妊娠検査にウサギを使っていた時代、「うさぎが死んだ」が陽性を意味しなかった理由
8月21日の「バニーの日」に合わせて、こんな投稿が4万9000件以上のいいねを集めていた。昔の妊娠検査にはウサギが使われていて、検査1回につき1匹が死んだ、という話だ。
盛った話に聞こえるが、これは本当にあった検査方法だ。しかも英語には、この検査に由来する言い回しがいまも残っている。
尿を注射して、2日後に開ける
きちんと名前のついた検査で、1931年にペンシルベニア大学のモーリス・フリードマンとマクスウェル・ラパムが開発した。フリードマン法、または単にラビットテストと呼ばれる。
やり方はかなり物理的だ。検査を受ける女性の尿を、メスのウサギに注射する。2日ほど置いてからウサギを開腹し、卵巣を見る。妊娠していれば尿にhCGというホルモンが含まれていて、その作用でウサギの卵巣が腫れたり黄体ができたりする。その変化があるかどうかで判定していた。
原理はその4年前、1927年にアシュハイムとツォンデクが発表した検査の応用で、そちらはマウスを使っていた。フリードマンたちがやったのは、要するに動物をマウスからウサギに替えたことだった。仕組みそのものはほとんど同じで、判定に使う生き物だけが入れ替わっている。
そして精度は悪くない。もとになったアシュハイム・ツォンデク法で、誤判定は2%未満とされている。棒に尿をかけて2分待つのに比べれば手間はかかるが、判定としてはちゃんと当たっていた。
「うさぎが死んだ」の意味が、そもそも間違っている
英語圏には 「The rabbit died」(うさぎが死んだ)で「妊娠した」を伝える言い回しがある。映画や小説の妊娠発表シーンで出てくる、あれだ。
つまりこの慣用句は、当時の人が検査の仕組みをふんわりとしか知らないまま定着させたものになる。冒頭の投稿にあった「検査一回ごとに一匹死ぬ」のほうが、実態としては正しい。
次に選ばれたのはカエルだった
ウサギを毎回1匹使い潰すやり方は、当然ながら長くは続かなかった。次に主役になったのがカエルだ。
アフリカツメガエルに尿を注射すると、妊娠していれば24時間以内に産卵する。産んだかどうかを外から見るだけで判定できるので、開腹する必要がない。同じカエルを何度も使えるということでもある。オスのカエルを使って精子の放出で判定するマイニニ反応もあり、日本の産婦人科ではこちらのカエルによる検査が知られていた。
その後、hCGを抗体で直接検出する免疫学的な検査が実用化され、1970年代には家庭で使える妊娠検査薬が登場する。日本で薬局に並ぶようになったのは、そこからさらに遅れて1990年代に入ってからだ。1990年に医師になったという東邦大学の産婦人科医のブログにも、当時はまだ一般発売が認められていなかったと書かれている。
100年でここまで来た
整理すると、判定の道具はマウス、ウサギ、カエル、そして紙の検査薬という順に変わってきた。生き物1匹を2日かけて開腹していた検査が、いまは薬局で数百円のスティックになって、2分で終わる。
バニーの日にする話としてはやや重たいけれど、ウサギがそういう形で医学の役に立っていた時代が、そんなに昔ではないというのは覚えておいてもいい気がする。