「回るアライグマ」とは?ペドロの曲・元ネタ・あのアライグマの正体を解説
丸い枠の中を、子アライグマが縁に沿ってくるくる回る。ついでに体を上下に揺らして、前脚を振っているようにも見える。「ペドロ ペドロ ペドロ」と繰り返すテクノに乗せて、この10秒足らずの動画は世界中で使い回されました。「回るアライグマ」です。
ただ、あのアライグマの名前はペドロではありません。最初にバズったときにかかっていた曲も、ペドロではありませんでした。
「回るアライグマ」とは?
丸くトリミングされた枠の中で、子アライグマが回転しながら上下に体を揺らす動画のことです。日本では「ペドロのアライグマ」「アライグマのミーム」とも呼ばれます。
使われ方はほぼひとつに固まっていて、テンションが上がる曲や、音が爆発する瞬間に貼るリアクション素材です。音源を差し替えても回り方がだいたい合ってしまうので、「この曲いいだろ」の代わりに投げるスタンプみたいな役割を持っています。oiia猫やバイブス猫(CatJAM)とまったく同じポジションだと思えば早いです。
元ネタ・由来
大本は2023年9月23日、ロシア語圏のTikTokユーザー @fleksa30(表示名 Флекса)が、飼っているアライグマを撮って投稿した動画です。7か月で930万回以上再生されました。これが原典。
見てのとおり、この時点で流れているのはペドロではありません。かかっているのは MZLFF & LIDA の「Как дела?(カク・ジェラ)」というロシア語の曲です。ロシアのメディア Afisha Daily によれば、画面が丸いのもアライグマ発祥ではなく、当時TikTokで流行っていた「ペットを丸枠に入れる」形式をなぞっただけでした。ミームの象徴になっている丸枠が、実は流行の借り物だったわけです。
曲のほうは別のところで走っていました。2024年2月20日、イタリアの歌手ラファエラ・カラーが1980年に出した「Pedro」を、Jaxomy と Agatino Romero がテクノにリミックスして配信します。3月28日には Jaxomy の公式チャンネルがミュージックビデオを公開し、これが現在6,457万回再生(2026年8月時点)まで伸びました。
アライグマと曲が合体したのは2024年3月8日です。TikTokの @malykha2114 が「車のスピーカーの音自慢」というよくあるネタの形式で、アライグマ動画にペドロのリミックスを乗せました。1か月で92.6万回再生・7.13万いいね。翌9日には @lowbass_96 が同じ型で投稿して91.2万回再生・8.22万いいねを記録します。ここが「回るアライグマ=ペドロ」の成立点です。
そこからは差し替え合戦になりました。3月11日の @nui.at が92.4万回再生、3月29日には @anastasiya_guliyta が同じ丸枠の中身を自分の子犬に置き換えたパロディを出し、2週間で300万回再生・24.1万いいねを集めます。アライグマでなくても成立すると分かった瞬間に、フォーマットとして完成してしまった形です。Know Your Meme が解説記事を出したのが4月16日。バズの起点については KYM が3月、英語版Wikipedia は4月にバイラル化としていて幅があるので、3月に火がついて4月に世界的な広がりになったとされる、くらいの理解でよさそうです。
日本に入ってきたのは少し遅れて2024年5月ごろ。5月20日にYouTuberのOmitaが「Pedro」のダンス解説動画を出し、そこからアイドルやVTuberがコラボダンスとして踊る流れができました。日本では回るアライグマ本体より、踊ってみた側から知った人のほうが多いかもしれません。
アライグマの名前は「ペドロ」ではない
検索でいちばん多いのがここなので先に書いておくと、ペドロは曲名です。あのアライグマ個体の名前は公表されていません。
ロシア語圏の複数の記事を当たっても、この子は「енот(アライグマ)」か「малыш(ちびすけ)」としか呼ばれていません。飼い主についても、@fleksa30 というハンドルネーム以上のことは分かっていない状態です。これだけ世界中で使い回されているのに、主役の名前も飼い主の素性も空欄のまま、というのはミームとしてはむしろよくある話です。ジモシーのように名前と住所と体型の理由まで判明したアライグマのほうが例外だと思っておくといいです。
なぜここまで広がった?
理由は3つに分けられます。
- どんな曲にも合う。回転と上下動と手振りが同時に入っているので、BPMが速くても遅くても拍のどれかに引っかかる。音源を差し替えるだけでネタが成立するので、投稿の敷居が限りなく低い。
- 中身を入れ替えられる。丸枠のフォーマットさえあれば、自分の飼い犬でも猫でも代替できる。実際に子犬版が本家並みに伸びて、二次創作の入口になった。
- 曲が同時に爆発した。ペドロのリミックスはハンガリーで5×プラチナ、ポーランドで4×プラチナ、ドイツ3位、オーストリア4位、フィンランド3位を記録しています。動画がミームを運び、ミームが曲を運ぶという相互作用が起きました(日本のチャート入りについてはWikipediaに記載がありません)。
ちなみに原曲を歌ったラファエラ・カラーは2021年7月5日に78歳で亡くなっています。本人の項目を見ると1960年代から活動したイタリアの国民的な歌手で、1980年の曲が40年以上あとに孫世代のTikTokで生き返った形です。
日本ではアライグマは飼えない
元動画の飼い主はアライグマをペットとして飼っていますが、日本では同じことはできません。アライグマは外来生物法の特定外来生物に指定されていて、飼養・保管・運搬・輸入などが原則として禁止されています。禁止されている行為の中身は環境省の外来生物法の規制ページに、指定されている種は特定外来生物等一覧に、アライグマ個別の資料はアライグマ資料集にまとまっています。かわいいので飼いたくなる気持ちは分かりますが、画面の中で回っているのを見るところまでです。
使い方・例文
- 「イントロ来た瞬間に脳内で回るアライグマ流れた」
- 「このBGM、ペドロのアライグマ貼りたくなるやつ」
- 「音源変えても全部合うの、回るアライグマがずるすぎる」
曲を褒めるときの合いの手として使うのが本来の形なので、無音のところに貼っても効きません。
関連する言葉
動物が回るだけで世界に届くという意味ではoiia猫が直系の先輩で、リアクション素材としての使い方もほぼ同じです。動物素材と中毒性のある音源を合体させる型そのものは猫ミームが日本で定着させました。曲に乗せた動画がそのまま挨拶がわりに使われるという点では棺桶ダンスも同じ系譜にあります。アライグマつながりだと、体型のインパクトだけで街ぐるみのお祭りになったジモシーがいます。
日本にも、動きがそのままミーム化した動物はいます。白猫が二本足でゆらゆら揺れるやんのかステップは、丸枠に入れたら普通にペドロで踊れそうな動きです。この手のミームがどれくらい市民権を得たかは、ぬるぽに「ガッ」で返す「ミームかるた」みたいな遊びが商品として成立していることからも分かります。