マンションが階段状なのはなぜ? 建築士を名乗るユーザーのボケに25万いいね、本当の理由は日影規制
右へ行くほど階数が下がっていく、階段みたいな形のマンション。通勤路や電車の窓から一度は見たことがあると思う。9月3日の昼、Xでその写真とともに「こんな感じのマンションってなんでまっすぐキレイに建てないんだろう?」という疑問が投げられた。
投稿したのは @twf003。リプライは691件付いていて、いいねも1万を超えた。言われてみれば気になるやつだ。土地はそこにあるのに、上のほうだけ削ったみたいな形になっている。
一級建築士を名乗るユーザーの回答が、完全にボケだった
この疑問に、同じ日の夜9時半ごろ、@t_r1ng0 が引用で答えた。
「そっか。建築業界では当たり前のことでも、建築やってない人からするとなんでだろうってなるのか…」という前置きから、「一級建築士の私が解説しますね。」と続く。ここまでは完全に解説の入り。そして次の行が「将来的に巨大すべり台を設置するためです。」だった。
もちろんボケである。ただ、前振りの真面目さと落差がありすぎたせいか、この引用のほうがいいね25万7,000超と、元の疑問投稿の20倍以上に伸びた。質問した側より答えた側がバズるやつだ。
本当の理由は、北側の家に影を落とさないため
というわけで、真面目な答えのほうを調べた。あの段差を作っている代表的な要因が日影規制だ。長谷工の情報サイト「マンションプラス」で一級建築施工管理技士の山本悠太さんが解説しているところによると、日影規制は「太陽の高度が低い冬至の日を基準とし、建物の影が周囲の土地に一定時間以上かからないようにするための制度です」とされている。ボケじゃないほうの有資格者の説明である。
そして肝心なのがこの一文。設計では「特に北側隣地への影を抑えるために、設計時に建物の上層階を下の階よりも後退させるなどの工夫が必要となる場合があります」と説明されている。上の階を北側へ行くほど引っ込める、つまり階段状にする。あの形は、これをやった結果ということになる。
日本の家は北側が影になりやすい。だから北側の隣地の日当たりを守るルールが何重にもかかっている。高さ制限のほうにも北側斜線制限というものがあって、こちらは「北側の土地の日照を確保するために建物の高さを制限する規制」と定義されている。日影規制が影の時間で縛るのに対して、北側斜線は高さそのもので縛る。角度をつけて斜めに切り落としたような形のマンションを見かけるのは、だいたいこっちの影響が大きい。
ここで誤解しやすいのが、日影規制そのものは北側限定のルールではないところ。同じ解説でも「日影規制は敷地の境界線より外側すべてが対象です」と念を押されていて、東・西・南の方角も確認する必要があるという。ただ太陽の動きの関係で影がいちばん長く伸びるのは北側なので、結果として形に出てくるのはそこということになる。
ちなみにこの制度が入ったのは1976年の建築基準法改正から。マンションが一気に増えて日照をめぐるトラブルが問題になった時代の産物で、意外と歴史がある。詳しい仕組みは長谷工の「日影規制とは?」の解説が読みやすかった。
住宅街に高い建物が少ないのも、同じ理由
面白いのは、この規制の厳しさが場所によって全然違うところ。同じ解説では「商業地域や準工業地域では日影規制がかからないケースが多いのですが、第一種低層住居専用地域では敷地境界線からの距離により「日影を生じさせる時間は2~3時間以内」といった厳格な規制が設けられています」と書かれている。
駅前の商業エリアはビルが四角いまま高く伸びていて、少し歩いた住宅街に入ると急に建物が低くなる。あれは景観の趣味の問題ではなくて、用途地域ごとにかかっているルールが違うからだ。低層住居専用地域なら、軒の高さ7mを超えるか3階建て以上の建物が規制の対象になる。3階建てでもう引っかかるので、なかなか厳しい。
逆に、敷地の周りに道路や川がある場合や、敷地の地盤が隣地より低い場合は条件が緩和される。目の前が大きな道路のマンションが四角いまま建っていたりするのは、そういう事情かもしれない。
あの段差は、建てられたはずの床が削られた跡
もうひとつ、部屋を借りる側からすると地味に効いてくる話がある。土地には容積率という「延べ床面積をどこまで作っていいか」の上限があるんだけど、日影規制でボリュームを削られると、法律上使えるはずの容積率を使い切れないケースが珍しくない、と長谷工の解説では説明されている。
つまり階段状のマンションの段差は、本当ならもう1フロア分作れたかもしれない床が、北側の日当たりのために消えた跡でもある。事業者から見れば削られた面積、北側に住んでいる人から見れば守られた日差しということになる。
なお、実際の設計で効いてくるのは日影規制と北側斜線だけじゃない。道路斜線や隣地斜線、天空率といった条件も絡むので、あの形になる理由はひとつではない。ただ、階段状という特徴的なシルエットに限れば、北側への影を抑える工夫と考えていいはずだ。
質問より、答えたほうが20倍伸びた
数字を並べると、元の疑問投稿がいいね1万992・リプライ691件、ボケ回答のほうがいいね25万7,410・返信526件(どちらも9月4日19時台時点)。返信の数は質問側のほうが多いのに、いいねは答えた側が20倍以上という逆転が起きている。前振りが本物っぽすぎて、最後の一行まで真面目に読んでしまった人がそれだけいたということだと思う。
建物の名前の面白さでバズる話(新築の住所が「パルテノン新田」)や、部屋にあだ名が付いてしまう話(一人暮らしの部屋が「麻辣湯部屋」)はときどき流れてくるけれど、建物の形の理由まで掘るのは珍しい。同じ「言われてみればなんで?」系だと、緑なのに青信号と呼ぶ理由の話もセットで面白い。
次に階段状のマンションを見かけたら、その段の向きを確認してみてほしい。だいたい北を向いているはずだ。すべり台を付けるためではなく、その先にある家の冬の日差しを残すために削られている。