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通勤手当になぜ社会保険料がかかるのか、所得税は月15万円まで非課税なのに「報酬」に含まれる理由

2026年9月8日 ・ トレンド「通勤手当 社会保険料」より

定期券を買うために自分でお金を出して、その分が翌月の給与で戻ってくる。差し引きゼロのはずなのに、なぜか社会保険料の計算には乗っている。9月7日夜のXで、この話がえらく伸びた。

投稿は7日18時07分。「通勤手当って手当って名前やけど、実際は自腹で立て替えた交通費を払い戻してもらってるだけやん」から始まって、「定期代10万、通勤手当10万でプラマイゼロのはずが、そこに課税されてマイナスになるのほんま意味わからん」と続く。10万円という数字は説明用の例で、本人の実際の定期代だとは書かれていない。翌8日の夜時点で表示667.9万件、いいね7.7万、リプライ316件まで伸びていた。

リプ欄を眺めていると、話がややこしくなっている理由がだんだん見えてくる。同じ「通勤手当」なのに、税と社会保険で扱いが真逆になっているのだ。

社会保険は名前にかかわらず報酬に入れるので、通勤手当も対象になる

まず社会保険の側。日本年金機構のQ&Aに「標準報酬月額の対象となる報酬に、通勤手当は含まれるのですか。」という項目があって、答えは一行目からはっきりしている。「通勤手当は報酬に含まれます。」だ。

理由も同じページに書いてある。厚生年金保険法でいう報酬とは、「被保険者が事業主から労務の対償として支給されるすべてのものをいい、賃金、給料、手当などその名称にかかわらず対象になります」というもの。つまり法律側は「何という名前の手当か」をいっさい見ていない。働いた見返りとして会社から出ているお金なら、名札が交通費だろうが住宅手当だろうが全部まとめて報酬に入れる、という作りになっている。除かれるのは、3か月を超える期間ごとに受けるもの(賞与)と臨時に支給されるものだけ。

そのうえでQ&Aは「事業所の給与規定に定めのある通勤手当は、労務の対償として受けるものであると認められ、標準報酬月額の対象となる報酬に含まれます。」と結んでいる。ページの更新日は2016年9月6日なので、最近そうなったわけでもない。

6か月定期でまとめて渡されても、賞与にはならない

ここでひとつ抜け道っぽく見えるポイントがある。通勤手当は毎月ではなく、3か月・6か月の定期券としてどんと渡される会社も多い。さっきの「3か月を超える期間ごとに受けるものは除く」に当てはまりそうに見える。

ところが同じQ&Aが先回りして潰している。「支払上の便宜によるものと考えられるため、3カ月を超える期間ごとに支給される場合であっても『報酬』に含まれるものと取り扱われています。」。6か月分まとめて払うのは会社の事務がラクだからで、性質が賞与に変わったわけじゃない、という理屈だ。

所得税のほうは月15万円まで非課税で、向きが逆

一方、税の側はまったく逆を向いている。国税庁のタックスアンサーNo.2582「電車・バス通勤者の通勤手当」には、通常の給与に加算して支給する通勤手当や通勤定期券などは一定の限度額まで非課税、と書かれている。その限度額が、電車やバスだけで通勤している場合は1か月あたり15万円。15万円を超えたぶんだけが給与として課税される。

つまり冒頭の投稿にあった「定期代10万、通勤手当10万」のケースなら、所得税は1円もかかっていない。かかっているのは社会保険料のほうだ。税では原則ノーカウント、社会保険ではフルカウント。この2つが逆方向を向いているせいで、給与明細を見ても何が起きているのか読み取りにくくなっている。

ついでに細かいところでひとつ。新幹線や特急を使った通勤でも、その経路と方法が「最も経済的かつ合理的」に当てはまるなら運賃は非課税の通勤手当に含まれる。ただしグリーン料金だけは別で、経済的かつ合理的な通勤のための料金とは認められないため含まれない。座って通勤したい気持ちは、税制上は自腹という整理になっている。なお非課税の限度額は、パートやアルバイトなど短期間雇い入れる人についても月を単位にして計算する。マイカーや自転車通勤の場合は片道の距離などに応じて別の限度額が定められていて、こちらはコード2585のほうに載っている。

保険料が乗る数字は、もらう側の計算にも使われている

標準報酬月額は、保険料を出すためだけの数字ではない。もらう側の給付を計算するときにも、同じ数字が使われる。

厚生年金保険法第43条第1項は、老齢厚生年金の額を「被保険者であつた全期間の平均標準報酬額」の千分の5.481に被保険者期間の月数を掛けたもの、と定めている(e-Gov 厚生年金保険法)。平均標準報酬額のもとになるのは各月の標準報酬月額と標準賞与額なので、通勤手当で標準報酬月額が上がれば、そのぶん将来の年金の計算式にも乗ってくる。

健康保険のほうも同じ構造だ。健康保険法第99条第2項は、傷病手当金の額を「支給を始める日の属する月以前の直近の継続した十二月間の各月の標準報酬月額」を平均した額の30分の1の3分の2、と定めている。出産手当金は第102条第2項でこの計算をそのまま準用する(e-Gov 健康保険法)。病気で休んだとき、産休に入ったときに毎日いくら出るかも、標準報酬月額で決まっている。

数字を1つ置いてみる。通勤手当が乗ったことで標準報酬月額が2万円ぶん上の等級になったとすると、厚生年金の保険料率は18.3%、労使折半で本人負担は9.15%なので、本人が払う額は月1,830円、年で21,960円ほど増える。会社も同額を出している。逆に受け取る側は、その状態が12か月続いたぶんで老齢厚生年金が年1,315円ほど増える計算になる(2万円×5.481÷1000×12か月。再評価率を1とした単純計算)。年金は受け取っている間ずっと出続けるので、何年もらうかで見え方が変わる。

ちなみに標準報酬月額は等級で区切られていて、第1級の88,000円から段階的に上がっていく。報酬月額には幅があるので、通勤手当が乗っても等級が変わらず保険料が動かないこともある。健康保険料や介護保険料の料率は都道府県や組合で違うため、実際に増える額は人によってばらつく。

納得できない側と、制度の理由を挙げる側で意見が並んだ

リプ欄と引用は、きれいに割れていた。

納得できない側からは、通勤距離が長い人ほど効いてくるという方向に話が伸びた。投稿者本人もリプ欄で「謎すぎますよね、遠ければ遠いほど損っていう…」と返しているし、「立て替えなのに課税されるの謎ですよね。ほんと納得いきません」と書く人がいれば、「いっそのこと毎日リモートワークにした方がお互い得じゃない?」と出社そのものを疑う人もいた。

一方で、制度の側に理由があるという指摘も並んだ。「もし仮に社会保険料がかからなかったら、基本給を下げて通勤手当を上げるという会社が多くなると思うけど、そうなると賞与も割増賃金の単価も下がることになる」という声や、「実際の交通費は5000円だけど、社会保険料を減らすために、8万円支給しようとする会社が出てくるので不正対策で含めるのではないでしょうか?」という推測。通勤手当が報酬から外れると、そこに給与を寄せるインセンティブが生まれてしまう、という読みだ。引用のほうには「所得税と社保を混同してる人が一定数いるな」「所得税にはカウントされないけど社保にはカウントされるよ」と、2つの制度を分けて整理する人もいた。

給付とセットで見る意見もあった。「出産手当金とか厚生年金は増えるかもって知ると、単純に損とも言えないのかなとも思う」。上で見たとおり、標準報酬月額は受け取る側の計算にも使われているので、この見方も筋は通っている。

税は月15万円までカウントせず、社会保険は名前を見ずに全部カウントする。同じ通勤手当を見ているのに、2つの制度が反対を向いている。この非対称が、給与明細を眺めた人の頭に毎月「?」を浮かべさせている正体だった。あなたの明細だと、通勤手当はいくら乗っているだろうか。

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