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正倉院の「魚形」てぬぐいがかわいい、元ネタは奈良時代の役人が腰に下げたガラスの瑠璃魚形

2026年9月3日 ・ トレンド「正倉院 魚形 てぬぐい 瑠璃魚形 天平の魚形てぬぐい 奈良雑貨ならいろは 正倉院展 2026」より

青と緑のグラデーションで、にっこり顔の魚が横一列に並んだてぬぐい。ミュージアム趣味を名乗る黒織部さん(@kurooribe)が9月2日の22時すぎにこの1枚を投稿したところ、翌日の朝までに2,300を超えるいいねと470を超えるリポストが付きました。

投稿には「正倉院に収められているガラス製の『魚形』モチーフのてぬぐい」とだけ書かれています。この魚、ゆるい顔で並んでいるだけに見えて、元をたどると1300年ものの宝物です。

柄の元ネタは正倉院の「瑠璃魚形」

先に言っておくと、これを正倉院が売っているわけではありません。柄の元ネタが正倉院の宝物というだけで、てぬぐい自体は奈良の民間の雑貨店の商品です。

元になった宝物は「瑠璃魚形(るりうおがた)」。ガラス製の魚の形をした小さな品で、色違いが4つ伝わっています。2024年の第76回正倉院展に出陳されたとき、奈良国立博物館の公式アカウントが実物の写真を出していました。

写真に添えられた説明には、深緑瑠璃魚形、浅緑瑠璃魚形、碧瑠璃魚形、黄瑠璃魚形と4点の名前が並んでいます。奈良博自身が「色とりどりの超かわいいガラスのお魚さんたち」と書いていて、公式がその温度で紹介するくらいには顔がゆるい。てぬぐいの柄がグラデーションになっているのは、この4色をなぞっているからです。

奈良時代の役人が腰に下げていたアクセサリー

では何に使うものだったのか。販売元の商品説明には、目・口・エラを線彫りしたあとに金泥をさしてあること、「腰の飾りとして帯に吊り下げる物だとか…」と書かれています。美術展ナビが2024年の正倉院展グッズを取材した記事でも、奈良時代の宮中の役人たちが腰飾りとして身に付けたアクセサリーだと紹介されていました。

つまり平城京の役所に、この顔の魚を腰にぶら下げて出勤していた人がいたことになります。今でいうと社員証のストラップにゆるキャラを付けている感覚に近いのかもしれません。

正倉院の宝物は、天平勝宝8歳(756年)以降に光明皇后が東大寺の大仏へ献納した聖武天皇の遺愛品などが中心です。瑠璃魚形も東大寺大仏への献納品と考えられている、というのが販売元の説明です。誰が納めたかまでは確定していないものの、「役人の腰飾り」という用途については奈良博まわりの記述が一致しています。

作っているのは正倉院でも国立博物館でもなく、奈良の雑貨店

商品名は「【注染】天平の魚形てぬぐい」。奈良雑貨ならいろは(BASE内のショップ)が扱っている1,650円のてぬぐいです。

商品説明には「注染の職人さんが技を駆使してきれいなグラデーションに染めてくださいました」とあります。注染は型を置いて上から染料を注ぎ込む手染めの技法で、裏まで色が抜けるのと、ぼかしが1枚ごとに違うのが特徴です。魚の色がじわっと変わっていくのはプリントではなく、その染め方から来ています。

そして、これは今回のバズで生まれた新商品ではありません。この商品ページはインターネットアーカイブに2021年4月時点のものが残っていて、当時から商品名は同じ「【注染】天平の魚形てぬぐい」でした。ちなみに当時の値段は1,430円です。少なくとも5年は棚に並んでいた定番が、いま急に見つかったという流れになります。

店のカテゴリ一覧を見ると、蘇利古&安摩、キトラ四神、纒向遺跡木製仮面、古墳・遺跡といった項目が並んでいます。奈良の遺跡と宝物を軸に棚を組んでいる店で、その中に魚形が置いてあります。展示物をそのまま日用品に落とし込むやり方は、ニンテンドーミュージアムの傘立てをかたどったチャームのときにも見た手ですが、こちらは元ネタが1300年前です。

現在は通常配送用のページも、てぬぐい4枚までのクリックポスト用ページも、どちらもSOLD OUTの表示です。再入荷の通知登録は受け付けています。

投稿者が買ったのは奈良の博物館のミュージアムショップ

もうひとつ実用的な情報があって、投稿者本人が伸びたあとに補足しています。買ったのは奈良県立橿原考古学研究所附属博物館のミュージアムショップで、商品はならいろは製、通販もあるので、という案内でした。

本人が案内した通販のほうは、その後SOLD OUTになっています。ただ、ならいろははデザインオフィスリバティのオリジナルブランドで、公式サイトには奈良県内のホテル・道の駅・ミュージアムショップとBASEで販売中と書かれています。通販が切れていても実店舗には残っている可能性がある、というのは筋の通る話です。奈良に行く予定がある人は、宝物そのものより先にショップを覗く手があります。

反応は多くないけれど、ブックマークが積まれている

面白いのは、2,300を超えるいいねに対して返信がたった3件で、しかもそこには投稿者本人の補足も含まれるという点です。言いたいことがある人ではなく、黙って保存する人が集まった投稿でした。ブックマークは140件を超えています。

代わりに動いたのはリポストで、470件超。「かわいい」と言い合うより、まず自分のタイムラインに置いておく形で広がっていったのが、この魚の伸び方でした(数字はいずれも9月3日時点)。

第78回正倉院展は10月24日から

最後に、本物を見たい人向けの情報です。第78回正倉院展は令和8年(2026)10月24日から11月9日まで、奈良国立博物館で開かれます。会期中無休で、観覧料は一般2,000円、高大生1,500円、小中生500円。夕方以降のレイト割もあります。公式サイトでは日時指定券の販売開始を9月6日午前10時と告知しています。

正倉院展の第1回は昭和21年(1946)の開催なので、今年でちょうど80年です。約9000件ある宝物のうち、毎年出るのは60件ほど。瑠璃魚形が2026年も出陳されるとは限らないので、そこは公式の出陳リストを待つことになります。

てぬぐいのほうは、再入荷を待つか、奈良の博物館のショップで探すか。どちらにしても、1300年前の役人が腰に下げていた魚が今も普通に売られているというのは、なかなかの持久力です。

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