芯が見えるボール「ヒノマール」の赤い中心はピンポン玉。足で蹴れる新型は9月末にクラファン予定
透明なボールの真ん中に、赤い球がぽっかり浮いている。それが揺れないので、触れた瞬間に自分がボールのどこを捉えたのかが目で分かる。
名古屋のA to KAが作った「ヒノマール」という練習用ボールの動画が、9月8日にタイムラインへ流れてきて一気に伸びた。
投稿したのは開発元の公式アカウント本人で、いいねは1万4千を超えている(9月9日23時時点)。スポーティングニュース日本版によると、公開から12時間で400万回近いインプレッションを記録したそうだ。
さらに伸びたのが引用のほうで、「リフティングのコツの見える化すぎてヤバい。今まで下蹴ってたょ。」という一言に3万6千いいねが付いている。心当たりのある人が相当いたということになる。
真ん中に浮いている赤い球はピンポン玉
まず気になるのが、あの赤い球がどうやって中心に留まっているのかという話だと思う。
答えは塩化ビニル環境対策協議会が出しているPVC Newsのインタビュー記事に載っていた。「「ヒノマール」の最大の特徴は、ボールの中心を示す赤い中心球(ピンポン玉)を設置していること。中心球は塩ビの帯を捻りながら溶着することで固定されています。」とある。中身はピンポン玉だ。それを塩ビの帯で吊って、帯ごと本体に溶かし付けている。
面白いのは、その「捻り」が最初から狙って設計されたものではなく、試作を重ねた末にたどり着いた形の副産物だったところ。製造を技術面で支えた㈲髙木商店の髙木章雄氏は、「結果として、中心球を固定する内部構造に捻りが加わることで、ボール本体に衝撃が加わった時にもスプリングの役割を果たし、耐久性の向上につながりました」と話している。捻ったぶんだけ帯が伸び縮みして、衝撃を逃がすわけだ。
その髙木商店は1952年設立の空ビ(空気入りビニール)製品メーカーで、主力は競技用ビーチボールと店頭のPOP。「『ヒノマール』の製造も、基本的にはビーチボールの製造技術を応用しました」というくらいで、プール際で見かけるあのボールの作り方が、そのまま透明ボールの土台になっている。
動画は2022年撮影で、一度は消されていた
公式の投稿をよく読むと、拡散したのは撮り下ろしの新作ではない。「当時、耐久性の問題で削除しなければならなかった2022年撮影の動画。」と本人が書いている。4年前に出して、耐久性の問題で引っ込めた映像を、いま出し直したということになる。
同じ投稿では、筑波大蹴球部総監督でJFAの普及ダイレクターでもある中山雅雄氏から「赤いところを見ればいい革新的なボールだ。」というフィードバックをもらったことにも触れている。ボールのどこを見て蹴るかは口で説明しづらい部分なので、指導する側から評価が出るのは分かる話だ。
そして投稿は「新型ヒノマールでようやくみなさまの期待に応えることができる。」で締められている。ここが今回いちばん取り違えやすいところで、動画のような練習ができるのは、これから出る新型のほうだ。
いま公式ショップで買える5,830円のモデルは、足で使えない
拡散を受けて、欲しいと言っている人がかなりいる。ただ、いま買えるモデルでは、あの動画と同じ練習はできない。
公式ショップに並んでいる現行モデルは5,830円(税込・送料別)。スポーティングニュース日本版の記事にも、現在販売されているモデルは足で使用することができず、リフティング練習には使用できないと明記されている。手やヘディングで扱う前提のボールという位置づけだ。
すでに持っている人の投稿がいちばん分かりやすい。フットサル系のアカウントは「ヒノマールは自宅にもありますが、足でのリフティング不可のモデル。」と書いていて、そのうえで新型を待つと続けていた。
そのへんを察している人もいて、「新型は足でもリフティングできるのかな・・・それなら欲しいかも。」という反応も出ている。答えから言うと、できるようになるのは新型のほうで合っている。
足の使用が解禁されるのは、9月末にクラファンを始める新型
新型の告知自体は、拡散の前日である9月7日の朝に出ていた。
書かれているアップデートは2点で、「スマホケース等にも使われる高耐久素材を採用し、強度が劇的進化」と、「待望の【足の使用】が正式解禁」。2022年の動画を消す原因になった耐久性の問題を素材で片付けて、その結果として足が解禁される、という順番になっている。
つまり、9月末のクラウドファンディングが始まるまでは、動画と同じ遊び方ができるボールはまだ買えない。反応を見ていると「サッカーボールって意外と重い!!!」と普段のボールの重さを引き合いに出す人や、「運痴はあの赤丸を狙って足を出せないという点を除けば、小学生の俺に買ってあげたい製品だ」と小学生の頃の自分に買ってやりたがる人が並んでいた。待ち組はしばらく我慢することになる。
2001年の思いつきが、20年かけてボールになった
このボール、思いつき自体はかなり古い。公式の開発ストーリーによると、代表の葛山真司氏はもともとドラマーで、ドラムもボールも重心を捉えるのがコツだという共通点に気づいたのが出発点だったという。
ただ2001年頃に着想したあと、一度は諦めている。作り直すきっかけになったのが2011年の東日本大震災で、気仙沼でボランティアに参加したことから開発を決意した。翌2012年に最初の特許(特許第5005119号)を取得し、量産モデルの発売にこぎつけたのが2022年。2023年10月からの一ヶ月間で400名以上のサポーターから支援を受け、目標金額を大幅に上回る資金調達に成功したというクラウドファンディングの実績もあり、同じ年の「PVC Award 2023」では優秀賞を受賞している。
葛山氏は「『ヒノマール』は、軽量で柔らかいため、子どものヘディングの練習にも最適です。海外では安全性の観点から12歳以下のヘディングが禁止されている国も多数。」とも語っていて、柔らかいボールなら世界中の子どもが安全にヘディングを楽しめる、という方向で広げたい考えのようだ。サッカーの入口を作る話でいえば、Jリーグが全60クラブにパートナーポケモンを設定した企画のような、競技外から子どもを引っ張ってくる動きとも方向は近い。
ボールの中身なんて普段は誰も気にしない。甲子園で打球が遊撃手のユニホームに入り込んだ一件みたいに、何か妙なことが起きて初めてみんなで中を覗く程度だ。今回はその中身に赤いピンポン玉が入っていて、しかも蹴る場所を教えてくれる。9月末のクラウドファンディングが始まったら、値段を見て考えるという人は多そうだ。