「うるう時間」2027年5月に導入へ。1分が“61秒”になる「うるう秒」は実質廃止、次は1時間ずれるまで放置する
「8時59分60秒」。時計にこんな表示が出たら、故障を疑いますよね。ところがこの“ありえない時刻”、じつは過去に何度も、正真正銘の正しい時刻として実在しました。1分がまるまる 61秒 になる日があるのです。その正体が、数年に一度こっそり足される「うるう秒」。そして今、この不思議な1秒が2035年までに廃止されることが決まっています。さらに2026年8月24日、その後釜として「うるう時間」を2027年5月に導入する方向で議論が進んでいると報じられました(くわしくは記事後半の追記で)。
まずは、実際に「8時59分60秒」が刻まれた瞬間を、こちらのニュース映像でどうぞ。
タネ明かし①:世界には“2種類の時間”がある
なぜ、こんな変な秒が必要なのか。カギは、世界に「2種類の時間」があることです。
ひとつは、地球の自転をもとにした時間(天文時)。太陽が昇って沈む、私たちの生活の感覚に沿った時間です。もうひとつが、原子時計をもとにした時間(原子時)。セシウム原子の振動を数える、けた違いに正確な時間です。
問題は、この2つが少しずつズレていくこと。じつは 地球の自転は一定ではなく、潮の満ち引きなどの影響でごくわずかに“ゆらいだり遅れたり”しているのです。かたや原子時計は正確そのもの。時計としては正確な原子時を使いたいけれど、生活のリズム(昼夜=自転)ともズレてほしくない。そこで、両者のズレが0.9秒を超えそうになったら、1秒を足して帳尻を合わせる。これが1972年から続く「うるう秒」の仕組みです(くわしくはNICT(情報通信研究機構)の解説が親切です)。
うるう秒は、世界の基準時刻(協定世界時)の切りのいいタイミングで挿入されます。そのため日本では、たとえば2017年1月1日には「8時59分59秒 → 8時59分60秒 → 9時00分00秒」という、めったに見られない並びが刻まれました。
タネ明かし②:便利な調整のはずが、“やっかいもの”に
この、うまくできた仕組みが、なぜ廃止されるのか。理由は、現代のデジタル社会にとって「予定外の1秒」が危険すぎるから。
コンピューターやネットワークは、時刻がなめらかに進むことを前提に動いています。そこに突然、通常は存在しない「60秒」という不連続な1秒が割り込むと、システムが混乱してしまう。実際、過去のうるう秒では、通信・IT・金融システムなどで障害が相次いで発生してきました。衛星ナビゲーションや通信、電力といった重要インフラで深刻な誤動作を招くリスクがある。そう判断され、2022年の国際度量衡総会で「2035年までにうるう秒を廃止する」ことが決議されました(Natureダイジェストの記事ほか)。正確さのために生まれた1秒が、正確に動くシステムの敵になってしまった、というわけです。
ボーナスへぇ:次は“1秒消える”かもしれない
さらに面白い(そしてややこしい)話があります。ここ数年、地球の自転はむしろ“速く”なっているのです。これまでのうるう秒は、自転が遅い分を「足す」ものばかりでした。ところが自転が速まると、逆に 時間が余ってしまい、史上初めて“1秒を引く”必要が出てくるかもしれない、と指摘されています。
これがいわゆる「負のうるう秒」。もし実施されれば、日本時間では「8時59分58秒 → 9時00分00秒」と、「8時59分59秒」がまるごと消えることになります。61秒の1分どころか、今度は59秒しかない1分です。廃止が決まった制度の“最後っ屁”として、こんな珍事が起きる可能性があるというのですから、時間の世界はなかなか一筋縄ではいきません。
ふだん当たり前に流れていると思っている「1秒」も、じつは地球の機嫌とにらめっこしながら、人の手で細かく調整されてきた。次に年をまたぐ瞬間、そんな“時間の裏側”をちょっと思い出してみると、いつものカウントダウンが少し違って見えるかもしれません。
追記(2026年8月24日):後釜は「うるう時間」、1時間ずれるまで直さない
うるう秒の廃止だけが決まって、「じゃあ、そのあとどうするのか」は長らく白紙でした。その答えがようやく見えてきました。共同通信は8月24日、世界の標準時と地球の自転による時刻のズレについて、1時間までズレを許容する「うるう時間」を2027年5月に導入する方向で議論が進んでいると報じています(北海道新聞に配信された記事ほか)。
考え方はいたってシンプルで、0.9秒でこまめに直すのをやめて、1時間ぶんたまるまで放っておくというものです。国立天文台暦計算室の解説ページには、UT1(自転による時刻)とUTC(原子時計による標準時)の許容差を3600秒=1時間に広げ、2027年5月20日を発効日とする案が示されている、と書かれています。しきい値が0.9秒から3600秒へ、いきなり4000倍です。
発効日に選ばれた5月20日は、メートル条約が結ばれた日にちなむ「世界計量記念日」。単位と計量の総本山が決める話なので、日付までしっかり計量記念日に合わせてくるあたりが律儀です。正式決定は2026年10月にフランスで開かれる第28回国際度量衡総会の場になる見通しで、ここを通れば1972年から半世紀以上続いたうるう秒の運用は事実上おしまいになります。
追記:「1秒消える」騒動も、たぶんこれで回避される
上の「ボーナスへぇ」で触れた負のうるう秒(史上初の“1秒削除”)も、この話とつながっています。地球の自転が速まったまま2035年の期限を迎えると、うるう秒の枠組みが生きているあいだに1秒を引く必要が出かねない。そうなればシステム側は、これまで一度も経験したことのない引き算に対応することになります。期限を待たず2027年に前倒しでうるう時間へ切り替えれば、その厄介な初体験をせずに済む、というわけです。
導入後どれくらい調整が要らなくなるのかについて、共同通信は「導入後の数百年間は時刻調整が不要となる」と伝えています。地球の自転はゆらぐので何年後に1時間たまるかを言い切ることはできませんが、少なくとも今を生きている人が「うるう時間」の実施を目撃する可能性はほぼないということになります。つまりこれは、名前だけ用意して、実際にはたぶん一度も使われない制度です。
「8時59分60秒」という珍しい時刻は、2016年12月31日(日本時間2017年1月1日)を最後に、もう刻まれていません。10月の総会を通れば、それが正真正銘の最後の1回として記録に残ることになりそうです。
※制度の内容・時期は各機関の発表および報道にもとづく情報です。「うるう時間」は2026年10月の国際度量衡総会で正式に決まる見通しの段階で、内容・時期は今後変わる可能性があります。負のうるう秒の実施可否も今後の地球の自転しだいです。