酔い止め「アネロン」の中身は5成分、うち1つの正体は胃の局所麻酔薬
車で長時間の移動をすることになったrechiさんが、友人にすすめられて酔い止めを飲んだ。結果は「ずっとスマホいじってても急停車急発進余裕で耐えて勝ち申した」。そこまでは、まあ効いてよかったねという話である。問題は最後の一言だった。
「何入ってんのこれ????」この投稿が3万7,000いいねを超えて伸びている。
rechiさんはこの2か月ほど前、薬を買ったときにも投稿している。「エグい乗り物酔いするせいで社会科見学のときに『俺の近くに座らないで💢』とまで言われた私」と自分で書いていて、要するに筋金入りの酔う人だ。修学旅行のバスで後ろのほうの席を引いたときの、あの人生が終わる感じを知っている人ならわかると思う。
で、「何入ってんのこれ」の答えは、エスエス製薬の公式ページにぜんぶ書いてある。
1カプセルに有効成分が5種類、合計105.2mg
製品名はアネロン「ニスキャップ」。第②類医薬品の乗物酔い薬で、公式が挙げている特長のひとつが、そのまま「5種類の有効成分で、しっかり効く」になっている。中身はこうだ。
足すと105.2mg。長径19mm・短径7mmという1号カプセルの中に、働き方の違う5つが同居している。吐き気を止める経路が中枢(脳)、自律神経、胃と3方向に分かれていて、そこにカフェインとビタミンB6が乗っている形だ。市販の酔い止めとしては、けっこう盛っているほうに入る。
うち1つの正体は、胃の粘膜にかける局所麻酔
5つの中でいちばん「え、そんなのアリなんだ」となるのが、分量も最大のアミノ安息香酸エチル50mgだと思う。ブランドサイトの説明では「胃粘膜への麻酔作用で、吐き気(嘔吐)を抑えます」とされている成分で、つまり吐き気の信号が出る側の胃に、直接麻酔をかけにいっている。
乗り物酔いの薬というと、脳や三半規管のほうをなだめるイメージがある。アネロンはそれもやったうえで、胃にも別口で効かせにいく。エスエス製薬が特長として「胃に直接はたらき乗物酔いの『吐き気』に優れた効果」と書いているのはここのことで、乗り物酔いでいちばんつらいのは結局のところ吐き気なので、そこを直で取りにいく設計になっている。
ちなみにアミノ安息香酸エチルは歯やのどの痛み止めにも使われる局所麻酔成分で、「麻酔」と聞いて身構えるようなものではない。ただ、酔い止めの箱の裏に麻酔薬の名前が並んでいると気づいたときの「何入ってんのこれ」感は、まあわかる。
1日1回でいいのは、カプセルの中の顆粒がコーティングされているから
用法は1日1回1カプセル。乗物酔いの予防には乗車船の30分前に飲む、とある。ほかの酔い止めだと「4時間以上あけて1日2回まで」みたいな書き方が多い中で、これはかなり少ない。
タネはカプセルの中身にある。アネロンのブランドサイトの説明によると、長い効きめのヒミツは「1つ1つ特殊な被膜でコーティングされたカプセル内の顆粒」で、胃の中でカプセルが溶けると顆粒に水分が浸透し、核から薬効成分が徐々に放出される。粉をそのまま入れているのではなく、溶けるまでに時間差のある粒を詰めてある、ということだ。だから1回飲めば長くもつ。
エスエス製薬の公式チャンネルには、この持続性を含めたアネロンの特長をまとめた動画がある。
添付文書には「食前・食後にかかわらず服用できます」「酔ってからでも効きます」とも書かれている。バス乗ってから思い出した、という場面でも一応は手がある。ただし予防で飲むほうが効果的だとも明記されているので、出発30分前のアラームをかけておくのが正解ではある。
「ニスキャップ」という名前は1964年の米ニスコ社にさかのぼる
もうひとつの「何これ」が、製品名についている「ニスキャップ」だ。アネロンは分かるとして、ニスキャップとは何なのか。
ブランドサイトの「アネロンの歴史」の年表をたどると、答えらしきものが出てくる。
- 1933年(昭和8年)鎮痛新薬としてアネロンが瓢箪屋薬房製剤目録に登場
- 1956年(昭和31年)船酔い予防・治療薬としてアネロン処方改良
- 1964年(昭和39年)米ニスコ社と提携開発したアネロンニスキャップ発売
- 1991年(平成3年)アネロン「ニスキャップ」発売
社名がそのまま製品名に入っている、と読むのが自然なところだ。エスエス製薬自身は「ニスコ社が由来です」とまでは書いていないので断定はしないでおくが、少なくとも「ニスキャップ」という名前が世に出た1964年に、米ニスコ社との提携開発品として出ていることは公式の年表に載っている。
もうひとつ引っかかるのが1933年の行で、アネロンはもともと「鎮痛新薬」として世に出ている。乗り物酔いの薬ではなかった。船酔いの薬になったのが1956年で、そこから8年後に今の名前がついた。ついでに「瓢箪屋薬房」はエスエス製薬の前身の社名で、1940年にエスエス製薬へ社名変更している。ブランドとしては2023年に90周年を迎えていて、酔い止めの棚に並んでいる箱の中では相当な古株になる。
「口が渇く」「眠くなる」は、添付文書のほうにちゃんと書いてある
X では効いた話と一緒に、飲んだときの体の変化を書いている人もいた。これも添付文書(PDF)を開くと答えが載っている。
服用後にあらわれることがある症状として並んでいるのは、口のかわき、便秘、下痢、眠気、目のかすみ。持続したり強まったりしたら服用を中止して相談するように、と書かれている。自律神経にはたらく成分が入っているので、唾液が減って口が渇くのは想定内というわけだ。
もっと重いのは「してはいけないこと」のほうで、ここは箱を買う前に知っておいたほうがいい。
- 15才未満の小児は服用しないこと(成人=15才以上で1回1カプセル)
- 服用している間は、ほかの乗物酔い薬・かぜ薬・解熱鎮痛薬・鎮静薬・鎮咳去痰薬・胃腸鎮痛鎮痙薬・抗ヒスタミン剤を含む内服薬を使わないこと
- 服用後は乗物や機械類の運転操作をしないこと(眠気や目のかすみ、異常なまぶしさが出ることがある)
運転する人が飲むやつではない、というのが一番大事なところ。「車でn時間移動するため」に飲んだrechiさんは助手席か後部座席の側で、そこは正しい。緑内障や心臓病の診断を受けた人、妊娠中の人などは服用前に相談、という項目もある。値段は4カプセル1,078円、6カプセル1,298円、10カプセル1,848円(いずれも税込の希望小売価格)で、コンビニのおにぎり数個ぶんくらいだ。
「修学旅行でお世話になった」の声と、効かなかった人
投稿がバズったあと、Xには自分の体験を書き込む人が並んだ。tu_yuri_0507さんは「かつての修学旅行ではコイツ(アネロン)にお世話になりました」と振り返っている。hana98222さんは「最近初ダイビングで沖に出たから妹のおすすめでアネロン飲んだ」と書いたうえで、「最近舟乗ってないから船酔いがないタイプなのか、アネロンがすごいのかわかんないけど、全く船酔いとかなかった」と結んでいた。薬のおかげなのか元から酔わなかったのかは本人も分からない、という正直な書き方だ。ともあれ船の上で手に取られているあたりは、船酔い予防・治療薬として処方が改良された1956年からの用途がそのまま生きている。
一方で、そうでもなかった人の声もある。Kyo_u_Tさんは「私あれ飲んで電車乗って20分で吐いたから『普通に酔うが????』って目で見てる」と書いているし、kanmokuyumeroさんは「なんでアネロンが特別船酔いに効く酔い止めみたいなことになっているのかずーっと疑問でございます」と冷静に構えている。効きめの体感に個人差があるのは薬なので当然で、Xのタイムラインが全員一致することのほうが珍しい。バズっている薬の話を見るときは、効いた人の投稿ほど伸びやすいという偏りも頭に入れておいたほうがいい。
ひとつ注意しておくと、iru929mntさんの「低気圧にはアネロン」のように、乗り物以外の場面で使っている投稿もそこそこ流れてくる。ただ公式に認められている効能・効果は「乗物酔いによる吐き気・めまい・頭痛の予防および緩和」だけで、乗り物酔い以外の頭痛に使う薬としては承認されていない。そこはタイムラインの話ではなく箱の表示を見たほうがいい。
長距離バスや船に乗る予定があるなら、出発の30分前という一点だけ覚えて棚に行くといい。乗り物酔い対策という意味では、東京で走り出す「寿司バス」みたいな「走る車内で食べる」系のやつに乗る前にも、頭の片隅に置いておく価値はある。