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クレしん「ある午後の野原夫婦だゾ」はしんちゃんほぼ出ないワンカット会話劇

今日9月19日の夕方に放送される『クレヨンしんちゃん』が、なかなか妙なことになっている。サブタイトルは「ある午後の野原夫婦だゾ」。主役のしんのすけはほぼ出てこない。出てくるのはみさえとひろしの2人だけで、居間でだらだら喋っているところをそのまま見せる。しかも脚本を書いた本人が「アニメなのに絵があまり動かない」と先に言ってしまっている。

発端は「あの人が書いたらどうなる?」という好奇心

この回は単発の思いつきではなく、テレビ朝日系の漫画リスペクトバラエティー『バズマンTV』との合同企画として、公式いわく「構想から1年」かけて動いてきたものだ。さまぁ〜ず三村とやす子がやっている深夜番組で、9月18日の放送にダウ90000の蓮見翔とアンジュルムの後藤花がゲスト出演している。

企画の出発点としてお笑いナタリーが伝えているのは、「今年『第70回岸田國士戯曲賞』を受賞した蓮見が『クレヨンしんちゃん』の脚本を執筆したらどうなる?」という好奇心。蓮見はダウ90000の公演「ロマンス」で2026年2月に同賞を取っている。演劇の賞を取ったばかりの若手作家を国民的アニメに放り込んだら何が出てくるのか、という話だ。

蓮見は番組の企画としてアニメ制作会社のシンエイ動画にも足を運んでいる。作画の現場を見学し、監督とプロデューサー、さらに初回放送のころから関わっている作画監督にも取材している。ついでに本人がしんちゃんの作画にも挑戦したらしい。

第1稿からすでに夫婦の会話劇だった

ここが個人的にいちばん面白いところで、「しんちゃんを出さない」は制作を進めるうちに削れていった結果ではない。

蓮見は「自分にしか書けない脚本を」と意気込んで第1稿を書いた。そして上がってきた原稿が、主人公しんのすけの登場がほぼ無く、みさえとひろしの会話だけで構成されているものだった。つまり最初のひと振りでいきなりこの形だったことになる。その第1稿がどう転がって放送分になったのかは、前日の『バズマンTV』で舞台裏として公開されている。

話題は晩ごはんの献立とクレヨンの匂いと靴下

肝心の中身。舞台はしんのすけが外に遊びに行き、ひまわりが昼寝をしているある日の午後で、家に残ったみさえとひろしがくつろぎながら他愛もない話をする。

アニメ!アニメ!が挙げている話題は、晩ごはんの献立、クレヨンの匂い、そしてひろしの靴下に隠されたある秘密。ひろし役の森川智之はインタビューで「カレーやクレヨン、焼き鳥と靴下といった話題が展開していく」と話していて、焼き鳥まで混ざるらしい。みさえ役のならはしみきは劇中に出てくる図工室のくだりが好きだと言っている。

何かが起きるわけではない。誰かが泣いたり走ったりもしない。ネタが日常の雑談だけで、映すのも見慣れた野原家の居間だけ、というのがこの回の全部だ。

「絵があまり動かない」は脚本家本人の言葉

アニメの回について「動かない」と外から言うと大抵は文句になるが、今回はそれを書いた当人が最初に口にしている。

蓮見のコメントはこうだ。「普段の自分の作風でもあるワンシチュエーションで、リビングでのひろしとみさえの日常会話だけを描くことにこだわりました」。そのうえで「事件も起きず、しんちゃんもほとんど出てこない、アニメなのに絵があまり動かないという挑戦的な内容ですが、単純に僕自身がこの2人の会話を見てみたかったんです」と続けている。

動かさないほうを選んだ、という話であって、動かせなかったわけではない。演劇畑の人が「この2人の喋りが見たい」という理由だけで1本まるごともらったら、たしかにこうなる。

この回の紹介でセットのように出てくる「ワンカット」のほうは、蓮見の言葉ではない。テレビ朝日の公式ニュースが「夫婦のリアルで他愛もないやりとりを、驚きの《ワンカット》アニメーションで描き切ります」と書いていて、しかもそこには「アニメサイドからの提案で実現した挑戦的な演出」とある。蓮見が語っているのは居間から動かない「ワンシチュエーション」=自分の作風の話で、カメラを割らずに通すワンカットのほうは、脚本を受け取ったアニメ側が乗っかって足した挑戦だったことになる。

台本を読んだ声優2人の第一声

アフレコに入った2人の反応も、そのまま読者のリアクションに近い。

ひろし役の森川智之は「30年以上続いてきた歴史の中で、しんちゃんチームはまだまだアイデアが豊富で、新しいことができるコンテンツなんだなと改めて驚きました」とコメントしている。森川はひろし役を担当して今年で10年目。藤原啓治が演じていた時代も含めて常に新しいことに挑んできた作品だからこそ驚いた、という話し方をしている。

みさえ役のならはしみきの受け取り方はもっと具体的だった。最初は芸人とのコラボと聞いていたので、劇中のテレビで芸人が漫才をやっていて、それを夫婦で見ながら喋る回になるのかと想像していたという。それが台本を開いたら夫婦2人きりの長ゼリフ会話劇で、「しんちゃんでこれ大丈夫かな!?」と思いつつ、「昔の深夜番組のような実験的で演劇っぽいコントの雰囲気が好きだったので、『面白い試みだな!』とワクワクしました」と話している。

ちなみに親のほうに寄る企画は最近ちょこちょこ出ていて、8月にはスピンオフ漫画名義のfigma「野原ひろし」が商品化決定を告知したばかりだった。しんのすけを主役から外しても成立する、という判断があちこちで通っているらしい。

好評だったら次は「アフタークレヨンしんちゃん」

締めは森川が投げたスピンオフ案がいい。

「これが好評だったら、夜10時過ぎに子どもたちが寝静まった後の夫婦を描くスピンオフ『アフタークレヨンしんちゃん』や、区役所で二人だけで延々と手続きを待つ話なんかもやってみたいですね(笑)」

区役所で延々と待つだけの回。絵はもっと動かなくなる。

放送は9月19日の16時30分から、テレビ朝日系24局で。同じ枠で「早起きしちゃったゾ」「りんごあめが食べたいゾ」も流れるので、静かなほうがどのタイミングで来るかは見てのお楽しみになる。

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