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奥穂高で雷鳥が目の前で堂々と砂浴び、人を怖がらない理由は“信仰と狩猟禁止の歴史”だった

2026年8月7日 ・ トレンド「雷鳥 人を恐れない理由 奥穂高岳 砂浴び」より

北アルプス・奥穂高岳で雷鳥に遭遇した登山者が、思わず変な声を出してしまった動画が伸びている。逃げるでも警戒するでもなく、目の前でくつろぎ始めたからだ。

投稿したのは「デオキシリボ助さん」(@Salvare036)さん。「奥穂で見かけた雷鳥さん、目の前でグリグリと砂浴びを始めたので、思わず『おっ…ふ』と気持ち悪い声が出てしまいました」というコメントの通り、動画では雷鳥が羽を広げて地面に体をこすりつけ、無心で砂まみれになっている。標高3000mの岩場で、これだけ人に構わず寛いでいる野鳥はなかなかいない。

砂浴びは雷鳥にとっての入浴タイム

砂浴びは水浴びと同じ、羽根の手入れの一種だ。羽の隙間に砂を入れ込んでこすることで、余分な脂やダニなどの寄生虫を落とす効果があるとされる。水場の少ない乾燥した環境で暮らす鳥に多い行動で、ヒバリやキジ、そして雷鳥もこの砂浴び派に入る。つまりこの動画は、たまたま人前で毛づくろいに遭遇したというだけの話で、雷鳥にとってはごく普通の日課だったわけだ。

なぜ雷鳥は人を見ても逃げないのか

この動画には「なんか雷鳥って人間のこと仲間だと思ってるよね。猛禽類に追われたら人間の後ろに隠れるらしい」という声も寄せられていた。実際、日本の雷鳥が人に慣れているのは偶然ではない。

高山は古くから信仰の対象で、明治期以前の登山はほとんどが修験者による宗教的な行いだった。人と出くわす機会自体が少なく、しかも山に棲む生きものを大切に扱う文化があったため、雷鳥は人間を天敵だと学習する機会がなかった。明治時代に一時乱獲された時期はあるものの、その後すぐに狩猟法で保護鳥に指定され、捕獲が禁じられている。国の特別天然記念物にも指定されている、正真正銘の保護動物だ。

信州大学名誉教授で雷鳥研究の第一人者・中村浩志氏の著書『雷鳥が語りかけるもの』でも、この人馴れの背景が詳しく解説されている。

海外の雷鳥は人を見たら即逃げる

一方、雷鳥自体は日本だけの鳥ではない。北極圏を中心に広く分布し、氷河期を生き延びて日本の高山に取り残されたのがニホンライチョウという亜種だ。海外の個体群は今も狩猟対象になっている地域が多く、人の姿を見ると当たり前のように逃げる。同じ種でも、人間との歴史がまったく違う道を歩んできた結果、こんなにも警戒心に差が出ている。

信仰で守られ、狩られたことがないから怖がらない。奥穂高の稜線でのんびり砂浴びする姿は、ただかわいいだけでなく、そういう歴史の積み重ねの上に成り立っている光景でもある。夏山シーズンに北アルプスへ登るなら、足元にも視線を配ってみると、こんな瞬間に出くわせるかもしれない。