「んふんふんふんふ」は歌詞が全部んふんふ、元ネタはなめこ栽培キット
歌詞が全部「んふんふ」の曲がある、と言われて素直に信じる人はたぶんいない。でも本当にある。曲名からして「んふんふんふんふ」で、3分32秒のあいだ「んふんふ」しか出てこない。
作ったのはレコード会社でもゲーム会社でもなく、スマホゲーム「おさわり探偵 なめこ栽培キット」を遊んでいたニコニコ動画のユーザーだ。2012年に上げた非公式のファンソングが198万再生まで伸びて、そのあと公式のCDに拾われ、いまはJOYSOUNDのカラオケにも入っている。
歌詞は本当に「んふんふ」しかない
動画の正式タイトルは「【んふんふ んふんふんふ!】んふんふんふんふ【んふ】【オリジナル】」。タイトルの時点でもう「んふ」が7回出てくる。
歌詞サイトの j-lyric にもJOYSOUNDの曲ページにも歌詞データが載っているが、中身は全文が「んふんふ」「んふ」「ん・ふ」の繰り返しだけで構成されている。サビで急に日本語が出てくるとか、最後の一行だけ意味のある言葉になるとか、そういう小細工も無い。最初から最後まで「んふ」で押し切る。
おもしろいのがクレジットで、j-lyric には「「んふんふんふんふ」は、作詞:自身さん・なめこ、作曲:自身さんです。」と書かれている。作詞者の欄に、キャラクターであるなめこが並んでいる。歌っているのがなめこなので間違ってはいない。
なお歌詞そのものは複写が禁止されているので、ここには全文を載せない。実物を聴くのがいちばん早い。
ゲームのファンが勝手に作った曲だった
この曲がニコニコ動画に投稿されたのは2012年1月13日の23時49分。投稿者は「姫路れいあ」で、公式でもレーベルでもない、ただのなめこ好きだ。
数字は2026年9月13日時点で再生1,985,977回、マイリスト49,063、コメント45,978。当時のニコニコで100万再生は「ミリオン」と呼ばれる一つの区切りで、この曲はそこに投稿からひと月で到達している。投稿者は動画の説明文に「【2012.2.12.】ミリオンふ!みんな応援してくれてありがとう。なめこに生まれて幸せです。」と追記した。人間なのに「なめこに生まれて幸せです」と言い出している。
展開も早くて、ミリオン到達の3日前にあたる2月9日にはカラオケ用のオフボーカル版(sm16917885)が出て27,082再生。さらに2012年2月16日の朝には、日本語版(sm16985442・274,778再生)と英語版(sm16985532・53,543再生)が同じ日に投稿された。英語版のタイトルは「【we love the nameko】 nnf nnf nnf nnf 【English ver.】」で、「んふ」が「nnf」になっている。
クレジットは動画の説明文にこう書かれている。「作曲/編曲:自身さん 詞:んふ語=自身さん 日本語&英語=姫路れいあ 歌:自身さんと一緒(co517102)」。整理すると、曲と「んふ語」の詞を作ったのが自身さん、それを日本語と英語に置き換えたのが姫路れいあ、歌の名義はニコニコのコミュニティ co517102 から取った「自身さんと一緒」になる。
日本語版の歌詞は動画の字幕でしか流れず、歌詞データベースに登録されているのも「んふ」版だけなので、中身がどういう詞なのかは外からは追えない。手がかりは投稿者本人が英語版の説明に書いた一文だけで、「日本語と英語でちょっと意味が違うけれど、だいたいは同じです。」とある。つまり日本語版と英語版はだいたい同じことを歌っているらしい。
歌詞の中身を解こうとする遊びは今も健在で、ちいかわの屋台の歌が縦読みになっていた話や、五十音をそのまま並べただけの歌詞みたいなネタは定期的に湧いてくる。「んふんふんふんふ」はその最古参にあたる。
半年後、公式CDのラストトラックに座った
ここからが本題で、この非公式ファンソングは公式側に引き上げられる。
2012年7月11日、なめこ栽培キットの公式コンピレーションCD『なめこのCD』が発売された。福原遥、土岐麻子、石井萌々果、蛇足、タルトタタン(by 相対性理論)、SEXY-SYNTHESIZER、八王子P feat twill、柩(ナイトメア)、ヒャダイン、Annabel、そして自身さんと一緒。公式が「豪華アーティスト11組」と呼ぶ顔ぶれで、このうちCDのために書き下ろされた曲でないのは「んふんふんふんふ」だけだ。
公式サイト「なめこぱらだいす」の発売告知は、収録の目玉としてこう書いている。「そして動画サイトで話題となった、元祖ファンソング「んふんふんふんふ」も収録。」。二次創作を隠すでも黙認するでもなく、売り文句として正面から出している。
しかも収録位置が「12. んふんふんふんふ (自身さんと一緒)」で、全12曲のラストトラック。プロが並ぶアルバムの締めを、ファンが作った「んふ」だけの曲が持っていった形になる。Wikipediaの『なめこのCD』の項でも、12曲目にだけ「元々は動画サイトにアップロードされた二次創作楽曲。」という注記が付いている。
レーベル名が「んふんふレコード」で品番が nfnf-0001 という時点で、企画の入り口からしてこの曲に引っ張られている。CDはオリコン最高30位まで上がった。当時のなめこ栽培キットは、世界中で1200万ダウンロードを突破したアプリとして紹介されている。
続編の『なめこのCD2』も2013年12月18日に出ていて、こちらはオリコン78位。ジェロの「んふんふ音頭」などが入っている。演歌歌手まで巻き込まれた。
カラオケにも入っていて、いまも歌える
カラオケ配信が始まったのは2012年7月13日から。投稿者本人が動画の説明文の冒頭に「JOY SOUND カラオケ=2012.7.13.~」と書き足している。CD発売の2日後だ。
配信は今も生きていて、JOYSOUNDの曲ページには曲名が「んふんふんふんふ」、歌手が「自身さんと一緒」で登録されている。Apple Music にもアルバム『なめこのCD』の収録曲として入っていて、ジャンルはアニメ扱い。歌詞が全部「んふんふ」の曲を、カラオケで本当に入れられる状態が14年続いている。
採点機能を入れたらどうなるのか、音程バーがどう表示されるのかは、実際に入れた人だけが知っている領域だ。
なめこ栽培キット自体、いまも現役
2012年のゲームだから遠い昔の話に聞こえるけれど、なめこはまだ稼働している。バンダイのガシャポン公式には「なめこ栽培キット ぬいぐるみマスコット」(1回500円・全5種)の商品ページがある。小学生のころ画面をなでてなめこを収穫していた層が、いまガチャを回している。
曲の正体が分からないまま耳に残るパターンは今のショート動画でも同じで、「ドングリを殴っても死にません」で検索される曲のように、後から名前を調べられる曲が定期的に生まれている。「んふんふんふんふ」はそれを2012年にやって、しかも歌詞の検索性を自ら捨てにいった珍しい例だ。
カラオケで沈黙が続いたときの一曲として、覚えておいて損はないと思う。歌詞は覚えなくていい。