バスの2階で寿司が回る「SUSHI BUS」10月から東京で運行、席は世界に20席だけで料金は未公表
バスの2階で寿司が回る。文字にすると何を言っているのかわからないが、そういう乗り物が10月から東京を走る。株式会社SUSHI BUSがWILLER ACROSS株式会社と組んで発表した「SUSHI BUS」で、2階建てオープントップバスの2階席に回転寿司のレーンをぐるっと敷いてある。プレスリリースの言い方だと「走る回転寿司店」だ。
1階で握って、エレベーターで2階に上げる
リリースは仕組みを4行で説明している。①レストランバスの1階にあるキッチンで寿司を作る、②できた寿司を車内エレベーターで2階へ運ぶ、③2階の進行キャストがレーンに流す、④乗客は運行時間内(約70分)で食べ放題。
つまり2階の客席から見ると、普通の回転寿司と同じようにレーンを流れてくる皿を取るだけになる。バスの下の階で職人が握っていて、それが小さなエレベーターで上がってくる、という部分だけが違う。屋根がないオープントップなので、寿司をつまみながら空と街並みが見えるという絵になる。
回転レーンをバスに載せた前例は無かったそうで、リリースには「移動する店舗(バス)への回転寿司レーンの導入自体、世界でも初の試みでした」とある。開発は寿司コンベアの北日本カコーと組んで、長い検証を経て着手にこぎつけた、という書き方だ。走る車の上で皿が流れる以上、揺れとレーンの相性を詰める作業がいちばん重かったのだろうと想像はつく。
キッチン付きの2階建てバスは、日本に4台しかない
なぜ今まで誰もやらなかったのか。リリースが「参入障壁」の話にページを割いていて、そこがいちばん読みごたえがある。
キッチンを備えた2階建てバス、いわゆるレストランバスは現在日本で稼働しているものが4台しかないという。そして同じ段落のカッコ書きで「日本のレストランバス全5台をWILLER GROUPで所有」とも書かれている。稼働と保有で数字がひとつずれているのだが、どちらにしても国内に片手で数えられるほどしか無い車両で、それを丸ごとフルリノベーションして寿司バスに作り替えたことになる。
1から作ろうとすればキッチン設備のコストとノウハウ、向かい合わせの座席設計、それにともなう許認可が全部のしかかる。すでに車両を持っている側と組んだから成立した企画、という自己説明だ。バスを使った変わり種の企画といえば長電バスの「降車ボタン押し放題」ツアーのような手作り感のあるものが思い浮かぶが、こちらは車両そのものが希少品という別方向の話になっている。
構想が始まったのは2024年4月で、アイデアをイラストにした一枚の絵からスタートしたとキャプションに書いてある。そこから約2年半。会社そのもの(株式会社SUSHI BUS)が設立されたのは2026年5月1日で、この企画専用の新会社だ。本社は台東区雷門。
東京駅の近くを出て、行き先は決めない
発着地は東京駅近くの鍛冶橋駐車場。高速バスやツアーバスの発着地としておなじみの、あの駐車場だ。特徴的なのは行き先の設定で、リリースには「あえて目的地(終着地)を設けない」と明記されている。移動手段ではなく「エンターテイメント型のフードアクティビティ」だから、というのが理由になっている。
ここで気をつけたいのが、ネットで回っている「渋谷・銀座・浅草を巡回する」という説明のほうだ。リリースの原文にあたると、この3つは「渋谷スクランブル交差点? 銀座通り? 浅草雷門前?」と疑問符付きで並んでいる。しかも文脈は走行ルートの案内ではなく、「見られる楽しみ」の説明だ。見たこともないバスなので行く先々で視線とスマホのカメラを浴びます、という話の中の例示にすぎない。リリースの画像キャプションも「東京の様々な観光地を回るSUSHI BUS」までで、通過地点の確定情報はまだ出ていない。
20席×5回転で1日100席、なのに値段だけ書いていない
もうひとつの売りが席の少なさだ。20席(1台のみ)体制で運行を始める予定で、リリースはこれを「世界中で20席」しかないと表現している。混んでいるから他に行こう、と比較される代用品が存在しないのが強みだ、という理屈になっている。
供給量の試算も載っている。
- 20席×5回転=100席(1日の最大席数)
- 20席×5回転×30日=3,000席(1か月の最大席数)
- 20席×5回転×365日=36,500席(1年間の最大席数)
ただし悪天候や車体の点検整備を含めて、この約80%が一旦の目標値と注記されている。年間4,268万人(2025年の訪日外国人客数)というインバウンドの母数に対して36,500席なので、狙いは最初から予約の取り合いを起こすところに置かれている。
そこまで数字を並べておきながら、リリースにも公式サイトにも金額はひとつも書かれていない。予約方法も同じで、公式サイトは今のところ「Coming soon!!2026年10月東京に爆誕!」の一行だけだ。SNSには金額を見積もった投稿も出回っているけれど、公式に発表された数字ではないので鵜呑みにしないほうがいい。参入障壁の高さをあれだけ丁寧に説明したプレスリリースで、いちばん知りたいところだけが空欄になっている。運行開始まで50日、と書かれた日から数えて、今日でおよそ2週間が過ぎた。
ちなみに「世界初」の表記についても、自社調べ・2026年8月・Web調査・比較対象は世界のオープントップバスで回転寿司レーンを設置しているサービスの有無、と末尾にきちんと注記が付いている。そこは律儀だ。
ざわついたのは、酔いと保健所だった
反応で伸びていたのは、意外にも寿司そのものの話ではなかった。
いちばん伸びたのは「では問題です、東京都内を拠点とする寿司バスが千葉県内を走行した際に食中毒を起こした場合、管轄の保健所、警察はどこになるでしょうか?」という問いかけで、いいねは4,900を超えた(9月3日時点)。リプ欄には新幹線の駅弁と同じ扱いになるのではという見立てが出て、それに対して投稿主が「新幹線で弁当の場合は製造販売者が対象になるんですが、寿司バスは運行と飲食の提供が同時に行われるという違いがありますね、電車の食堂車なら同じかも」と返す、という流れになっていた。リリースの本文に保健所や営業許可の話は一切出てこないので、答え合わせはまだできない。
次に多かったのが乗り物酔いの心配で、「絶対乗り物酔いする」「醤油と飲み物でべちゃべちゃになりそう」といった声が並んだ。景色と食べ物のどちらか一方にしか集中できないのでは、という指摘もあった。オープントップの2階席で70分というのは、たしかに揺れも風もそれなりにありそうではある。
歓迎する側も普通にいて、自分は乗らないと前置きしたうえで「外国人ウケしそうな雰囲気はある」とする投稿や、「回転寿司チェーン店で悲しいニュース多かったから、こういう明るいすしニュースはめっちゃ嬉しいな」という投稿が目についた。回転寿司まわりはくら寿司の最低価格が110円に戻るといった値段の話が続いていたので、方向がまるで違うニュースとして受け止められた面もありそうだ。あと「折詰めじゃダメなんかね」という身もふたもないツッコミもあったが、それを言うと紐付きの折詰め寿司で全部済んでしまう。
起案者はピラニア釣りの人だった
リリースの後半は、ほぼ代表の自己紹介になっている。代表の矢野氏は学生時代から世界一周などの旅を重ね、のべ約2,000日で120カ国以上を回ったうえで、2016年から忍者になれるツアー「忍者ツアー」と体験型の「忍者カフェ」を企画・経営してきた人だそうだ。顧客の約95%が外国人観光客だという。
そして席数の話の途中に、こんな一文がしれっと挟まっている。「短期的なイベントで長続きはしないものの、起案者の私(矢野)はかつて、ピラニア釣りというレア企画で多くの方を熱狂させた経験を持っています」。ピラニア釣り。急に情報量が増える。
「最後に一言」と題した締めの節も「この2年半もの間、大の大人たちが、誰もやったことがない企画実現に向け、まるで童心に帰ったように『SUSHI BUS』に熱中してきました。まさにオジサン達の趣味の領域です」と、プレスリリースにあるまじきテンションだ。そのあとに、将来は2台目3台目と増やして、東京だけでなく大阪・京都をはじめ全国の観光地を走らせたい、と続く。
運行開始は10月。料金と予約方法は公式サイトか公式Instagramで追って出るはずなので、乗ってみたい人はそこを見張っておくのがよさそうだ。乗らない人でも、東京の街で寿司を回しながら走ってくる2階建てバスとすれ違う日は近い。