図書館の本の「強かな」に鉛筆で「力」と訂正、直した人のほうが間違っていた
図書館で借りた本のページに、鉛筆でこっそり書き加えられた一文字。誤字を見つけた誰かが親切に直しておいてくれた、ように見えて、実は直した側が間違っていました。
「か」に斜線を引いて、脇に「力」
投稿したのはXユーザーのさよのすけさん。借りた本に残っていた書き込みを撮影し、「誤字ではなく、そう読むんですよ」と静かにツッコんでいます。投稿は3.9万件を超えるいいねを集めました。
写っているのは「〜ないくらい強かなガッツ」という一文。その「か」の上に斜線が引かれ、右脇に小さく「力」と書き添えられています。つまり書き込んだ人は「強か」を「強力」の打ち間違いだと判断して、良かれと思って直したわけです。たしかに「強力なガッツ」でも意味は通りそうですし、「か」と「力」は字の形も近い。うっかり誤植だと思い込む気持ちはわからなくもありません。
ただ、元の本文は誤字ではありませんでした。
「強か」は「きょうりょく」ではなく「したたか」
「強か」と書いて「したたか」と読みます。粘り強くて簡単には屈しない、一筋縄ではいかない、という意味。「したたかな交渉相手」のように、手ごわさを評する場面で使う言葉です。「したたか飲む」「したたかに打ちつける」のように、程度がひどいさまを表す副詞としても使われます。
読めなくても仕方のない事情もあって、この「したたか」は表外読み、つまり常用漢字表の「強」の欄に載っていない読み方です。学校で習うのは音読みのキョウ・ゴウと、訓読みのつよい・つよまる・つよめる・しいるまで。「したたか」はそこに入っていないので、目にする機会が少ないまま大人になる人が多いのも当然といえます。
語源をたどると、手紙などを書く意味の「したためる」と同じ根を持つ言葉で、もとは「手抜かりがなく堅実だ」という意味だったとされます(Weblio辞書)。そこから「しっかりして強い」「そう簡単には制しがたい」へ意味が広がっていったわけで、「強」の字を当てたのも納得がいきます。ちなみに昔は「健か」とも書いたそうで、どちらも当て字です。
善意の訂正でも、図書館の本への書き込みはNG
投稿者が本題として釘を刺しているのはこちらです。たとえ本当に誤字を見つけたとしても、図書館の本に書き込みをしてはいけません。
多くの図書館が利用案内で書き込み・線引き・ページ折りを明確に禁止しており、池田市図書館はラインマーカーの使用まで名指しで挙げています。日進市立図書館のように、書き込み(落書き・線引き・印つけ)を水濡れや破れと並ぶ損傷として弁償基準に載せている館もあります。
さらに踏み込むと、法律上の話にもなります。岡山県立図書館がレファレンス協同データベースで回答しているところによれば、図書館資料への書き込みは民法709条の不法行為として損害賠償の対象になり得るほか、刑法261条の器物損壊罪に当たるものとされています。汚損が軽微なら責任が否定される場合もある、という但し書きは付くものの、「ちょっと直しておいてあげただけ」で済ませていい行為ではないということです。
今回は鉛筆書きだったのが不幸中の幸いで、投稿者も「まだしもですが」と書き添えています。ボールペンや蛍光ペンだったら、次に借りる人にも、その次の人にも消えない跡が残っていました。
気づいたことを書き残したくなったら、付箋かメモアプリに。それが本にも、あとから読む人にも一番やさしい方法です。しかも今回のように、直したつもりが自分の勘違いだったというオチも避けられます。