甲子園でボールが消えた。遊撃手のユニホームに打球が入り込んだ珍事、ルールはどこに書いてあるのか
打球を体で止めた。よし、と拾いに行ったらボールがない。足元にも、後ろにも、どこにもない。
8月9日の甲子園でそんな場面があって、スタンドも中継の前も一瞬ざわつきました。ボールは、止めた本人のユニホームの中に入っていたのです。
9回裏2死、ショートの胸元でボールが行方不明になる
舞台は第108回全国高校野球選手権の1回戦、中京(岐阜)と霞ケ浦(茨城)の試合です。霞ケ浦が6対3とリードして迎えた9回裏、あとアウトひとつという場面でした。
中京の竹内湊人が放った打球がショートへ。ところがこれがイレギュラーして跳ね上がり、霞ケ浦の遊撃手・加藤龍の鎖骨のあたりを直撃します。1年生です。
普通なら足元に落ちるはずのボールが、そこにない。加藤は地面を見回したあと、自分の胸元をまさぐり始めます。アンダーシャツとユニホームの間にすっぽり収まっていました。当然そこから投げられるはずもなく、記録は遊撃内野安打。試合はその後きっちり抑えて霞ケ浦が勝っています。
本人は試合後、「ボールがなくなったので慌てました」と振り返っていました。慌てないほうが難しい話です。
「打球がユニホームに入ったら」は公認野球規則に書かれていない
この日の裁定は、審判が即座にタイムをかけて打者走者に一塁を与える、というものでした。見ていて納得感はあるものの、では規則のどこにそう書いてあるのかという話になります。
その場でルールを調べた人がいて、答えがなかなか意外でした。公認野球規則には、打球が野手のユニホームに入り込んだ場合の直接の条文がないのだそうです。
実際の処置が載っているのは『野球審判員マニュアル』のほう。全日本野球協会のアマチュア野球規則委員会が編集している市販の本で、公認野球規則とは別の出版物です。ルールブックを最後までめくっても出てこないわけです。
ついでに広まりがちな誤解もひとつ。この手の場面は「全員に安全進塁権1個」と紹介されることがありますが、そう決まっているわけではありません。走者を進めるか、その塁に留めるかは審判員の判断になります。この日は2死走者なしだったので、打者走者だけが一塁に進みました。
ベンチにも同じ経験をした人が座っていた
いい話はここからです。霞ケ浦の大高直人部長が、実は同じことを経験していました。
2000年のセンバツ、竜ケ崎一の捕手として甲子園に立っていたときのこと。浜風に流されたフライを追いかけているうちに体勢が崩れ、ボールがユニホームとプロテクターの間に入り込んだそうです。「浜風に打球が流されて、体勢が崩れてボールが転がっていくのが見えました」と本人が語っています。
面白いのはその結末で、こちらは捕球と認められてアウトになりました。26年の時を挟んで、同じ甲子園で、入った場所が違うだけでアウトとヒットに分かれたことになります。
甲子園には毎年なにかしら語り草になるプレーが出ますが、ルールブックに載っていない部類のものが出てくるのは、そうそうありません。加藤は1年生なので、まだ二度も三度もチャンスがあります。次は普通に捕ってほしいところですが。