豚骨スープが発酵して休業、クサウマのにおいの正体は古細菌「スルフォホボコッカス」
豚骨ラーメン店が「朝来たらスープが発酵していた」として、丸一日お休みしました。
豚骨スープが微生物で発酵すること自体は、実はある話です。福岡の“クサウマ”豚骨からは、古細菌「スルフォホボコッカス」が見つかっています。
朝来たら寸胴が泡だらけ
告知を出したのは、東京・東高円寺の「豚骨蒼翔(あおと)」です。9月30日の朝9時44分、店の公式アカウントがこう投稿しました。
添えられた動画では、寸胴のスープの表面一面に細かい泡が立っています。
投稿によると、店主は22歳から14年間豚骨を炊き続けてきて、こんなことは初めてだそうです。「14年」は店の歴史ではなく、店主の経歴の話です。
本人も「全く意味がわかりません」と書いていて、原因はまだ分かっていません。狙った味ではないので、その日は営業せず仕込みに充てています。
返信に出た「アーキア」説
返信欄には、微生物の名前を挙げる人も出てきました。
アーキア(古細菌)は、深海の熱水や温泉のような、ふつうの生き物が住めない場所でも生きられる微生物です。沸騰した寸胴でも平気なのでは、という見立てですね。
ただしこれは返信した人の推測で、蒼翔のスープを調べた結果ではありません。それでも、Yahoo!リアルタイム検索の急上昇には「アーキア」が上がっていました。
この推測が出てくるのには理由があります。豚骨スープから古細菌が見つかった研究が、今年すでに出ているからです。
九産大がクサウマ豚骨をDNA解析
福岡の豚骨ラーメンには、くさいけどうまい「クサウマ」と呼ばれる系統があります。あの独特のにおいがどこから来るのか、実ははっきりしていませんでした。
これを調べたのが、九州産業大の米満宗明教授(食品科学)のグループです。福岡県宇美町の「駒や」など、県内のクサウマ系4店のスープのDNAを解析しました。
RKB毎日放送の報道によると、結果は次のとおりです。
その結果、4店舗すべてのスープの中にスルフォホボコッカスという古細菌がいることを突き止めました。
古細菌の混じったスープが継ぎ足され、骨についたたんぱく質を分解する過程で、あのにおいが出ていたそうです。教授は「クサウマ系のラーメンは発酵食品だ」と話しています。
西日本新聞は、2026年1月1日の時点で「アーキアが関与している可能性が高い」という研究を報じていました。6月のRKBの報道で、菌の名前まで出たかたちです。
もとはアイスランドの温泉の菌
スルフォホボコッカスという名前は、細菌の学名データベースLPSNで確認できます。代表的な種の Sulfophobococcus zilligii は1997年に報告されたもので、論文題名は「アイスランドのアルカリ性温泉から分離された新しい超好熱古細菌」です。
温泉育ちで、高温が得意な菌です。煮込み続ける寸胴の中で生き残れるのも、そう考えると納得がいきます。
「呼び戻し」はわざと発酵させる
豚骨スープの作り方は、大きく2つに分かれます。
- 毎日一から新しく炊く「取り切り」
- 前日のスープを使う「呼び戻し」「継ぎ足し」
クサウマが生まれるのは後者です。駒やの店主は、においのいいスープを見つけて、それを入れて増やしていったとRKBの取材で話しています。「増えるということは絶対菌なんですよ」とも言っていて、職人の側は研究より前から発酵だと感じていたわけです。
博多ラーメン店「でぶちゃん」の店主も、noteで古いスープを「種」にするやり方を書いています。10対1の割合で加えると、翌日には発酵するそうです。ぬか床やヨーグルトの種と同じ発想ですね。
蒼翔は狙っていない発酵
ここで蒼翔に戻ると、事情はちょっと違います。
蒼翔は豚のゲンコツと背ガラを炊く家系ラーメンの店です。発酵したスープを狙って使う店ではなく、投稿にも「狙ってる味じゃない」とあります。
福岡の研究で見つかった菌と、蒼翔の寸胴で起きたことが同じかどうかは分かりません。研究の対象は福岡の4店だけで、蒼翔のスープは調べられていないからです。
ひとつ言えるのは、豚骨スープは条件しだいで本当に発酵する食べものだということです。14年炊いてきた職人でも初めて見たのなら、相当まれな出来事なのはたしかでしょう。
再開後の一杯がいつもの味に戻っているか、近くの人は食べに行ってみてください。