「AIスロップ」とは?元ネタのポストと広めた人、よくある例
Pinterestで拾った画像がなんかヌルッとしている。YouTubeのおすすめに、見たこともないチャンネルの似た動画が20本並ぶ。検索して開いた記事は文章こそ整っているのに、読み終わっても何も残らない。こういう「AIで大量生産された中身の薄いもの」をまとめて呼ぶのが 「AIスロップ(AI slop)」 です。
「AIスロップ」とは?
生成AIで作られた、手間も中身も乏しいのに量だけは多い画像・動画・文章・音楽のこと。メリアム・ウェブスターの定義は「人工知能によって、たいてい大量に生み出される低品質なデジタルコンテンツ」です。1本ずつの出来を責める言葉というより、頼んでもいないのに流れ込んでくる量そのものに向けた悪口で、その意味でスパムの親戚にあたります。
もとの英語 slop は「残飯」「豚のエサ」「泥水」。1700年代には泥やぬかるみを指す言葉として使われ、そこから価値の低いものへ意味が広がったとARTnews JAPANは説明しています。食欲が失せる側の単語をAI生成物にぶつけたわけで、語感の時点でだいぶ手厳しい。日本語では「AIスロップ」と「スロップ」がどちらも使われます。
元ネタ・由来
誰が最初に言い出したかは分かっていません。英語版Wikipediaによると、2022年に画像生成AIが相次いで公開されたころ、4chanやHacker News、YouTubeのコメント欄あたりで内輪の言い方として使われはじめたとされます。匿名の場で自然発生したので、初出の投稿を誰も押さえていない。
はっきり残っているのは、火が付いた瞬間のほうです。2024年5月6日、@deepfates が「spamが迷惑メールの呼び名になったのと同じように、slopは不要なAI生成物の呼び名として辞書に載る」と投稿しました。
このポストは2026年9月時点で2,701いいね。2日後の5月8日、英国のプログラマ Simon Willison がこのポストを引用する形で「Slop is the new name for unwanted AI-generated content」というブログを公開します。中身を確認しないままAIの出力を人に投げつけるのは失礼で、その呼び名として slop は理想的だ、という内容でした。ここから英語圏の報道が拾いはじめます。ただし Willison 自身は、自分が押し出すよりずっと前からこの言葉は使われていたと述べています。
そこからは早い。5月19日にThe Guardian、6月11日にニューヨーク・タイムズが相次いで取り上げ、同じころGoogle検索のAI回答が本格導入されたことで、一般のユーザーが毎日のように実物に遭遇するようになりました。
そして2025年12月15日、メリアム・ウェブスターが「2025年の言葉」に slop を選出します(NBC/CNN)。同じ年、The Economist も年間の言葉に選び、年が明けた2026年1月10日にはアメリカ方言学会も追随しました。あのポストの予言が1年7か月で当たったことになります。
ちなみにメリアム・ウェブスターの最終候補には、6 7、performative、touch grass、gerrymander が並んでいました。
よくある例
代表格としてよく挙がるのが、2024年にFacebookで大量に拡散した「シュリンプ・ジーザス」。エビとキリストが合体した意味不明な画像が、いいねを集めるためだけに無限に量産されました。
実害が出た例もあります。2024年10月、AI生成のイベント情報ページが存在しないハロウィンパレードの告知を出し、アイルランドのダブリンに数千人が集まってしまった。コカ・コーラがAIで作ったクリスマスCMでは、ロゴが「Coca-Coola」と誤植されたまま公開されて話題になりました。
もっと日常的なところだと、指や関節の数がおかしい人物イラスト、背景の看板の文字が溶けている画像、文法は完璧なのに読み終わって何も残らないブログ記事。だいたいこのへんです。
規模の話をすると、2026年3月のニューヨーク・タイムズの調査ではYouTubeで子ども向けにレコメンドされる動画の約40%がAIスロップとみられるとされ、音楽配信のDeezerでは2025年6月時点でAI生成トラックの再生の最大70%が不正な水増しだったと報告されています。
とはいえ「AIで作った=全部スロップ」ではありません。線引きになっているのは、手間がかかっているかと、量で押していないか。たとえば田舎のばあちゃんが主人公のGTA風ゲーム動画は全編AIで作られていますが、8分16秒のカットを丁寧につないだ作品で、スロップ呼ばわりする人はほとんどいませんでした。
職場版の「ワークスロップ」
2025年9月、ハーバード・ビジネス・レビューにworkslop(ワークスロップ)という派生語が登場しました。BetterUp Labs とスタンフォードの研究チームによる調査で、AIに書かせただけの中身のない資料やメールを指します。
数字がなかなかえげつない。受け取った側が尻ぬぐいに費やす時間は1件あたり平均1時間56分、コストに直すと1人あたり月186ドル、1万人規模の企業なら年900万ドル超。さらに受け取った人の53%が「イラッとした」、42%が「送り主を信用しなくなった」と答えています。手抜きがバレる以上に、信用を減らすほうが痛い。
使い方・例文
- 「サムネがAIスロップすぎて開く気にならん」
- 「検索したら上から3件ぜんぶスロップだった」
- 「これはスロップじゃなくて、ちゃんと人が手を入れてるやつ」
「低品質なAI生成物」を一語で言えるので、長い説明を省略できるのが便利がられている理由です。中立語ではなく明確な悪口なので、自分の作ったものを指して使うと自虐になります。
関連する言葉
「脳が溶ける」側から名付けたのがブレインロットです。こちらは低品質なコンテンツと、それを浴び続けた見る側の鈍りの両方を指しますが、名前の視点は見る人のほうに置かれています。AIスロップが指すのは作られたモノだけで、しかも「AI製であること」が条件に入るのが違いです。同じAI生成でもイタリアン・ブレインロットのように人が全力で楽しんでいるものはスロップと呼ばれにくく、このあたりに線引きの感覚が出ます。
AIそのものをからかうスラングにはクランカーがあり、日本語圏でスロップの先輩格にあたるのが、表示回数稼ぎのために意味のない投稿を量産するインプレゾンビです。