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保育園の「お散歩カー」が電動アシストに、ヤマハ「てくてくスワニー」は坂道が10分の1の力

2026年8月19日 ・ トレンド「てくてくスワニー 電動アシストお散歩カー ヤマハ 五十畑工業 保育園 避難車」より

散歩の時間になると、園児を何人も乗せた箱型のカートが保育士に押されて歩道を進んでいく。街でよく見るあの乗り物には「お散歩カー」という名前がついていて、子どもが乗ればあっさり数十kgになります。押している人が坂道でどれだけ踏ん張っているかは、すれ違うだけだとまず気づきません。

そのお散歩カーを電動アシスト化した製品が発表されました。ヤマハ発動機グループのヤマハモーターエンジニアリング(YEC)と、ベビーカーの老舗・五十畑工業の共同開発です。正式名称は避難車兼用電動アシストお散歩カー「てくてくスワニー」。受注は9月から始まります。

70kgを積んだ坂道で「今までの10%」

試走が行われたのは7月下旬、神奈川県横浜市保土ヶ谷区のゆめの樹保育園ほどがやです。園児が乗った状態を想定して約70kgの重りを積み、園の前にある急な坂道を実際に押してみる、という形でした。

押した女性保育士のコメントが具体的で、「自分の体と一体になって動いてくれて今までの10%くらいの力で動かすことができました。足腰の疲労がかなり軽減しそう」。ゼロにするのではなく、押している感覚は残したまま重さだけ抜く、という電動アシストらしい効き方をしているのが分かります。

同園ではこれまで手動のお散歩カーを使っていて、子どもを乗せて何十kgにもなるカートを保育士の力だけで動かしていました。保育の仕事の中でもとりわけ身体的な負荷が高い作業だったといいます。

中身は消防車から降りてきた技術

意外なのは技術の出どころです。YECはもともと、消防向けの電動アシストホースカーを作ってきた会社でした。火災現場で消防車から前線までホースを延ばすための台車で、ホースは重いうえに何本もつなぐと人力では引ききれない。そこにモーターのアシストを入れる、という製品です。

YEC事業企画推進部の光主侑一郎さんは、参入の理由を「社会インフラを支える人たちの困りごとを解決したいという想いで活用先を検討する中、人手不足が深刻化し、その業務負荷の軽減が求められている保育業界に注目しました」と説明しています。

ただし、火事に向かうホースカーと園児を乗せたお散歩カーでは、求められるものが正反対です。消防用が「速く動くこと」を重視するのに対して、お散歩カーで追ったのは保育現場の誰が押しても「簡単に操作できる」こと。2年半かけて保育士へのヒアリングを重ね、試作車を6台作って詰めていったそうです。

五十畑工業にとっては10年ぶりの再販

もう一方の五十畑工業は、東京都墨田区向島にある創業昭和2年(1927年)の会社です。大型乳母車と介護用品を作り続けてきて、幼稚園や保育園で使われる中型・大型の乳母車が、いま「お散歩カー」「避難車」と呼ばれているものにあたります。製品名の由来もはっきりしていて、同社のラインナップには「スワニーSS」という4〜8人乗りのシリーズが以前からあります。てくてくスワニーは、その現行のお散歩カーに電動アシストユニットを載せた格好です。

ヤマハ発動機の広報担当者によれば、今回の共同開発の背景には「かつて販売していた電動お散歩カーを再び世に届けたい」という五十畑工業の思いがありました。つまりこれは新発明というより、10年ぶりの復活です。一度は市場から消えた電動お散歩カーを、消防で電動アシストを磨いてきた会社と組んで作り直した、という話になります。

試作品の評価に協力したゆめの樹保育園ほどがやの佐々木真由美施設長は「保育園に何度も足を運んでいただき、私たちの声をしっかりとくみ取った製品を作っていただけました。使い勝手だけでなく、保育士や子どもたちの安心・安全にも配慮されていると感じています」とコメントしています。

「避難車兼用」がついている理由

正式名称に入っている「避難車兼用」も見落とせないところです。保育園のお散歩カーは、平常時は散歩の足ですが、火災や地震のときには自分で速く歩けない0〜2歳児をまとめて園外へ運び出す避難用の車両でもあります。五十畑工業のお散歩カーが防炎シートとノーパンクタイヤを標準装備しているのも、そこを想定しているからです。

その避難車が電動アシストになるということは、非常時に一人の保育士が動かせる子どもの数と距離が変わるということでもあります。日々の坂道の話であると同時に、災害時の話でもある、というのがこの製品の位置づけです。

「なぜ今までなかったのか」

発表後の反応で目立ったのは、驚きより先に来る納得でした。「確かに!なぜ今までなかったのか不思議なくらいだ」「ゆるやかな上りや下りの歩道あるよね。細かい段差もあるし」と、押す側の苦労に思い当たる声が並んでいます。保育関係とみられるアカウントからは「初めて見た電動カート。確かに坂道が多いと大変だよね」という反応も出ていました。

名前そのものを気に入る人もいて、「てくてくスワニーって名前もいいな。てくてくは好きなワード」。すれ違うたびに癒やされている側からは「あのお散歩カー大好きなんだよね。オフィス街のなかで保育園のお散歩とか出くわしちゃうとメロメロ」という、いつもの感想も見えました。

価格や定員といった細かい仕様はまだ公表されていません。受注が始まるのは9月です。次に街でお散歩カーとすれ違ったとき、押している人の手つきが軽いかどうか、つい確かめてしまう気がします。