高校生が見つけた小惑星「ダイアンジ(Daianji)」、由来は自分の通う学校
自分の学校の名前が、そのまま宇宙に置かれることになった。岡山大安寺中等教育学校5年の藤井衣織さんが見つけた小惑星が9月7日、天文学の国際的な組織に新しい小惑星として認められ、「Daianji(ダイアンジ)」という名前で世界に発表された。由来は説明するまでもなく、藤井さんが毎日通っている学校である。
岡山放送(OHK)の取材に、藤井さんはこう話している。「この学校が好き。「ダイアンジ」と名前を付けることで天体に興味を持ってくれる人が増えたらすてき」。学校の名前を宇宙に持っていく理由として、これ以上ないほど素直だ。
火星と木星の間、地球から2億6000万キロ先にある
小惑星ダイアンジがあるのは、火星と木星の間。地球からの距離は2億6000万キロ。地球と太陽の距離(約1億5000万キロ)の1.7倍ほど離れたところにある。望遠鏡をのぞいて肉眼で追えるような相手ではない。
見つけたときの感想は「うれしさで飛び上がった。夢がかなったのかな」。幼いころに父親と行ったプラネタリウムで宇宙に興味を持った、というのが出発点だったらしい。
使った道具はパソコン、すばる望遠鏡の画像を市民が解析する「COIAS」
発見に使ったのは「COIAS」(コイアス)というアプリだ。名前は Come On! Impacting ASteroids! の略で、すばる望遠鏡が撮影した画像から太陽系の小天体を探せる。2023年7月に公開されていて、天文台の中に入らなくても、家のパソコンから未発見の天体を探せるのがこの仕組みのすごいところになる。
藤井さんは2年前、倉敷市のライフパーク倉敷科学センターで開かれたCOIASのワークショップに参加したのをきっかけに、画面の上での天体観測を始めた。そこから2年間で観測した小惑星は1万個以上。その先にダイアンジがあった。しかも一人で掘り当てたわけではなく、同じ天体を観測していた人たちと一緒に見つけている。学校の公式のお知らせでも「新小惑星を発見した一人となり」と書かれていて、COIASが市民天文学のプロジェクトであることがそのまま出ている。
とはいえ、パソコンでできる=簡単、という話ではないようだ。ワークショップを開いたライフパーク倉敷科学センターの三島和久学芸員は、OHKの取材に「画像の中からかすかに動く天体を見つけるのはかなり大変。天文学の知識がある程度ないと難しい。しっかり勉強して努力もしたはず」と話している。動いている点を画像の中から拾う作業を、2年間で1万個ぶん続けた結果ということになる。
COIASで名前が付いた小惑星は、これまで『恋する小惑星』づくしだった
ここが個人的にいちばん面白かったところだ。COIASで見つかって名前まで付いた小惑星は、すばる望遠鏡のトピックスで紹介されている時点で3つある。「(697402) Ao」「(718492) Quro」「(719612) Hoshizaki」。順に、漫画『恋する小惑星』の主人公の一人である真中あお、作者のQuro、作中の舞台になる高校の名前から取られている。作中でも主人公たちが見つけた小惑星に「Hoshizaki」と名付ける場面があるので、現実の命名がフィクションを追いかけた形になる。
つまりCOIAS発の小惑星の名前は、これまで作品の中から選ばれてきた。そこに今回、実在する学校の名前が並んだわけだ。
この流れを知っていると効いてくるのが、『恋する小惑星』の作者であるQuroさん本人の反応である。
「書店特典にしか名前が載ってませんが、偶然星咲地学部にも藤井さんがいて嬉しい」。作中の星咲高校地学部にも藤井という部員がいて、その名前が出てくるのは書店特典だけ、という話だ。現実で小惑星に学校名を付けた高校生と、作中の部員の名字がたまたま一致していたことになる。この投稿には1,800を超えるいいねが付いた。
小惑星に名前を付けるまでの道のりも、すばる望遠鏡側の説明を読むとけっこう長い。まず見つけた天体に仮符号が割り当てられ、長期間の追観測で軌道が正確に決まって確定番号が付く。そこまで来て初めて国際天文学連合(IAU)に命名を提案できる。しかも提案権は観測者のもので、COIASはすばる望遠鏡の戦略枠プログラム(HSC-SSP)のデータを使っているため、COIASの開発チームはHSC-SSPのチームに相談したうえで命名の許可を得ている。COIASには確定番号が付くのを待っている仮符号の天体が5000以上あるそうで、名前が付くところまでたどり着くのがどれだけ絞られるかがわかる。
ニュースが出た日、COIAS公式が「まずは閲覧モードで」と呼びかけた
報道が流れた9月16日、COIASの公式アカウントがこんな投稿をしている。
「小惑星「Daianji」でCOIASの事を知っていただいた新規ユーザー様へ。国際機関へ誤った測定データを送ると本サービスの停止につながります。誤測定防止のため、まずは閲覧モードで小惑星がどのような動きをするかご確認下さい。」このニュースで「自分でも探せるのか」と入ってきた人がいる、ということの裏返しでもある。測定したデータは国際機関に送られるので、いきなり本番でやると全体に迷惑がかかる。まずは見るところから始めてね、という案内だ。宇宙の話なのに運用の注意書きが出てくるあたりが、市民天文学という仕組みらしい。
学校の名前を宇宙に置いた話として
日本の宇宙まわりのニュースというと、H3ロケット9号機の打ち上げのような大きな話が目立つ。今回はそれとは逆で、科学センターのワークショップに参加した高校生が、パソコンの画面から星を見つけて名前まで付けたという話になる。
藤井さんが通う学校の三村美紀校長は「母校愛を感じた。学校生活を生き生きと楽しむ藤井さんらしい考えで、喜んでいる」とコメントしている。学校側の告知によると、9月11日にはテレビ局の取材も受けていたそうだ。
藤井さん本人の言葉はこうだった。「宇宙は遠い場所だけど、誰でも貢献できることがある。意外と近いのかも。いろんな人に宇宙の魅力を伝えられる仕事ができたらすてき」。火星と木星の間を回っている2億6000万キロ先の星に、岡山の学校の名前が付いている。その入口が特別な望遠鏡ではなくパソコンだったというのが、この話のいちばんいいところだと思う。