「熱帯低気圧b」のbは発生順ではなく、台風になった時点で台風番号になる
台風25号が温帯低気圧に変わった、と思ったら、気象庁の台風情報に見慣れない名前が並んだ。「熱帯低気圧b」である。気象予報士の走る人参さんが9月22日の夜に投げたこの一言が、5万4千いいねを超えて伸びた。
前の台風が退場した直後に次が袖から出てくる間の悪さもさることながら、多くの人が引っかかったのはたぶん「b」のほうだ。bってことは2番目? じゃあaはどこ行った? という疑問が湧く。答えを先に言うと、このbは何番目かを表していない。
bは2番目という意味ではない
ウェザーニュースの台風情報ページには、この一文字についての注記が載っている。
台風になる前の熱帯低気圧を一つのアルファベットで示します。発生順とは関係なく、発生時に一つのアルファベットを割り振りますが、発達して最大風速が約17 m/s以上となり、台風となった時点で台風番号を付けます。
「発生順とは関係なく」とはっきり書いてある。a、b、c…と順番に消費していくカウンターではなく、まだ台風になっていない熱帯低気圧を区別するために、発生したときに一文字を貼っておくだけの識別子だ。同時に2つ3つ存在すれば別の文字が付くので取り違えずに済む、という用途のもの。だから「aを見逃したかも」と過去ログをさかのぼる必要はない。
気象庁が配信している台風情報のデータ(targetTc.json)を開くと、この熱帯低気圧は "typhoonNumber" が "b"、"category" が "TD"(熱帯低気圧)という形で入っている。番号を入れる枠にそのままアルファベットが座っているわけだ。同じファイルの2つ目には台風25号が "typhoonNumber" "2625"、"category" "LOW" として残っていて、LOW は温帯低気圧を指す。表に出る呼び名だけがアルファベット一文字になっていて、内部の識別子(TC2632)は別にある、という作りになっている。
台風になった時点で、bは番号に置き換わる
では、いつまで「b」なのか。境目は風速だ。気象庁の台風とはのページはこう定義している。
熱帯の海上で発生する低気圧を「熱帯低気圧」と呼びますが、このうち北西太平洋(赤道より北で東経180度より西の領域)または南シナ海に存在し、なおかつ低気圧域内の最大風速(10分間平均)がおよそ17 m/s(34ノット、風力8)以上のものを「台風」と呼びます。
場所の条件を満たしたうえで、10分間平均の最大風速がおよそ17m/sに達すると台風になる。その瞬間にアルファベットの出番は終わり、番号が付く。番号の付け方も公開されているとおりで、毎年1月1日以後いちばん早く発生した台風を第1号とし、あとは発生順に番号を振っていく。今年はすでに25号まで出ているので、このbが台風に育てば26号を名乗ることになる。
ちなみに同じページには、一度台風になったものが衰えて熱帯低気圧に戻り、そこから再び発達して台風になった場合は同じ番号を付ける、という決まりも書いてある。番号は「何個目に生まれたか」に紐づいていて、途中で弱まっても振り直さない。アルファベットのほうが使い捨ての仮の名前で、番号のほうが本名みたいなものだ。
9月23日18時時点の熱帯低気圧bはフィリピンの東
気象庁が出しているこの熱帯低気圧の諸元(19時10分発表)を見ると、実況はこうなっている。
実況の最大風速は15m/sで、台風の境目である17m/sまであと少し。24時間後の予報では18m/sに上がって区分が「台風」に変わる想定になっているので、この記事を読んでいる時点ではもうbではなくなっている可能性がある。最新の位置と進路は気象庁の台風情報で確認してほしい。
なお、台風25号のほうは9月22日21時45分の発表を最後に温帯低気圧として扱われている。この25号は東京ゲームショウ2026の最終日を中止に追い込んだ台風で、会期中の中止はTGSの30年で初めてだった。入れ替わりの早さがなかなかである。
サイトによっては同じものが「熱帯低気圧A」になっている
ややこしいのはここからで、9月23日時点のtenki.jpの台風情報を開くと、同じ熱帯低気圧が「熱帯低気圧A」と表示されている。気象庁とウェザーニュースは小文字のb、tenki.jpは大文字のAで、大文字小文字だけでなく文字そのものが違う。位置も中心気圧も最大風速も一致しているので同じものを指しているのは確かだが、なぜ表記が分かれているのかは公表されている情報の範囲では分からなかったので、ここは断定しないでおく。
元の投稿が使っていた「熱低b」という略し方も、気象の界隈ではよく見る書き方だ。検索するときは「熱帯低気圧b」でも「熱低b」でも同じものにたどり着く。ただ、サイトによって文字が違う以上、他所で「A」と書かれていても別物が2つあるわけではない、というのは頭の隅に置いておくといい。
アルファベット一文字で呼ばれているうちは、まだ名無しの見習いみたいなものだ。番号をもらうかどうかは、これからの風速次第になる。