ジャンプ+「エヴァンジェリンは靴を履く」の靴が細かい理由はシューフィッター監修
水曜の0時すぎ、作者の朝倉亮介さんが2話の配信を告知した。「2話から本格的に物語スタートです」と書いていて、1話で並べた材料をここから動かすぞ、という宣言つきだ。
少年ジャンプ+の新連載『エヴァンジェリンは靴を履く』は、9月16日に1話が出たばかり。学園の人気者で女優もやっているエヴァンジェリンの足元に隠れた痛みを、地味な高校生の虎太郎だけが見抜く、という始まり方をする。靴職人を目指す少年と夢を追う少女の話だ。
で、読んだ人が引っかかるのが靴の描写の細かさだと思う。1話に出てくるローファーの描き方が、雰囲気で描いた靴のそれではない。その答えは連載開始の翌日にもう出ていて、本職のシューフィッターが監修に入っている。
「靴マンガを監修させていただきました。」と本人がブログで解禁した
明かしたのはシューフィッターの佐藤靖青さん(旧・こまつ)。毎日更新している自分の靴ブログの9月17日ぶんで、記事タイトルがそのまま「2454 ジャンプ+『エヴァンジェリンは靴を履く』靴監修はじめました」になっている。頭の2454は毎日書き続けた通し番号だ。
本文では「情報解禁ですので発表します。」と前置きしてから、「靴マンガを監修させていただきました。」と書いている。すぐ後ろに「ました、っていうよりスタートしました。」と足していて、過去の仕事ではなく今まさに進行中の案件だという言い方になっている。作品名を出した直後の一行が「1話目からローファーです。」で、1話を読んだ人ならあの足元のことだと分かる。
ちなみにジャンプ+の1話のページのほうには「靴監修」のクレジット表記は見当たらない。監修が入っていることの出どころは、いまのところこのブログだけだ。
監修しているのは既成靴とビスポークの描き分け
何を見ているのかも本人が書いている。既成靴とビスポークの違いのあたりと、靴の描写・作業の描写を監修した、という説明だ。
既成靴は工場で型に沿って作る吊るしの靴で、ビスポークは足を採寸して一から起こす注文靴。同じローファーという名前でも成り立ちが違うので、形も表情も変わる。既成靴のローファーとビスポークのローファーは見た目だけでも違いが出る、という指摘を返していると書いていた。靴職人を目指す少年が主人公の漫画で、その差が描き分けられていないと話の芯が抜ける。監修が入る意味があるのはそこだ。
「エヴァンジェリオン」ではない、「オ」はいらない
ブログでいちばん語気が強いのが、実は監修の話ではなく作品名の読み方だった。作品名を出した直後に「エヴァンジェリオンとか言うなよ?」と念を押し、さらに「永久にいらない。」とまで書いている。打ち合わせでうっかり「エヴァンジェリオン」と言ったバカシューフィッターがいて、その瞬間に集英社の床が抜けて脱出に2日かかった、という体のネタも自分で挟んでいる。直後に「まだうずくなあ。」と書いているので、犯人は本人だ。
気持ちは分かる。エヴァンジェリンとエヴァンゲリオンは別物なのに、頭の中の変換がどうしても引っぱられる。検索するときも「オ」を足してしまいがちなので、打ち込む前に一拍おいたほうがいい。
集英社に出向いて、革の見極めを実演してきた
仕事が決まったあと、集英社にも行っている。本人いわく初訪問で、感想が「集英社、でっか!!!」。厳戒態勢の警備を抜けて「ほぼ会議室」の個室に通され、BGMはクラシック、紅茶が出てきたそうだ。
そこでやったのが実演だ。オンラインでは伝わりづらい革の見極めと、作業のときにどういうしぐさになるかを、その場で見せてきたと書いている。画面越しに言葉で説明しても伝わらない部分があるということで、これは漫画の作業描写がどう描かれるかに直結する。
やりとりの速さにも驚いていた。こちらがチェックして修正箇所を提案すると、直って返ってくるまでが速い。しかも正確だという。「修正がマジで速い!」と素直に書いたうえで、この工程について「この修正、AIにはムリです。」とも言っている。自分はAI肯定派でかなり使い倒しているが、それでもここは無理ゾーンなんだ、という言い方だ。
漫画の監修は2年ぶり2回目、前回は「靴の向くまま」
佐藤さんにとって漫画監修はこれが2回目になる。前回はみやびあきのさんの『靴の向くまま』(全5巻・講談社)で、約2年ぶりだと書いていた。
ブログとYouTubeではスニーカーを主役にしているけれど、根っこはガチの革靴だという自己申告も添えてある。アッパーのステッチ、革の取り方、機械式だと出てしまう痕跡、底付けのセメントと縫いのメリットの差。このあたりを秒で答えられないと務まらない仕事だ、と本人が書いていた。靴マンガの監修に呼ばれる人というのは、そういう引き出しの持ち主らしい。
1話はジャンプ+で無料で読めるので、監修が入ったローファーがどう描かれているかを確かめながら読むと二度おいしい。監修者本人のブログも、集英社の床が抜けたくだりまで含めてテンションが高いので、合わせて読むと作品の裏側がもう少し見える。
ジャンプ+の新連載つながりだと、9月1日に始まった深海SFの『ノイズリング』も、盲目のソナーマンが主役という妙な設定で走っている。今期のジャンプ+、入り口の作り方がわりと攻めている。