「ベイクドモチョチョ」の元ネタは匿名掲示板、正体は大判焼き・今川焼き・回転焼き
「ベイクドモチョチョ」と打つと、検索候補に「元ネタ」と「どこで売ってる」が並びます。響きだけ聞くと海外のカフェにありそうなお菓子ですが、実物は思いきり和菓子です。丸くて厚みがあって、中にあんこが入っている、駅前や商店街で焼いているアレのこと。
そしてこの名前、どこかのメーカーが付けたものではありません。大判焼きとか今川焼きとか回転焼きとか、住んでいる土地によって呼び方が変わることをネタにして、ネットが勝手に1行足した呼び名です。
商品名ではなく、あの和菓子に後から付いた呼び名
ニコニコ大百科の「ベイクドモチョチョ」の記事は、この語をひとことで「上の和菓子の呼び名の1つである」と定義しています。記事の冒頭に置かれているのも、ユーザーが描いた普通の大判焼きのイラストです。
概要の書き出しがなかなか物騒で、「2021年に”あの和菓子”の名称戦争に突如として現れた新勢力。2020年以前には、この語の用例は皆無だった。」とあります。名称戦争という言い方でだいたい伝わるのがこの菓子のすごいところです。
名前の意味についても、はっきり分からないと書かれています。「名前の『ベイクド』はおそらく『baked(焼いた)』だと思われるが、『モチョチョ』は不明。食感がもちもちしているからだろうか。」。しかも大百科はその直後に、餅を連想させる名前だけれど生地の原料は小麦粉やベーキングパウダーで餅ではない、とわざわざ念押ししています。もちもちだからモチョチョ、という一番それっぽい説すら裏が取れていないわけです。
なので「ベイクドモチョチョ どこ」で探している人への答えはシンプルで、そういう商品名で売られているものではありません。食べたければ、近所で大判焼きなり今川焼きなりを焼いている店に行くのが早いです。
元ネタは2021年6月13日、匿名掲示板の書き込み
大百科によると、2021年6月13日にインターネット上の匿名掲示板で、例の菓子を指して「ベイクドモチョチョ」と呼ぶ書き込みがされ、同日以降にTwitterなどでも見かけられるようになった、とあります。そこからじわじわ広まって、2021年11月下旬ごろには4桁台以上のいいねを獲得するツイートも出てきた、と続きます。
どの掲示板だったかは、記事の本文には書かれていません。手がかりはコメント欄のほうにあって、「初出はふたばのそうだね掲示板だけどあそこ容量削減で古いログは片っ端から消えていくストロングスタイルだからスクショが残るのみやな」という書き込みが残っています。ふたば発とされてはいるものの、元のスレッド自体がもう消えているので、そこは断定できません。ネットで生まれた言葉の出どころが数年で消えるのは、わりとよくあることです。
生まれて4年経った今も現役なのは確かで、御座候がいまも1個110円という記事を書いたときにも、自販機でジュースを買おうとするたび「このお金があればあんこでみっちみちのベイクドモチョチョが楽しめるんだよな…」という思考が割り込んでくる、という投稿を見かけました。半角カナで書かれているあたりに、この語がどのへんから来たかがにじんでいます。
割れているのは呼び名だけでなく、店の商品名まで
呼び方が地域で変わるだけなら「へぇ」で終わる話ですが、この菓子がややこしいのは、土地ごとに商品名そのものが違って、それが地元での呼び名になっているところです。
| 名前 | 売っている会社と土地 | 中身 |
|---|---|---|
| 御座候 | 株式会社御座候(兵庫県姫路市) | 赤あん・白あんが1個110円。姫路では店名がそのまま菓子の呼び名 |
| あじまん | 株式会社あじまん(山形県天童市) | 会社案内の見出しが「大判焼老舗」。冬の半年だけ営業する |
| 蜂楽饅頭 | 有限会社水俣蜂楽饅頭(熊本県水俣市) | 創業者が養蜂業で、はちみつを使った商品として考案した |
| ドラムスコ | スーパー「ナガノヤ」(宮崎県) | 大判焼きのような和菓子。「失敗作」を売っていた時期がある |
あじまんの会社案内がおもしろくて、社名の由来が「居酒屋の赤ちょうちんの味自慢という文字」をヒントにした「味が自慢のまんじゅう、略して『あじまん』」だと書かれています。昭和40年に山形県天童市のスーパーの店先で大判焼きを売り始めたのが出発点で、昭和55年からチェーン展開。営業エリアには山形や秋田だけでなく福岡・佐賀・大分・熊本・山口も入っていて、山形生まれの「冬のおやつ」が九州のスーパーの軒先にも立っている計算になります。冬期だけ営業する理由もよくある質問で説明していて、温かい状態が一番おいしいことと、あんこの糖度が低くて夏場の品質劣化に向かないことを挙げていました。
蜂楽饅頭の会社概要に出自が書いてあります。「当社は昭和20年代に熊本県水俣市において、先々代社長正二が創業しました。先々代社長は当時、養蜂業を営み、蜂蜜を使った商品を考えるべく蜂楽饅頭を考案し、現在に至っております。」。今も水俣・熊本・博多・鹿児島にグループ会社が並んでいます。
宮崎の「ドラムスコ」には、2022年に一度話題になった件があります。ナガノヤ新富店が売っていた「ドラムスコの失敗作」という商品について、J-CASTニュースが取り上げた終売の理由が、「製造スタッフの技術が向上し、失敗作ができなくなった為、販売終了となりました」というものでした。売り物が消えた理由として、これ以上ないほど前向きです。
ニコニコ大百科の記事には県民判定用の呼び名リストも載っていて、青森津軽の「浅草焼・黄金焼」、北陸の「七越まん・七越焼き」、愛媛と高知の「太鼓まん」、中国地方の「二重焼き」、岡山の「夫婦饅頭・夫婦焼・ふうまん」などが並んでいます。ここに2021年、誰も頼んでいないのに「ベイクドモチョチョ」が1行足された、というのが今回の話です。
スプラトゥーン3のフェスでは「大判焼き」が勝った
この呼び名争い、実は一度だけ公式に決着がついています。決着させたのは和菓子業界でも自治体でもなく、任天堂でした。
途中まではそんな流れではありませんでした。中間発表の時点では「今川焼き」が33.66%で1位、「回転焼き」が33.39%、「大判焼き」が32.95%で、大判焼きは最下位です。
ひっくり返ったのは最終集計でした。ゲームスパークが載せている項目別の数字を見ると、どのチームに入ったかを示す得票率だけが大きく割れていて、大判焼き43.73%、今川焼き37.11%、回転焼き19.16%。一方でバトル側は全部横並びで、ホラガイ獲得率が大判焼き33.41%・回転焼き33.35%・今川焼き33.24%、オープンが今川焼き33.49%・回転焼き33.39%・大判焼き33.12%、チャレンジが今川焼き34.19%・回転焼き33.43%・大判焼き32.38%、トリカラマッチが大判焼き34.07%・今川焼き33.55%・回転焼き32.38%です。
項目ごとに1位だけへ配点される仕組みで、配点は得票率が8、ホラガイ獲得率が7、オープンとチャレンジが各12、トリカラマッチが18です。オープンとチャレンジの2つを取った今川焼きが24ポイント、得票率・ホラガイ・トリカラマッチの3つを取った大判焼きが33ポイント。ゲーム・ウォッチの結果記事の表現をそのまま借りると、「回転焼きが0ポイント、大判焼きが33ポイント、今川焼きが24ポイント」で、ウツホ率いる「大判焼き」が勝利を飾りました。回転焼きは5項目すべてで1位を逃しているため、合計しても0ポイントのままでした。惜しかったと言える場面が1つもありません。
ちなみに姫路の御座候は、御座候の公式サイトで自社の商品をはっきり「回転焼」と呼んでいます。会社沿革のいちばん上の行も「昭和25年4月 冷菓業、回転焼業開業」です。大百科の県民判定リストでも近畿と九州は回転焼き派なので、ゲームの中で0ポイントだったからといって、現実の店頭で呼び方が変わったわけではありません。フェス自体は今もビッグランなどのイベントが続いているスプラトゥーン3の、1回ぶんのお祭りでした。ゲーム本体の情報はスプラトゥーン3の公式サイトにまとまっています。
名前を1つに決めようとして、むしろ増えた
整理すると、この菓子の呼び名は地域で割れていて、店に行けば御座候やあじまんや蜂楽饅頭という商品名がさらに乗ってきます。そこへ2021年にネットが「ベイクドモチョチョ」を足し、2023年に任天堂が3択で投票させて「大判焼き」に決めました。決まったのに、誰も呼び方を変えていません。
つまり名前を1つに寄せようとした唯一の試みは、呼び名を減らすどころか話題を増やしただけで終わりました。ネットのほうは減らす気などはなから無く、呼び名をもう1つ足しています。この菓子に関しては、それでいいのだと思います。
次に商店街や駅ビルで焼いているのを見かけたら、のれんと値札の表記だけ確認してみてください。御座候か、大判焼か、回転焼か。少なくとも「ベイクドモチョチョ」とは書いていないはずです。