チーバくんのイラストは反転も色変えも禁止、一人称は「ぼく」でなく「チーバくん」
千葉県に警報が出ていた日、県の形が丸ごと紫に塗られた地図を見ていて「チーバくんの色紫に変えたろか」と思いついた人がいた。やる前に一応調べてみたら、そこには色を変えるのは駄目だとはっきり書いてあった。
9月21日の夜に投稿されて、23日の朝には3万5千いいねを超えている。添付されているのは千葉県が公開している「チーバくんデザインガイドマニュアル」のスクリーンショットで、コラ画像でもなんでもなく本物だ。そして中を読んでいくと、禁止されているのは色だけではなかった。
反転も回転もトリミングも、名指しで止められている
千葉県が出しているデザイン使用ルールには、まず大前提としてこう書いてある。「チーバくんのイラストは、原則、改変を加えることはできません。デザイン上、やむを得ず改変を加える場合は、県によるデザインの監修が必要になります」。
そのうえで、注意すべきことが①から⑨まで番号を振って並んでいる。①は縦横の比率で、「縦に引き伸ばしてスリムにしたり、横に引き伸ばして太らせたりしないでください」。②が例の反転で、「左向きのイラストを右向きにするなど、反転することはできません」。③は「チーバくんのイラストを回転させることはできません」、④は「チーバくんのイラストを切り取って使用することはできません」。
④のトリミングには図解まで付いていて、チーバくんが乗っている台を消すのも、下半身を消すのも、背景付きイラストから背景を切り取るのも、全部「使用不可」の側に置かれている。
発端の人が引っかかった⑤の色は、「チーバくんの体は、カラー表示の場合は赤、白黒表示の場合はグレーです。指定色以外に着色できません」と書かれている。紫は当然アウトだし、その下には「シルエットの利用はできません」とも続く。真っ黒に塗りつぶした影絵にするのも駄目ということだ。逃げ道が一つだけあって、線画(体に色なし)なら線の色は自由らしい。
「音MAD対策」と呼ばれた②のページ
このガイドラインが広まった決定打は、翌22日に出た別の投稿だった。②反転しない のページだけを切り出して、ひとことこう添えてある。
「チーバくん音MAD対策されてんのおもろい」。こちらは5万いいねを超えて、発端の投稿より伸びた。左右反転や回転はキャラクターを動かす加工の基本形なので、そこが名指しで封じられている図が刺さったらしい。
念のため書いておくと、県の文書に音MADの話はひとことも出てこない。①から⑨を通して読むと、チーバくんが太ったり逆立ちしたりしないようにするための項目が淡々と並んでいるだけだ。ただ⑧には「複数のイラストを組み合わせて別の場面に見せたり、元のイラストの意味と異なるシーンにすることはできません」という項目もあって、例として載っているのがドクター姿の誰かに診察される病気のチーバくんという図になっている。県が何を想定して線を引いたのかは、この図解からなんとなく伝わってくる。
しゃべり方まで決まっている
ここまでは絵の話だが、いちばんざわついたのは⑨の「話し言葉について」だった。
- チーバくんの一人称は「ぼく」ではなく、「チーバくん」です。
- ですます調ではなく、「〜だよ」「〜だね」と話します。
キャラの口調が公文書で決められている。しかも話せる内容まで限定されていて、イラストのチーバくんが言えるのは千葉県をPRする言葉だけだ。例として挙がっているのは「ちばにきてね!」「ちばでまってるよ!」「千葉県の〇〇おいしいよ!」あたり。〇〇に入れていいのは物産品名で、なし・お米・いわしはOKだが商品名は不可。観光なら「キャンプ」「サーフィン」は入れられても、固有の施設名は入れられない。
特定の商品やお店、個人を宣伝する言葉を話すことはできず、長い文章や難しい説明文も話せない。そして最後に一行、「フキダシは原則不可。」と書いてある。話し言葉の節なのに、話し言葉を入れる器そのものが原則禁止という締め方になっている。
表記も細かく指定、「ゆるキャラ」は使えない
表記のルールも細かい。デザインを使うときは「千葉県マスコットキャラクター チーバくん」か「Chiba Prefecture Mascot CHI-BA+KUN」のどちらかを入れる決まりだ。余白がなければ「チーバくん」「CHI-BA+KUN」だけに省略してよいが、ポイントとして「「チーバ」はカタカナで、「くん」はひらがなです」と念を押されている。不可例に並んでいるのは「チーバ君」「ちーば君」「ちーばくん」「チーバクン」の4つ。英語表記でも「CHI-BA KUN」「CHIBAKUN」は駄目で、ハイフンとプラスを抜くなと書かれている。
そしてもう一つ、「「ゆるキャラ」は登録された商標なので使用しないでください」という一文がある。ご当地キャラをまとめて呼ぶときの便利な言葉として定着しているが、ガイドラインの上では使うなと書かれている。ちなみに「チーバくん」は千葉県に住む不思議ないきものという設定で、横から見た姿が千葉県の形をしている。誕生日は平成19年(2007年)1月11日、作者は坂崎千春さん。もともとは「ゆめ半島千葉国体」のマスコットとして生まれ、大会が終わったあとに「県のマスコットキャラクターとしてぜひ残してほしい」という声が集まって、平成23年(2011年)1月から千葉県のマスコットになった。
使いたい人は県に申請するところから
ではイラストを使いたい場合どうするかというと、県のチーバくんのデザイン等を使用したい方へというページに手順がまとまっている。デザインガイドマニュアルによれば、使用にあたっては事前に県へ許諾の申請が必要になる。窓口は千葉県庁の報道広報課(現在は戦略広報推進室)で、収益を上げることを目的としているかどうかで有償使用と無償使用に分かれる。グッズを作って売ること自体は可能で、その場合は使用料を払う有償使用の申込になる。許諾が下りたあとに許諾番号とイラスト名を県に連絡すれば、解像度の高いイラストレータデータかJPGデータをメールで送ってもらえる。
許諾がいらないケースも決められている。県内市町村が使うとき、県に事務局を置く団体が使うとき、学校が教育の目的で使うとき、報道機関が報道や広報の目的で使うとき、そして「著作権法に定める著作権の制限に該当するとき(私的利用の範囲内での使用など)」。自分のノートに描いて楽しむぶんには申請書は要らない、ということになる。使用期間は一度の申込で最長1年間で、切れる前に継続申込をすれば1年ずつ延ばせる。
千葉のキャラまわりでいうと、千葉県警察のマスコット「シーポック」が『都市伝説解体センター』と県警のコラボで解体ポーズを取らされていたり、市川市限定のご当地ちいかわ「ちいかわのなし」が出ていたりと、この手の話はわりと多い。ただ、口調と一人称まで文書で固めているチーバくんは、その中でもかなり管理が行き届いているほうだと思う。
申請なしで手元に持ってこられるものもある。県の各種ダウンロードのページには、チーバくんの年賀状・ポストカード・折り紙・パソコン用壁紙が並んでいる。年賀状とポストカードには「個人での使用に限り、申請不要でお使いいただけます」と書かれていて、販売など営利目的には使えない。ただしここにも「ダウンロードしたデータを加工することはおやめください」と書いてあって、括弧書きで「画像の切り取り・色や文字の変更などはできません」と念押しされている。結局ここに戻ってくる。
ルールの全文は千葉県のサイトで公開されている。禁止例の図解が思ったより気合いが入っているので、暇なときに眺めてみてほしい。