← 一覧へ 暮らし

「ウナギ稚魚1800円」はまだ天然シラスの約3倍

川底の石のあいだを泳ぐニホンウナギ
画像: 川の中にいるニホンウナギ(CC BY 4.0 / Ffish.asia, via Wikimedia Commons)。当サイトで縮小・切り抜きをしています

人工ウナギの稚魚は1尾約1,800円まで下がった。ただ、天然の稚魚よりまだ約3倍高い。

10月5日、「ウナギ稚魚の生産コストが4万円→1800円に」というまとめ記事を引いた投稿が、「ウナギが安くなるぞー!」という一言つきで1.4万いいねほど伸びた。気持ちはすごく分かる。

ただ、この1,800円は「蒲焼が安くなる値段」ではない。人工でシラスウナギ(ウナギの稚魚)を1尾育てるのにかかるコストで、しかも元の発表は1年以上前の話だ。

元の発表は2025年7月

出どころは、国の研究機関である水産研究・教育機構(水研機構)が2025年7月8日に出したプレスリリースだ。タイトルは「シラスウナギの生産コストの大幅な削減に貢献する新たなウナギ種苗量産用水槽を開発」。

中身は水槽の話になっている。水研機構がヤンマーホールディングス、マリノフォーラム21と組んで、FRP製で安く大量に作れる飼育用の水槽を開発した。この水槽は「仔魚を飼育するための水槽および仔魚の飼育装置」として特許も取っている。

リリースの数字はこうだ。

1水槽あたり約1000尾のシラスウナギの生産に成功し、以前に開発した過去の大型水槽と比較して種苗1尾にかかる飼育コストを約20分の1(1800円程度)まで大幅に削減しました。

「4万円から」は報道の数字

拡散した投稿のリンク先では「4万円から1800円に」という書き方になっていた。ただ、水研機構のリリースに書かれているのは「約20分の1」と「1800円程度」だけで、4万円という金額は出てこない。

どちらにしても、稚魚1尾のコストが一気に下がったのは本当だ。問題は「それで天然と比べてどうなのか」のほうになる。

天然シラスは1尾180〜600円

ここで出てくるのが、水産庁が2026年7月に更新した資料「うなぎをめぐる状況と対策について」だ。人工種苗の項目に、天然と人工の値段が並べて書いてある。

天然シラスウナギの取引価格は1尾180~600円(平成24年~令和5年漁期)であるのに対し、人工シラスウナギの生産コストは1尾約1,800円(令和5年度)であり、さらなるコストダウンに取り組み、社会実装を目指す。

天然のシラスウナギは、冬から春に川を上ってくる稚魚を網で捕まえたものだ。いま国内で育てられているウナギは、基本的にこの天然の稚魚を養殖池で大きくしている。

その天然の稚魚が1尾180〜600円。人工の1,800円は、安い年の天然と比べると10倍、高い年と比べても3倍になる。

高騰年と比べても約3倍

水産庁の資料も、同じページではっきり書いている。

人工シラスウナギの生産コストは、天然シラスウナギ高騰年の取引価格と比べても約3倍に上ることから、コストダウンを含めた効率的かつ安定的な大量生産技術の開発が最大の課題。

つまり国の資料の上でも、人工の稚魚は「天然より高い」がいまの立ち位置だ。1,800円まで下げた、というのは大きな前進だけど、天然に追いつくにはここからさらに3分の1以下にする必要がある。

だから「ウナギが安くなるぞー」はちょっと早い。少なくとも、稚魚の値段だけを見ると人工のほうがまだ高い。

完全養殖の蒲焼はもう売られた

じゃあ人工ウナギはまだ夢の話かというと、そうでもない。

ウナギの完全養殖(卵からふ化させた親から、また卵を取ってくり返す養殖)は、水研機構が2010年に世界で初めて成功させている。水産庁の資料では、2023年度には年間数万尾の人工シラスウナギを作れるところまで来た。

民間でも動きがある。山田水産は2024年以降、2年連続で年間1万尾以上の完全養殖シラスウナギを生産している。

そして2026年5月20日、水研機構は完全養殖ウナギ蒲焼の試験販売を発表した。販売先は山田のうなぎ(日本橋三越本店と築地の専門店)と、イオングループのネット販売だ。リリースにはこうある。

完全養殖ウナギ蒲焼の試験販売は世界初の事例であり、今後の完全養殖ウナギの商業化を考える上で、非常に大きな一歩になると考えます。

ただ、リリースに値段は書かれていない。今も買えるのかも分からない。「試験」販売なので、スーパーの蒲焼の棚に普通に並ぶ段階とは別の話だ。

結局いまはどうなのか

まとめると、こうなる。

  • 人工の稚魚のコストは、水槽の改良で約20分の1まで下がった
  • それでも天然の稚魚より約3倍高い
  • 完全養殖の蒲焼は世界で初めて売られたが、試験販売の段階

稚魚の値段がそのままお店の蒲焼の値段になるわけでもないので、「人工ウナギが出たら土用の丑の日がいくらになるか」はまだ誰にも言えない。1年前の発表が今になって回ってきたのは、それだけみんなウナギの値段が気になっているということだと思う。

水産庁のうなぎのページには、天然稚魚の採れ高や資源管理の資料もまとまっている。完全養殖の蒲焼をどこかで見かけたら、値札もちょっと見てみてほしい。

広告