ミックファイアが引退、10月7日に大井で引退セレモニー。南関東クラシック「最後の無敗三冠馬」は種牡馬入り
競走馬の引退の告知に「最後の」という言葉が付くことは、そんなに多くない。東京シティ競馬(TCK)が9月3日15時に出した投稿の見出しが「南関東クラシック最後の無敗三冠馬、引退」で、対象はミックファイア。2023年に南関東のクラシック三冠を無敗で制した、大井の6歳牡馬だ。
TCKが3日に発表、セレモニーは10月7日の大井
発表したのは大井競馬場を運営するTCK特別区競馬組合。公式Xの告知には「引退後はレックススタッドにて種牡馬として繋養予定です」「ミックファイアの功績を讃え、10月7日(水)#JDC 当日、引退セレモニーを実施します」とある。netkeibaの記事によると、引退式は10月7日に大井競馬場で行われる予定で、その後は北海道新ひだか町のレックススタッドで種牡馬としての第二の馬生に入る。生まれたのも新ひだか町の高橋ファームなので、大井で走り切ったあと、また同じ町に戻ることになる。
現役を退くという話であって、まだ走り納めが残っているわけではない。ラストランはすでに終わっていて、今年7月のサンタアニタトロフィー12着が最後のレースだった。10月7日は競走ではなく、あくまでお別れの場だ。
なぜ「最後の」無敗三冠馬なのか
ここが今回いちばん引っかかるところだと思う。「最後の」と言い切れるのは、三冠の枠組みそのものが作り替えられたからだ。
ミックファイアが獲ったのは羽田盃・東京ダービー・ジャパンダートダービーの3つ。ja.wikipediaによれば、南関東クラシック三冠を達成した馬としては史上8頭目にあたる。ただし、この3レースが南関東3歳三冠として設定されて以降でいうと、達成したのはミックファイアが初にして唯一。翌2024年からのダート競走再編にともなって、南関東三冠は新たに3歳ダート三冠として整備し直されたためだ。
つまり「羽田盃・東京ダービー・ジャパンダートダービーの3つを勝った三冠馬」という肩書きは、制度が変わった時点で新しくは生まれなくなった。そこに無敗という条件まで付くと、記録として二度と並ばれない。公式が「最後の」と書いているのは、そういう意味になる。
500万円で買われた馬が、無敗のまま三冠を獲った
もうひとつ効いているのが、そこに至るまでの落差だ。ミックファイアは2021年の北海道サマーセール1歳市場に上場され、500万円(税別)で星加浩一氏に落札されている。国内のセリでは高い部類ではない。
そこから2023年、羽田盃と東京ダービーをどちらも6馬身差で圧勝。さらに地方競馬の代表としてジャパンダートダービーに出て、JRA勢を退けた。無敗での南関東クラシック三冠は、2001年のトーシンブリザード(船橋)以来22年ぶり2頭目になる。500万円の馬が22年ぶりの記録を持っていったわけで、セリの値段と結果が一致しない例としてはかなり極端な部類だ。
馬名にも小さな逸話がある。ja.wikipediaによると、名前は当初、ロシアの戦闘機にあやかって「ミグファイア」になる予定だったが、世界情勢を鑑みて「ミック」に変更されたという。今の呼び名は、そういう経緯で付いたものだ。
古馬になってからは勝てないまま、それでも全国区で走っていた
三冠のあとは、勝ち星から遠かった。netkeibaによると、古馬になってからは勝利にこそ恵まれなかったものの、JRAのフェブラリーSで7着、マイルチャンピオンシップ南部杯で4着と、全国区の相手に混ざって走り続けていた。地方所属のまま中央の大レースに出続けること自体、そう簡単な話ではない。
通算成績は21戦7勝と報じられている。7勝のうち3つがあの三冠だと考えると、勝ち鞍の重さがだいぶ偏った戦績だ。
「笑顔で送り出したい」と渡辺調教師
管理してきた渡辺和雄調教師のコメントが、netkeibaに載っている。
セリで出会ってから引退まで、ドラマのような時間でアッという間でした。3冠レースのすべてが思い出です。柔らかい上質な筋肉と高い心肺機能を持っていて、その持続力とスピードも素晴らしかった。引退は寂しくもありますが、笑顔で送り出したいですね。そして、ミックの子供たちに会う日を楽しみにしています
500万円で落札された1歳馬が三冠馬になって、種牡馬として送り出されるところまで来た。「ドラマのような時間」というのは、たぶん誇張ではないと思う。
引退セレモニーは10月7日(水)、大井競馬場。同じ形の三冠馬がもう出てこない以上、この馬をレースの記憶とセットで見られる機会はここでいったん区切りになる。近い人は、顔を見に行くのもいいかもしれない。