「猛虎弁」とは?意味・由来(なんJ/阪神)と代表語一覧、関西弁との違いを解説
「ワイ、〜やで」「〜するンゴ」。Xを眺めていると、どう見ても関西の人ではなさそうなアカウントが、やたら関西弁っぽい文章を書いていることがあります。あの独特のエセ関西弁には 「猛虎弁(もうこべん)」 という名前が付いています。
「猛虎弁」とは?
猛虎弁は、なんJ(なんでも実況J)を中心に使われるエセ関西弁の文体のことです。特定の単語ひとつを指すのではなく、「ワイ」「〜やで」「〜ンゴ」といった言い回しをひっくるめた書き方の総称にあたります。
いちばんの特徴は、書き手が関西出身かどうかとまったく関係ないところ。関西に住んだことがない人でも、なんJに書き込むときだけ猛虎弁になります。なんJの分家にあたる「おんJ」でも同じように使われていて、そちらではほぼ公用語のような扱いです。
だから猛虎弁は、方言というより掲示板のドレスコードに近い。標準語で真面目に書くとその場から浮くので、みんなが関西弁の皮をかぶって書く。そういう共通のノリとして機能しています。
名前の由来
「猛虎」は阪神タイガースのことです。虎を意味する猛虎が、そのままチームの別名として使われてきました。とくに阪神を手厚く扱うデイリースポーツでは、見出しでもおなじみの言い換えです。阪神まわりの話題は野球ファン以外にも回りやすくて、佐藤輝明の打球が東京ドームの看板を直撃して100万円という一発もXでよく拡散されました。
つまり猛虎弁は、「阪神ファンの言葉」という意味になります。なんJに人が流れ込む前の野球系の掲示板には、当然ながら本物の関西在住の阪神ファンがいて、その人たちは地の言葉である関西弁で書き込んでいました。名前の出どころが阪神にあるのはここまでで分かりますが、その関西弁がどうやって「猛虎弁」という文体として固まったのかは、もう少し込み入っています。
成り立ち
いつ誰が「猛虎弁」と言い出したのか、確定的な記録は残っていません。分かっているのは、そこに至るまでにいくつかの流れが重なっていることです。
2004年、5ちゃんねる(当時の2ちゃんねる)に「なんでも実況J」板が設立されます。野球中継を見ながらリアルタイムで書き込む板でした。
2006年のシーズンオフごろ、野球板で「〇〇から猛虎魂を感じる」という定型が使われはじめます。デイリースポーツの記事に由来する言い回しで、阪神と縁のある要素を見つけては、そこに猛虎魂を感じたことにするネタでした。この型は他球団にも派生していて、横浜なら「星の煌めきを感じる」、巨人なら「ジャイアンツ愛を感じる」と言い換えられます。「猛虎」という言葉が板の共通語彙になっていたのが、この時期です。
2009年ごろ、野球ch からなんJ板へ大規模な住民の移動が起きます。猛虎弁が使われるようになったのはこのタイミングとされていますが、はっきりした記録があるわけではありません。
広まった力学のほうは、比較的わかりやすいです。阪神ネタが流行したとき、普段から関西弁で書いていた阪神ファンに加えて、阪神ファンでもない人までネタに合わせて関西弁で書くようになった。最初は茶化して真似ていたものが、そのまま板の標準になったわけです。真面目な模倣ではなく、ふざけて真似たほうが定着したというのが、この文体の性格をよく表しています。
もうひとつ、猛虎弁の語彙に流れ込んだ源流として 「どん語」 があります。阪神の監督経験者・岡田彰布の、独特なテンポの大阪弁の受け答えを指してなんJで呼ばれるようになったものです。愛称の「どんでん」は、味の素の商品「ほんだし うどんおでんだし」の略で、岡田がこの商品のCMに出ていたことから付いたとされています。「そらそうよ」をはじめとする語録が、猛虎弁の語彙として使われるようになりました。
だから起源をひとつに絞ることはできません。「猛虎魂を感じる」の定型、阪神ファンの関西弁を他球団ファンが茶化した流れ、どん語。この複数がまざって今の形になった、と見るのが実態に近いです。
なお、野球の言葉が野球の外まで届く現象は今も続いていて、逆に野球用語そのものを見直そうという議論が起きることもあります。
代表的な言い回し
猛虎弁の中身は、大きく分けて「一人称」「語尾」「定型フレーズ」の3つです。
- ワイ:一人称はこれでほぼ固定。猛虎弁でいちばん目立つ看板
- 〜やで:語尾に付けたがる。「そうやで」「ええで」
- ンゴ:語尾に付ける、なんJ発の代表格
- クレメンス:「〜してくれ」を表すお願いの形
- ニキ・ネキ:頼れる人・詳しい人への呼びかけ
定型フレーズもよく使われます。
- 「やってしまいましたなあ」
- 「〇〇最高や! ××なんて最初からいらんかったんや!」
- 「うーんこの」
- 「負ける気せえへん」
- 「なんでや! △△関係ないやろ!」
見てのとおり、全部が関西弁というわけではありません。標準語と関西弁が混ざるのが猛虎弁の特徴で、「うーんこの」のように関西弁の要素がゼロの定型も同じ枠に入っています。
本物の関西弁との違い
いちばん大きな違いは一人称です。猛虎弁では「ワイ」に固定されますが、実際の関西でこの一人称を日常的に使う人は多くありません。ここが本物との距離がいちばん開くところです。
意外なのは語彙のほうで、猛虎弁では「おおきに」「ちょける」のようなコテコテの関西弁は、むしろ避けられる傾向があります。全部を関西弁に寄せると、いかにも作りものになるからです。標準語のベースに「やで」「やろ」を差すくらいの薄さのほうが、板の空気には合っています。
そして猛虎弁は、文法として辞書的に学ばれるものではありません。習得の方法は他人の書き込みの模倣とフィーリングで、正しさの基準も「板で見たことがあるかどうか」しかない。関西弁の話者から見ると崩れて見えるのは当然で、そもそも正確さを目指していない文体です。
「エセ関西弁は好きになれない」という声もあります。とはいえ猛虎弁を使っている側も、本物の関西弁を再現しているつもりで書いているわけではありません。
使い方・例文
- 「ワイ、朝から並んだのに売り切れてたで」
- 「なんでや! 阪神関係ないやろ!」
- 「バイト受かったンゴ」
ふだん標準語で書いている人が急に猛虎弁になると、それだけで自虐やボケの合図になります。深刻な話を猛虎弁で書くと重さが抜けるので、失敗談との相性がいい。
自分で書くのが難しければ、普通の文章をなんJ語(猛虎弁)に変換してくれるツールを通すのが早いです。打ち込んだ文章が語尾ごと猛虎弁に置き換わります。ネットの言葉づかいを辞書やツールに落として遊ぶ流れは各所にあって、コミケでは約1万人ぶんのVTuber名を一発変換できる変換辞書が頒布されたこともありました。
関連する言葉
猛虎弁の語彙は、そのままなんJ語と重なります。語尾のンゴ、お願いのクレメンス、呼びかけのニキ・ネキがその代表で、グエー死んだンゴのようにフレーズごと定型化したものもあります。笑いを表す草やワロタも、同じ掲示板の土壌から出てきた言葉です。