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ツタンカーメンの墓の奥に「隠し部屋」か、瓦礫で埋まった通路は幅2メートル

2026年9月18日 ・ トレンド「ツタンカーメン 墓 隠し部屋 ネフェルティティ KV62 マイクログラビティ 微小重力 ネイチャー 2026」より
ツタンカーメンの墓(KV62)埋葬室の壁画。白い衣の男たちが並び、右側にはミイラの姿が描かれている
画像: ツタンカーメンの墓(KV62)埋葬室の壁画(CC BY-SA 4.0 / Romagy, via Wikimedia Commons。当サイトで縮小・切り抜きをしています。改変後の画像も同じ CC BY-SA 4.0 で提供します

1922年に見つかったツタンカーメンの墓には、100年たってもまだ片付いていない宿題があります。埋葬室の北壁、あの壁の向こうにもう部屋があるんじゃないか、という話です。

9月17日、Nature がその調査の新しい結果を独占で報じました(記事は Nature の「Exclusive: New evidence for hidden chambers beyond Tutankhamun’s tomb」、筆者は Jo Marchant)。決め手として使われたのが、地面の重力のごくわずかな差です。

この調査には日本のテレビ局も密着していて、TBSの「報道特集」が2025年3月に現地の様子を流しています。雰囲気だけなら映像で見られます。

重力のわずかな差で、地面の中の密度を測った

今回の主役は微小重力測定(マイクログラビティ)という手法です。地球の重力は、実はどこでも同じ強さではありません。足元の地面に空洞や密度の低い部分があれば、その真上で測った重力はほんのわずかに小さくなる。この差を拾って地中の密度を地図にする、というやり方です。掘らずに済むのが最大の利点で、世界遺産の墓を相手にするならこれしかない。

調査チームは墓の上と周囲で、35平方メートルの範囲に1,200点を超える測定をかけました。合わせて、墓の内側の壁からは地中レーダー(GPR)も撃っています。GPRは壁越しに撃つので届く距離が限られる。だから外から重力で広く見る方法を足した、という組み合わせです。

率いているのはカイロのアイン・シャムス大学の考古学者マムドゥーフ・エルダマティ氏。エジプトの元考古相です。解析を担当したのは共著者のジョージ・バラード氏で、国際的な地球物理コンサル GBG Group の代表を務める構造エンジニア。そこに、この話の言い出しっぺである英国の在野エジプト学者ニコラス・リーブス氏が加わっています。

見えたのは瓦礫がぎっしり詰まった幅2メートルの通路

バラード氏は、過去の調査データも全部引き受けたうえで、埋葬室から奥へ伸びる「幅2メートルの、瓦礫がぎっしり詰まった通路」が写っていると考えています。これまでのチームがそれを見落としたのは、壁のすぐ裏に大きな空洞があるはずだと思って探していたからだ、というのが彼の言い分です。空っぽの部屋を探していたら、詰まった通路は目に入らない。

微小重力のほうで出てきたのは、「直角を持つ、密度の低い構造」でした。バラード氏の言葉では、その構造は軸の向きが北壁と平行になっているのが面白いところだそうです。たまたまできた地形なら、直角も北壁との平行も揃わないはず、という理屈です。

特に注目されているのが ‘anomaly 7’ と名付けられた場所で、密度の低い一帯の中に、四角い高密度の領域が入っている。物が詰め込まれた部屋かもしれない、という読みです。しかも、見えている部屋らしきものはどの入口ともつながっていません。もし本当に存在するなら、古代からこっち誰も入っていないことになります。

ちなみに2017年には電気比抵抗トモグラフィという別の手法で、似た位置に異常が出ていました。当時はKV62とは関係ないものとして片付けられています。

言い出したのは2015年のリーブス説

そもそもの発端は2015年です。リーブス氏が、KV62の北壁は「偽の壁」ではないかと提唱しました。古代エジプトの墓づくりでは、奥の部屋を隠すために壁を1枚立ててしまうことがある。北壁に走る線と亀裂、それに壁画が古代のうちに描き替えられている痕跡が根拠でした。

背景にあるのは、KV62が王の墓にしては不自然に小さいという長年の違和感です。リーブス氏の筋書きでは、ここはもともともっと大きな王墓で、若いツタンカーメンが急死したために入口側だけを広げて彼の埋葬に転用し、奥は塞がれた。そして奥に眠っているのは先代のネフェルティティではないか、と続きます。ネフェルティティは短期間ファラオとして君臨したと考える研究者が多い王妃です。

この説が出てから、レーダー調査が行われるたびに「部屋はある」「何もない」で結果が割れてきました(Nature の2020年の記事「Is this Nefertiti’s tomb? Radar clues reignite debate over hidden chambers」がその混乱ぶりをまとめています)。今回はその何度目かの挑戦です。

ネイチャーに論文が載ったわけではない

ここは日本語の報道でかなり混ざっているところなので、はっきり分けておきます。今回の研究は Nature 本誌に載った論文ではありません。論文が公開されたのは Amarna Royal Tombs Project の紀要 Occasional Papers 第8号(2026年)で、Nature はそれを独占ニュースとして報じた側です。

「ネイチャーに掲載された」と聞くと査読を通った本誌論文を想像しますが、実際の順番は、専門プロジェクトの紀要でその日に公開され、Nature のニュース面が独占で取り上げた、という形になります。信頼度が低いという意味ではなく、単に置き場所が違うという話です。

解析した本人が「検出限界ぎりぎり」と言っている

盛り上がる話ではありますが、当事者はかなり慎重です。バラード氏自身が、自分は「looking at the very limits of detection(検出限界のぎりぎりを見ている)」と認めています。重力の差はもともと極小で、そこから構造の形を読むのは相当に際どい作業だ、ということです。

外部の地球物理学者の反応も、面白がりつつ距離を置いたものでした。ブラッドフォード大学の考古学者でGPRの専門家クリストファー・ガフニー氏は、報告を「fascinating(実に興味深い)」としながら、断定するには情報が足りないと指摘し、「I’m feeling pretty ambivalent(かなり気持ちが揺れている)」と述べています。キール大学の地球物理学者ピーター・スタイルズ氏は、微小重力のデータからは部屋の存在が「looks plausible(ありそうに見える)」としたうえで、それでももっと詳細を見たいとしました。

そう言われてしまう理由もあって、バラード氏はエジプト当局から全データを公開する許可をまだ得ていません。外から検証しきれない状態で「見つかった」とは言えない、というのが専門家側の立ち位置です。

一方でエルダマティ氏は、もし確認されれば現代の考古学で最も画期的な発見のひとつに数えられる、と語っています。温度差がそのまま記事に出ているのが今回の報道の正直なところです。

掘るかどうかを決めるのはエジプト最高考古評議会

最後の判断はエジプトの最高考古評議会が握っています。承認されれば、カメラを積んだ小型の走行機を送り込むための慎重な掘削が11月にも始まる可能性がある、とバラード氏は Nature に話しました。壁をぶち抜くのではなく、細い穴を開けて小さい車を走らせる方式です。日本語ではニューズウィーク日本版の記事も経緯をまとめています。

あるのか、ないのか。10年以上「ある」「ない」を行ったり来たりしてきた話なので、今回もまだ決着ではありません。ただ、今度は掘る日程の話まで出てきた。100年開いていない壁の向こうにカメラが入る瞬間が、案外そう遠くないかもしれません。

(ついでに書いておくと、同じ「エジプト」でもエジプトミームのほうは古代とは何の関係もない TikTok のダンスです。検索すると混ざります)

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