1分が“61秒”になる日が実在した。「うるう秒」が2035年までに廃止へ。しかも今度は“1秒消える”かもしれない
「8時59分60秒」。時計にこんな表示が出たら、故障を疑いますよね。ところがこの“ありえない時刻”、じつは過去に何度も、正真正銘の正しい時刻として実在しました。1分がまるまる 61秒 になる日があるのです。その正体が、数年に一度こっそり足される「うるう秒」。そして今、この不思議な1秒が2035年までに廃止されることが決まっています。
まずは、実際に「8時59分60秒」が刻まれた瞬間を、こちらのニュース映像でどうぞ。
タネ明かし①:世界には“2種類の時間”がある
なぜ、こんな変な秒が必要なのか。カギは、世界に「2種類の時間」があることです。
ひとつは、地球の自転をもとにした時間(天文時)。太陽が昇って沈む、私たちの生活の感覚に沿った時間です。もうひとつが、原子時計をもとにした時間(原子時)。セシウム原子の振動を数える、けた違いに正確な時間です。
問題は、この2つが少しずつズレていくこと。じつは 地球の自転は一定ではなく、潮の満ち引きなどの影響でごくわずかに“ゆらいだり遅れたり”しているのです。かたや原子時計は正確そのもの。時計としては正確な原子時を使いたいけれど、生活のリズム(昼夜=自転)ともズレてほしくない。そこで、両者のズレが0.9秒を超えそうになったら、1秒を足して帳尻を合わせる。これが1972年から続く「うるう秒」の仕組みです(くわしくはNICT(情報通信研究機構)の解説が親切です)。
うるう秒は、世界の基準時刻(協定世界時)の切りのいいタイミングで挿入されます。そのため日本では、たとえば2017年1月1日には「8時59分59秒 → 8時59分60秒 → 9時00分00秒」という、めったに見られない並びが刻まれました。
タネ明かし②:便利な調整のはずが、“やっかいもの”に
この、うまくできた仕組みが、なぜ廃止されるのか。理由は、現代のデジタル社会にとって「予定外の1秒」が危険すぎるから。
コンピューターやネットワークは、時刻がなめらかに進むことを前提に動いています。そこに突然、通常は存在しない「60秒」という不連続な1秒が割り込むと、システムが混乱してしまう。実際、過去のうるう秒では、通信・IT・金融システムなどで障害が相次いで発生してきました。衛星ナビゲーションや通信、電力といった重要インフラで深刻な誤動作を招くリスクがある。そう判断され、2022年の国際度量衡総会で「2035年までにうるう秒を廃止する」ことが決議されました(Natureダイジェストの記事ほか)。正確さのために生まれた1秒が、正確に動くシステムの敵になってしまった、というわけです。
ボーナスへぇ:次は“1秒消える”かもしれない
さらに面白い(そしてややこしい)話があります。ここ数年、地球の自転はむしろ“速く”なっているのです。これまでのうるう秒は、自転が遅い分を「足す」ものばかりでした。ところが自転が速まると、逆に 時間が余ってしまい、史上初めて“1秒を引く”必要が出てくるかもしれない、と指摘されています。
これがいわゆる「負のうるう秒」。もし実施されれば、日本時間では「8時59分58秒 → 9時00分00秒」と、「8時59分59秒」がまるごと消えることになります。61秒の1分どころか、今度は59秒しかない1分です。廃止が決まった制度の“最後っ屁”として、こんな珍事が起きる可能性があるというのですから、時間の世界はなかなか一筋縄ではいきません。
ふだん当たり前に流れていると思っている「1秒」も、じつは地球の機嫌とにらめっこしながら、人の手で細かく調整されてきた。次に年をまたぐ瞬間、そんな“時間の裏側”をちょっと思い出してみると、いつものカウントダウンが少し違って見えるかもしれません。
※制度の内容・時期は各機関の発表にもとづく情報です。負のうるう秒の実施可否・時期は今後の地球の自転しだいで変わります。