池添騎手を置いて北村宏司騎手を追いかけた馬はフリーダムライター、2020年の新馬戦だった
レースが終わった直後の競馬場。鞍上のいない芦毛の馬が、引き揚げていく馬たちの間をすいすい抜けていく。行き先は決まっているらしく、ある1頭の横に着いた瞬間、ピタッと歩調を合わせて何事もなかったような顔で並ぶ。
この24秒の映像がXで10万件を超えるいいねを集めて、8月17日から18日にかけて拡散した。ただし付いていた説明文には、ちょっとした間違いがある。
12番の芦毛はフリーダムライター、2020年の新馬戦
映像の日付は2020年11月1日、東京競馬場の第5レース。2歳牝馬限定の新馬戦(芝1600m、18頭立て)だ。
カラ馬になった12番がフリーダムライター(牝2、芦毛、国枝栄厩舎)。鞍上は池添謙一騎手で、14番人気の15着だった。ゴールを過ぎたあとに池添騎手が落馬し、そこから馬だけの散歩が始まる。
そして馬が張り付いた相手が、4枠8番ブーケドフルールに乗っていた北村宏司騎手。ちなみにこちらは16着で、フリーダムライターのすぐ後ろでゴールしている。
現地で撮影されたこの映像は272万回以上再生されている。同じ日のメインレースは天皇賞・秋で、アーモンドアイがフィエールマン、クロノジェネシスを抑えて勝った一戦。池添騎手はその後も7レース以降に騎乗を続け、天皇賞・秋ではブラストワンピースの手綱を取っている。落馬といってもゴール後の出来事で、無事だったわけだ。
生産した牧場のスタッフが「うちの馬」と反応
拡散した投稿を見つけたのが、生産牧場である千代田牧場(北海道新ひだか町)の公認スタッフだった。
「うちの馬がバズっていて、嬉しいような、(池添騎手に対して)申し訳ないような」というコメント付き。6年前に自分のところで生まれた馬が、走った成績ではなく散歩でバズって帰ってきたことになる。
フリーダムライターは馬主も牧場代表の飯田正剛氏で、生産から所有まで千代田牧場の馬。千代田牧場の公式サイトでは生産・育成・休養を手がける牧場として紹介されている。走る前の馬にとんでもない値がつくセレクトセールの世界とはまた別の、牧場が自分の馬を6年追いかけている話でもある。
「北村司騎手」という騎手はいない
拡散元の投稿には「北村司騎手」と書かれていたが、この名前の騎手はJRAに登録がない。正しくは北村宏司騎手(美浦)で、宏の字が抜けた形だ。
競馬ファンからは「北村司って誰」「北村友一と北村宏司ならいるけど」というツッコミが並んだ。そのおかげで検索しても本人にたどり着かず、逆に「北村司 騎手」で調べる人が増えるという妙な広がり方をしている。
3戦して未勝利、いまは母として現役
フリーダムライターの競走成績は3戦0勝。2020年12月の中山(13着)、2021年1月の中山(14着)と走って、そこで登録を抹消されている。デビュー戦のカラ馬散歩が、結果的にいちばん人に見られた瞬間になった。
血統を見ると、母はアメリカ産のバディーラ。この母からは2014年の朝日杯フューチュリティステークス(GI)を勝ったダノンプラチナも出ていて、フリーダムライターの半兄にあたる。同じ千代田牧場の生産で、同じ国枝栄厩舎、しかも同じ芦毛という揃い方だ。
引退後は繁殖牝馬になり、JBISの登録では2022年生まれのアオイアイ(父リオンディーズ)と2023年生まれのカツラコマチ(父ルヴァンスレーヴ)が現役。2024年以降の産駒も続いている。
自分は1勝もできなかった馬が、24秒の映像で6年後に名前を呼ばれる。産駒のどれかが北村宏司騎手を背中に乗せて勝つ日が来たら、その時はもう一回バズっていいと思う。