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石垣島の森で植物のタネを運んでいたのはオカヤドカリだった 背負った貝殻に果実が100個以上ついていた

2026年8月15日 ・ トレンド「オカヤドカリ 種子散布 リュウキュウツチトリモチ 神戸大学 末次健司」より

植物のタネを遠くまで運んでもらう仕事は、だいたい鳥か哺乳類の担当だと思われてきました。実を食べて、飛んで、フンをする。教科書に載っているのもたいていこの流れです。ところが石垣島の森で夜通し張り込んだ研究チームが見つけた運び屋は、貝殻を背負ってのそのそ歩くあいつでした。

主役は「光合成をやめた植物」

舞台になったのは石垣島の常緑林です。そこに生えているリュウキュウツチトリモチは、見た目がほとんどキノコで、実際に初見で植物だと当てられる人はまずいません。ツチトリモチ科の寄生植物で、自分では光合成をせず、ほかの植物の根に取りつつ栄養をもらって暮らしています。

やっかいなのはタネの運び方です。この植物がつける果実は長さ約0.3mm。米粒どころか、砂粒より小さい。それを大量に、地面すれすれの高さでつけます。風で飛ばすには重く、鳥に見つけてもらうには地味すぎる。誰がどう運んでいるのかが長らく謎のままでした。

昼も夜も張り込んで、90時間

調べたのは神戸大学大学院理学研究科の末次健司教授です。石垣島の森で昼夜を通じて直接観察し、あわせてインターバルカメラで約90時間ぶんを撮影しました。

そこに頻繁に映り込んでいたのがオカヤドカリでした。ハサミを器用に使って果実や肉質の部分を食べ、ときには複数の個体が1株にたかっている。要するに、この植物にとってのお得意様だったわけです。

食べたあとが面白いところで、果実を食べた個体を調べると、ハサミにも体の表面にも、そして背負っている貝殻にまで果実がびっしり付いていました。平均で数十個、多い個体では100個を超えます。しかも株から5m以上離れた場所を歩いている個体にも付着が確認されました。フンに混じって出てきたタネにも生きているものがありました。

つまりオカヤドカリは、食べて運ぶ役と、体にくっつけて運ぶ役を兼務していたことになります。引っ越し屋が引っ越し屋らしい働きをしている。

「地味な生き物」の担当範囲は思ったより広い

種子散布の研究では、目立つ動物ばかりが調べられてきた歴史があります。鳥、コウモリ、サル。地面を這う無脊椎動物は、そもそも候補として見られていませんでした。末次教授はこれまでにもカマドウマが光合成をやめた植物のタネを運んでいることを突き止めていて、今回はそこにヤドカリが加わった形です。

考えてみると、島の森でオカヤドカリはとにかく数がいます。夜になると落ち葉の下からわらわら出てきて、あちこち歩き回る。小さくて地面に落ちている果実を、根気よく拾って移動させる係としては、これ以上ないくらい向いています。

貝殻ごと引っ越すので、種も引っ越す

この話でいちばん想像すると楽しいのが、貝殻に付いたタネの行方です。オカヤドカリは成長にあわせて宿を替えます。古い貝殻を脱ぎ捨てて、別の貝殻に入り直す。そのときタネが付いた貝殻は森のどこかに残され、次の住人がまた別の場所へ運んでいく可能性もあります。

論文は石垣島の1種を扱ったものなので、これがどこまで一般的な現象なのかはこれからの話です。それでも、海辺のイメージが強いオカヤドカリが森の奥で植物の運命を左右していたというのは、なかなか気持ちのいい発見だと思います。沖縄や離島に行く機会があったら、夜の林道でカサカサ動いているやつの貝殻をちょっと覗いてみてください。