← 一覧へ エンタメ

「逃げ上手の若君」最終巻、松井優征が入手した古文書の正体は「饗庭命鶴丸書状」

『逃げ上手の若君』の作者・松井優征が、作品ゆかりの古文書を自分で入手していた。目玉は新発見の「饗庭命鶴丸書状」で、北条時行が処刑される8日前の手紙だ。

最終27巻が出た10月2日の0時に、ジャンプの特設サイトと対談動画が一斉に公開されて明らかになった。

発端は最終巻の巻末

最初にざわついたのは、27巻を買った読者の投稿だった。巻末に、連載が終わったあとで尊氏の腹心・饗庭命鶴丸の書状が見つかった、という趣旨の文が載っていたからだ。

ファンが撮った誌面によると、書状の日付は234話の作中の時期と重なっている。それに合わせて、単行本では内容にも多少手を入れたと書かれているという。

連載が終わってから一次史料が出てきて、単行本で直す。歴史漫画でもなかなか聞かない流れだ。

入手した古文書は3点

集英社オンラインによると、松井は東京大学史料編纂所の木下竜馬氏から声をかけられ、2026年春に3種の古文書を手に入れた。

流れとしては、古文書が見つかる、木下氏を通じて松井に話が来る、現物を確かめる、の順だったと特設サイトで説明されている。

中身は次の3点だ。

  • 日根文書。鎌倉から江戸までの古文書80点ほどで、南北朝時代のものが充実している
  • 足利尊氏下文。武士に恩賞を与える文書で、右の花押は尊氏の直筆とされる。新発見
  • 饗庭命鶴丸書状。文和2年(1353)5月12日、京都の三宝院賢俊にあてた長文の手紙。こちらも新発見

日根文書は、1888年に修史局(史料編纂所の前身)が調べて写しを取ったあと、原本の行方がわからなくなっていた。今回、およそ140年ぶりに再発見されたことになる。集英社オンラインやコミックナタリーは、重要文化財級の価値があると考えられると伝えている。

足利尊氏下文は、本文は別の人物(おそらく諏訪円忠)が書き、花押だけ尊氏が入れたものだという。下文は室町幕府の文書でいちばん格式が高い。

3点とも、いまは東京大学史料編纂所が保管している。公開と保存に向けて、同所の史料学協創センターで研究が進められている。

処刑の8日前に書かれた手紙

本題の饗庭命鶴丸書状は、書かれたわずか8日後に北条時行が鎌倉で処刑されている。その直前の鎌倉の空気を伝える内容を含むという。命鶴丸の花押も、この書状で初めて判明した。

命鶴丸は尊氏の腹心で、逃げ若でも松井が人物像を考察して描いてきた一人だ。その本人の手紙が、時行の最期の直前という、作品の山場そのままの時期から出てきたわけだ。

足利尊氏を題材に発信している歴史アカウントも、書き手が命鶴丸だったことに驚いていた。

定説とズレていた中身

特設サイトに載った松井の所感によると、書状の中身はこれまでの定説と食い違っている。

尊氏は関東を一年余りで平定したから京へ帰った、というのが従来の見方だった。ところが書状からは、帰京が迫った時期でも東国はまだ不穏で、味方もまとまりきっていなかったことが読み取れる。

いちばん大きいのは、尊氏本人にまだ京へ帰る気がなかった点だ。では何が尊氏の気を変えたのか。

松井によると、この手紙から帰京までのあいだに敵の勢力を平定したような記録は見つかっていない。文献に残る大きな出来事は、8日後の時行の処刑くらいしかないという。そのうえで所感をこう締めている。

『逃げ上手の若君』で描いた「尊氏は時行の死に安心して京へ帰った」という仮説は、あながち荒唐無稽とは言えないのではないでしょうか。

真相の解明はまだこれからだと本人も書いている。それでも、漫画で立てた仮説に一次史料のほうから寄ってきた形になった。

対談動画は約54分

ジャンプチャンネルでは、松井と木下氏の対談動画が公開されている。3点の古文書を、木下氏の解説つきで見ていく内容で、長さは約54分ある。

特設サイトには、饗庭命鶴丸書状の中身を全6ページの描き下ろし漫画にしたものも載っている。古文書の読み下しがつらい人は、こちらから入るのが早い。

連載5年、そのあとに出てきた史料

逃げ若は週刊少年ジャンプで2021年8号から2026年12号まで、約5年続いた。27巻には、ジャンプ2026年32号に載った特別読切「PRESENT DAY」も入っている。TVアニメは第二期がフジテレビ系で放送中だ。

読者の間では、最終巻まで少し間が空いたのはこのためかという推測も出ている。ただ、公式からそうした説明は出ていない。

書状の詳しい解説と3点の画像は、ジャンプの「逃げ上手の若君」古文書特設サイトにまとまっている。経緯の記事は集英社オンラインの最終巻記念企画の記事とコミックナタリーの古文書公開ニュースで読める。保管先は東京大学史料編纂所だ。

松井作品の展示が気になる人は、松井優征の原画展の記事もどうぞ。27巻を読み終えたら、234話の日付と書状の日付を見比べてみると面白い。

広告