日本でバニラを作る人がいた。“国産バニラ”の青い莢が美しいと話題、99%輸入の高級スパイスに挑む長崎の農業ベンチャー
アイスにプリンに焼き菓子に。あまりに身近な「バニラ」ですが、その正体をきちんと思い浮かべられる人は意外と少ないかもしれません。バニラはランの仲間の植物で、あの甘い香りは細長い“莢(さや)”からつくられます。そんなバニラを、なんと日本国内で育てている人がいる。そのことを教えてくれる一枚が、Xで話題になりました。
きっかけは「国産◯◯でバズりたい」
投稿したのは、長崎で国産バニラを専門に手がける農業ベンチャー、株式会社アイベジの代表・中島健吾さん。老舗マッチメーカーの「国産マッチでもバズりたい」というつぶやきに、「国産バニラもバズらないかな」と乗っかる形で、自社ハウスのバニラの写真を投稿しました。
写っているのは、ビニールハウスの中でつるから幾筋も垂れ下がる、青々としてつやのある莢。私たちがよく知る黒くて細いバニラビーンズとはまるで別物のみずみずしさで、「これがバニラ!?」「完全にインゲンかと思った」と驚きの声が集まりました。じつは市販のあの黒い姿は、収穫後に長い時間をかけて“熟成・加工”されたあとの姿。この青い莢こそ、バニラの生の姿なのです。
バニラは、とにかく手がかかる
バニラが「サフランに次ぐ高級スパイス」と言われるのには理由があります。とにかく育てるのが大変なのです。まず、花が咲くのは早朝のわずか2時間ほどだけ。しかも自然にはほとんど受粉しないため、その短い時間に人の手で一つひとつ受粉させる、時間との勝負を強いられます。
さらに、苗を植えてから実がなるまでには通常3〜5年。収穫できるのは熟す前の青い莢で、そこから約9か月ものあいだじっくり熟成させ、「キュアリング」と呼ばれる加工を経て、ようやくあの甘い香りが立ちのぼります。完熟を狙いすぎると莢が裂けて規格外になってしまうなど、最後まで気の抜けない繊細さ。手間の塊のような作物なのです。
「99%輸入」の市場に、日本から挑む
日本で流通するバニラの約99%は、マダガスカルなどからの輸入品だとされています。そんななか、アイベジは長崎県の気候を生かし、日本が得意とする胡蝶蘭(コチョウラン)の栽培技術をバニラに応用。独自の工夫で“翌年に花を咲かせる株”を育てるなどして、参入のハードルが高いバニラ栽培に挑んでいます。AIやIoTを取り入れたスマート農業にも取り組み、ハウス食品グループと資本業務提携を結ぶなど、その挑戦は着実に広がっています。自社ブランド「バニラビレッジ」は、楽天のバニラビーンズ部門でランキング上位を重ねるほどの人気ぶりです。
何気なく口にしている「バニラ味」の裏側に、早朝の受粉から数年がかりの栽培まで、これほどのドラマが隠れているとは思いもしませんでした。次にバニラアイスを食べるとき、あの青い莢と、日本のどこかで奮闘する生産者の姿を、ちょっとだけ思い出したくなります。国産バニラの取り組みについては、株式会社アイベジの公式サイトやマイナビ農業の記事で詳しく知ることができます。