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長崎はエスカレーターの片側空けをしないと地元サポーター、FC東京の遠征組へ事前案内

2026年8月29日 ・ トレンド「長崎 エスカレーター 片側空け しない 県 発祥 阪急梅田 ピーススタジアム PEACE STADIUM FC東京 遠征 V・ファーレン長崎 歩かず立ち止まろう」より

アウェイの試合に行くとき、気にするのは移動と宿とチケットくらいで、駅やスタジアムのエスカレーターの立ち方まで予習する人はまずいません。そこに先回りしてお願いを投げた人がいました。長崎の一サポーターが8月28日の朝6時34分に投稿した、遠征してくるFC東京サポーターへの案内です。中身は試合の話ではなく、エスカレーターの上でどう立つかという話でした。

長崎のサポーターが遠征組に頼んだのは、驚かないでほしいということだけ

投稿は「FC東京サポさんはじめ、他県からピースタにサッカー観戦に来られるサポさんへ」という呼びかけで始まります。続けて書かれているのが「長崎人はエスカレーターで片方に寄る文化は無いです。エスカレーターの片側を走る文化もございません。」という一文で、最後は「エスカレーターで左右バラバラに立っててもびっくりしないでくださいm(_ _)m」で締められています。ハッシュタグは #FC東京サポ長崎遠征。

読めばわかるとおり、これは他県から来る人のマナーを責める投稿ではありません。向きは逆で、長崎で見る見慣れない光景に面食らわないように、という先回りの案内です。地元の側が、うちはこういう景色なのでそのつもりで来てほしい、と伝えているだけです。反応も穏やかで、8月29日朝の時点でいいねは921、リプライは9件でした。

ひとつ補足しておくと、これはクラブやスタジアム、自治体の公式アナウンスではありません。投稿者は認証バッジのない一般ユーザーで、書かれているのは長崎で暮らす一人の実感です。「長崎県民は全員こうです」と読むのではなく、そういう投稿が出るくらいには左右バラバラの光景がある、くらいの温度で受け取るのがちょうどいいと思います。

片側空けの発端は、阪急梅田駅の呼びかけだった

そもそも、エスカレーターで片側を空けるのは日本にずっとあった習慣ではありません。江戸川大学の斗鬼正一「エスカレーター片側空けという異文化と日本人のアイデンティティ」(『情報と社会』第25号、2015年、江戸川大学)は、この習慣の始まりを大阪に置いています。論文の言い方はこうです。

「日本でエスカレーター片側空けが始まったきっかけとなったのは、阪急電鉄による呼びかけである。ムービングウオーク、エスカレーターが設置された阪急梅田駅で右側に立ち、左側を空けるようにという呼びかけが行われたのである。」

つまり出発点は駅側のアナウンスで、乗客が自然に始めた作法ではなかったわけです。しかも面白いのが左右で、論文によれば大阪は右に立って左を空ける、東京は左に立って右を空ける。同じ「片側空け」なのに、空ける側が真逆になっています。関西から東京に出てきて一瞬固まった経験がある人は、たぶんこれです。

論文が片側空けの薄い土地に挙げているのは石川、福岡は途中で変わった

「じゃあ片側空けをしない土地なんて本当にあるの」と思うところですが、この論文には「地方の片側空け」という節があります。そこでは札幌、仙台、名古屋、福岡、岡山、広島、鹿児島、石川と、地域ごとの様子が書き分けられています。

そのなかで、片側空けがほとんど根付いていない例として挙がっているのが石川です。「石川県では金沢駅で右空けがみられるものの、その他では特にない、といった状況である。」と書かれ、理由としてエスカレーターの数が少ないこと、駅の利用者が少なく大して混雑しないこと、運転間隔が広くて通勤客が1分1秒を争わないことが並んでいます。駅では見かけるが街全体には広がっていない、という整理です。

福岡は少し事情が違って、時代で変わった例として出てきます。「福岡では、1995(平成7)年には、福岡はマナーが悪く、片側を空けないという投書が朝日新聞に掲載されているが、その後東京式右空けとなった。」片側を空けないことが投書のネタになる時期があって、そのあと東京と同じ右空けに寄っていったわけです。同じ論文の別の節では、博多駅も東京式右空けの側に数えられています。定着の度合いは土地だけでなく、年代でも動きます。

なお、この「地方の片側空け」の節に長崎の名前は出てきません。今回の投稿が示しているのは、あくまで投稿者本人が見てきた長崎の景色です。ただ、土地や時代で定着の度合いがまるで違う例は、こうして論文にも残っています。

埼玉県と名古屋市には、立ち止まって乗ることを求める条例がある

地域差の話とは別に、ここ数年は歩かずに立ち止まって乗ろうという方向が全国で進んでいます。いちばんはっきりしているのが条例です。

埼玉県のエスカレーターの安全な利用の促進に関する条例は令和3年10月1日の施行で、利用者の義務として「立ち止まった状態でエスカレーターを利用しなければならない。」と定めています。名古屋市の条例は令和5年10月1日施行で、条文の中身は「エスカレーターの利用者は、右側か左側かを問わず、エスカレーターの踏段上に立ち止まって利用しなければなりません(義務)(第8条)」。左右どちらかを問わない、とわざわざ書いてあるのがポイントです。

ちなみに、埼玉県と名古屋市のどちらの公式ページを読んでも、罰則についての記載はありません。破ったら切符を切られるタイプのルールではなく、立ち止まって乗るのが本来の使い方だと行政が明文化したもの、という位置づけです。

鉄道側の動きもあります。日本民営鉄道協会は今年、エスカレーター「歩かず立ち止まろう」キャンペーンを7月21日(火)から実施すると発表しました。参加規模は「全国の鉄道事業者58社局・7団体や商業施設、自治体と共同で」というもので、この記事を書いている8月末の時点でも実施中です。長崎に限らず、駅で片側が埋まっていない光景は今後たぶん増えます。

空けてほしい派と、二列で立つほうが速い派

とはいえ、この話は毎回きれいに片付きません。乗り換えの時間が数分しかない場面で前を塞がれるのは困る、急ぐ人のために片側くらい空けておいてほしい、という言い分は根強くあります。反対側には、片側だけに全員が乗るせいで乗り口の待ち列が伸びるので二列で立ったほうが結局さばける、歩けば転倒や接触の危険があるし手すりを持てない側の人もいる、という言い分があります。どちらも生活実感から出ている話で、片方を切り捨てて終わる問題ではありません。

今回の投稿がうまいのは、そこに踏み込んでいないところです。どっちが正しいかを言わず、左右バラバラでも驚かないでほしい、とだけ伝えている。遠征で来る側からすると、これが事前に分かっているだけでかなり気楽です。

エスカレーターつながりだと、和歌山のホテル浦島には高低差77mで日本一のエスカレーター「スペースウォーカー」があって、乗り切るのに5分45秒かかります。県ごとの差が意外なところに出る話としては、40℃を観測したことがない都道府県も同じ手触りでした。

キックオフは8月29日の18時30分、会場は PEACE STADIUM Connected by SoftBank。長崎に行く人は、エスカレーターに乗ったところで一度まわりを見てみてください。あなたの地元とどっちが多数派か、そこそこ面白いはずです。

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