メイドの「威嚇のポーズ」、正体は膝を曲げる礼「カーテシー」
メイドがスカートをつまんで広げるあのポーズ、名前は「カーテシー」という。片足を引いて膝を曲げるお辞儀で、本来の見どころはスカートより膝のほうだ。
発端は「布量で威嚇」説
ことの始まりは2026年10月7日の夜に投稿された、このツイートだ。
投稿の中身はこうだ。スカートを大きく見せて「うちの旦那様(奥様)はこんなに布量多いお仕着せ作れるんやぞ」と見せつける、威嚇のポーズなのだという。
これが10月10日の昼までに17.9万いいね、返信は265件まで伸びた。
30万いいねのイラストで加速
翌朝、イラストレーターの佐伯うのさんがこの投稿を引用してイラストを出した。
メイド2人がスカートを広げ、その背後に威嚇する動物の幽霊のようなものが浮かんでいる。文字は一切なしで、こちらは30.6万いいねと元の投稿を追い越した。
ここから大喜利が始まった。女装やロリィタ服、執事に置き換える派生ネタが流れ、タイムラインにメイドの写真や動画が増えたという声も出ている。
ポーズの名前はカーテシー
あのポーズには、ちゃんと名前がある。日本語版Wikipediaのカーテシーの項目によると、カーテシー、カーツィ、コーツィとも呼ばれるお辞儀の一種だ。英語では curtsy または curtsey と書く。
英語版のCurtsyによると、この語は「courtesy(礼儀)」が縮まってできた。言われてみると綴りがほぼ同じだ。
17世紀以降、女性だけが行う礼法としてヨーロッパで発達した。伝統的には、使用人が主人に向かってするような、目下から目上への礼だった。今のヨーロッパでは、王室のメンバーに会うときに使われることが多い。
大事なのはスカートより膝
動作の手順はこう書かれている。
- 片足を斜め後ろの内側に引く
- もう片方の足の膝を軽く曲げる
- 背筋は伸ばしたまま
スカートの裾を両手で持ち上げるのは「そうする場合もある」という扱いで、ズボンでも行われる。つまりスカートは必須の部品ではない。
ヴィクトリア朝のころは、大きく膨らんだペチコートのスカートの中でバレエのプリエの形をとり、上体を前に傾けずに上下するだけのお辞儀だったという。スカートの中で脚が仕事をしていたわけだ。
この点を突いた反応も出ている。
「本来大事なんは足の形、膝の曲げと上半身の動き」で、スカートを広げるところだけ抽出されて威嚇になっているのがおもしろい、という指摘だ。
見栄を張ったのは従僕
では、使用人の服で主人の財力を見せる習慣は無かったのか。威嚇説そのものの裏付けは見当たらなかったが、似た発想は男性の使用人のほうに実在した。
英語版WikipediaのLiveryによると、リヴリー(お仕着せの制服)はのちに、男性の使用人に家ごとの決まった配色の服を支給する習慣になっていった。
エドワード朝の使用人を扱った本『Life Below Stairs』の紹介記事には、もっと露骨な話が載っている。
- 従僕(フットマン)は、背が1インチ高いごとに価値が上がった。リヴリーは背の高い男性のほうが見栄えがすると考えられていたため
- 背格好がそっくりな2人組には、さらに割増が払われた
揃いの制服を着た長身の2人組を玄関に立たせる。主人の見栄を背負っていたのは、布の量ではなく従僕の身長だった。
メイドの制服は自前
同じ紹介記事によると、メイドのほうは逆だった。奉公に出るには、プリント地のドレス、黒いドレス、白いエプロン数枚を自分で揃える必要があった。
貧しい家や救貧院、孤児院の出身者が多く、この服代を貯めるのは楽ではなかった。たいていは2年ほど副業をしてお金を作ったという。
少なくともこの時代のイギリスでは、メイドのスカートの布は主人ではなく本人の財布から出ていたことになる。
威嚇に見えるのも無理はない
とはいえ、膨らんだスカートを左右に広げる姿が、体を大きく見せる動物の威嚇に見えるのはよくわかる。佐伯さんの絵が30万いいねを集めたのも、たぶんそこだ。
次にメイド喫茶やアニメでこのポーズを見かけたら、スカートではなく膝のほうに注目してみてほしい。