← 一覧へ どうぶつ

ヒトデを掲げるカニの正体は「オオホモラ」、葛西臨海水族園の見せびらかしが9万いいね

・ 更新
水槽の岩の上で長い脚を広げて立つ深海ガニのオオホモラ
画像: オオホモラ(CC0 / タウナギ, via Wikimedia Commons)

水族館のガラスに、カニがヒトデを掲げてぐいぐい近づいてくる。そんな一枚が9万いいねを超えて広まっている。

投稿者は「カニっぽい生き物がヒトデを見せびらかしてくれたのでみんなにも見せてあげるね」とだけ書いているが、写真を見れば言いたいことはわかる。ヒトデを両手(正確には脚)でしっかり抱え、ガラス越しにこちらへ突き出してくる姿は、どう見ても自慢だ。リプライには「自慢してるみたい」「筋トレかな」「ライオンキング思い出す」と、擬人化して楽しむ声が並んだ。

正体は「オオホモラ」、実は身を隠すための行動

この生き物は葛西臨海水族園にいる「オオホモラ」という深海性のカニの仲間。飼育担当者によると、オオホモラは第4歩脚を器用に使って貝殻や海綿を背中に背負う習性があり、これは自分の姿を隠すためだと考えられているという。今回のようにヒトデを掲げて堂々と近づいてきたのは、狙って見せびらかしたわけではなく、たまたまその行動がこちらを向いただけの可能性が高いらしい。カニ本人(?)に自慢する気があったかは不明だが、結果的にとんでもない愛嬌になっている。

深海230mの「運び屋ガニ」だった

オオホモラは学名 Paromola japonica、ホモラ科の深海ガニだ。相模湾から土佐湾、種子島、ハワイ諸島にかけて分布し、記録されている生息水深は230〜370mあたり。甲長は14cmほどで、脚を含めるとかなりの大きさになる。英名は Japanese deepwater carrier crab、つまり「運び屋」だ。背負う習性がそのまま名前になっている。

背負うのに使う脚は先が鉤のようになっていて、物をつまんで背中側に固定するのに向いた形をしている。海底でじっと動かず、上から見ると海綿の塊にしか見えない、というのが本来の姿だ。今回はその「背負う対象」がたまたま生きたヒトデで、しかもガラスの正面を向いていた。

ヒトデ側にはちょっとした迷惑にもなっている

かわいい話で終わらないのが面白いところで、この習性はヒトデにとって歓迎できるものではないようだ。同じ話題を引用した投稿では「生体を捕まえて掲げるからヒトデ達が弱ってしまい、代わりになる模型を入れても生体のヒトデを捕まえてしまって困ってるらしい」と紹介されている。

つまり水族館側は身代わりの模型ヒトデを用意してみたものの、オオホモラは本物にしか興味を示さず、結局生きたヒトデが弱ってしまう状況が続いているというわけだ。カニの背負い癖ひとつで、裏では飼育スタッフがヒトデの入れ替えに追われているのかもしれない。

ヒトデを掲げるカニは6月にも目撃されていた

「ヒトデを掲げるカニ」「ヒトデを見せびらかすカニ」が話題になったのは、実は今回が最初ではない。Jタウンネットの記事によると、深海魚専門アパレルブランド「Lavca.m」の公式Xアカウントが2026年6月20日、葛西臨海水族園で撮ったオオホモラの写真と動画を投稿している。撮影は6月11日のお昼ごろで、ヒトデを担いだオオホモラがじわじわガラス際まで寄ってきたそうだ。こちらも52万4000件を超える表示と1万1000件を超えるいいねを集め、「見て見てって自慢してるみたい」「見せたいお年頃」「ファンサ!」といった声が付いていた。

同じ記事で、葛西臨海水族園の飼育展示係・野口文隆さんが習性を説明している。オオホモラは水深200〜600メートルの深海にすむカニで、一番後ろの「第4歩脚」を使って貝殻や海綿などを背負う。

「海底に貝殻などの物があると背負うことがあります。一般的には自分の身を隠すためだと考えられています」(野口さん)

いつもヒトデを持ち歩いているわけではなく、何も背負っていない時もあるという。人に向かってヒトデを掲げてくるのも、狙った行動ではなく偶然の可能性が高い。去年の9月ごろにもヒトデを背負う姿が見られていたが、同じ個体かどうかは確認できていないそうだ。水族園ではヒトデの状態を随時チェックしている。

新江ノ島水族館のオオホモラも、ヒトデをボロボロにしていた

背負いグセで同居の生き物が困る話は、葛西だけのものではない。新江ノ島水族館の飼育員ブログ「えのすいトリーター日誌」には、オオホモラの背負い遍歴が何度か出てくる。

2018年9月の回では、背負えるものを水槽に入れていなかった時期に、オオホモラが同居のナマコを背負って傷つけてしまった。流木を入れてみると翌日には背負い始め、大きめの木より小さいかけらのほうがお気に入りになったという。背中側の脚は上に反り返っていて、先がカギのような形。物を挟むのに向いた作りだ。

2019年3月の回では、オキナマコ、流木、ウチワエビと背負ってきたオオホモラが、ついに同居のヒトデ(ニチリンヒトデの仲間)を持つようになった。ところが掴む力が強すぎて、小さいヒトデから1匹ずつボロボロになってしまったそうだ。背負えないサイズの大きいヒトデには手を出していない、とも書かれている。

葛西でも「ヒトデが弱ってしまう」という話が出ていたのは上で紹介したとおり。ガラス越しに見るとファンサービスでも、水槽の中ではわりと切実な問題になっている。

見に行くなら背後にも注目

葛西臨海水族園は東京・江戸川区にある都立の水族園で、マグロの群泳水槽が有名だが、こうした小さな水槽にも観察していて飽きないネタが転がっている。次に訪れる人は、堂々とヒトデを掲げたカニに遭遇できるか、それとも今度は模型を背負っているのか、確かめてみるのも面白そうだ。

広告