいねを超えて、この一連で一番伸びた投稿になった。
「おかわり」への嬉しさが勝ってしまった
4本目の引用リポストで、金精軒はこう書いている。4回も食べた人になら「食べ過ぎだ」と言って笑い合うのもありかと考えたけれど、単純に「おかわり」への嬉しさが勝ってしまった、と。おかわりは食べ物を作っている人なら皆が喜ぶ魔法の言葉です、と続けて、最後は「本当にありがとうございました」で締めている。
Xでは「客も店も愛が重い」「本家がちょっと引いてるの草」「リポストに忙しい本店の金精軒さん」といった反応が並んだ。ドン引きと感謝が同時に成立しているのが、この一連の妙なところだ。
そもそも水信玄餅は簡単に4個食べられる菓子ではない
そう感じるのは、水信玄餅の売り方を知っているかどうかで変わってくる。これは通販もテイクアウトもない、店に行った人だけが食べられる菓子だからだ。
2026年の販売は5月30日から9月27日まで、しかも毎週金・土・日・祝日のみ。朝9時に販売開始し、なくなり次第終了。予約はツアー団体を除いて受け付けていない。買えるのは台ヶ原の本店と韮崎店(富士吉田店・湯村店は別メニュー)で、甲府駅前店では扱っていない。
つまり@kei_an さんが3個食べた5月30日は、2026年シーズンの販売初日そのものだった。初日に本店と支店をはしごして3個、翌日もう1個。金精軒が引用リポストを4連投したくなる気持ちもわかる。
消費期限30分の正体は、寒天をぎりぎりまで減らして白州の水を固めた構造にある。持ち上げるだけで崩れかけるほど柔らかく、時間が経つと自重で水が抜けてしぼんでしまう。だから店頭で食べるしかないし、だから毎年この時期になると山梨まで行く人が出てくる。
【追記】金精軒が自分で「なぜ30分なのか」を解説した
8月14日、金精軒の公式アカウントが「ご質問が多いので特徴を解説しました」として、手描きのイラスト4枚で水信玄餅のしくみを説明した。これが「水信玄餅」のトレンド入りにつながっている。
まず前提として、水信玄餅は海藻の成分、つまり寒天で水を固めた和菓子である。同じ理屈で水に溶かした餡子を固めれば羊羹になり、砂糖水だけを固めれば錦玉羹(きんぎょくかん)と呼ばれる和菓子になる。並べて説明されると、羊羹と水信玄餅が親戚だという事実がすっと入ってくる。
そのうえで金精軒が持ち出したのが、和菓子屋の内輪の言葉だった。
和菓子の世界には「泣く」という失敗がある
寒天菓子は配合を間違えると、時間が経つにつれて水分を放出することがある。しっかり固まっていたはずの羊羹から水が染み出してくる現象で、これを和菓子の用語で「泣く」という。菓子がべちゃべちゃになるので、当然ながら失敗扱いだ。
金精軒は続けて、菓子屋にとってゼリーなどの水菓子は本来「大量生産ができて日持ちもする便利なお菓子」だと書いている。そのうえで水信玄餅を、日持ちなど微塵も考えない、管理も面倒で繊細な水菓子だと言い切った。売り物としての効率をすべて捨てた設計だと、作った本人が認めている格好である。
解説の最後には、山梨まで来られない人向けの提案も添えられていた。地元の和菓子屋に「口の中で泣く錦玉羹を食べたい」とリクエストしてみてください、というものだ。用語さえ知っていれば通じる、という和菓子屋どうしの共通言語らしさがある。
そして4枚目、最後のコマがこれだった。「それはそれとして『きんつば』お勧めです。」
ここまで丁寧に自店の看板商品を解説しておいて、締めで別の菓子を推してくる。Xでも「水信玄餅もとても美味しくて他に類のない食感ではあるけど、それはそれとしてここのきんつばもとても美味しかった」「この際きんつばでもいい」と、実際に食べた人からの援護射撃が並んでいた。
夏の販売はまだ9月27日まで続く。3個いくかどうかはさておき、行ったら店の人にごちそうさまくらいは言って帰りたい。ついでにきんつばも買って帰ると、たぶん喜ばれる。