博物館の法螺貝を元ホルン吹きが全力で吹いたら景品が出た、法螺貝を吹ける施設は実在する
博物館の隅に置いてある「ご自由にどうぞ」系の展示は、たいてい触ってみても大したことは起きない。法螺貝もそのひとつで、口を当ててもスカスカと息が抜けるだけで終わるのが普通だ。ところが、そこに元吹奏楽部のホルン吹きが来てしまった。
「音が聴こえたら景品を持って参ります」を額面どおり実行した
投稿したのは雨宮さん(@amemiya_mti78)で、9月1日の夜に流れた体験談だ。置いてあった法螺貝には「ご自由にお吹きください。音が聴こえたら係りのものが景品を持って参ります」という趣旨の張り紙があったという。
普通なら「そんなの鳴るわけないだろ」で終わる張り紙だ。でも投稿者は元吹部のホルン吹きで、唇で音を作るのが専門だった。全力で鳴らしたところ、館内に堂々と音が響き、奥からスタッフがお菓子の詰め合わせを持って現れた。景品はちゃんと用意されていたわけだ。
押していいボタンは全力で押したい、という気持ちが素直に報われた話で、投稿は2日ほどで表示1,188万回、いいね24万、リポスト1.9万まで伸びている。
法螺貝は分類上「金管楽器」なので、吹奏楽の経験がそのまま効く
なぜ鳴らせたのかというタネは、法螺貝という楽器の仕組みにある。Wikipediaのホラガイの項目には「楽器分類法上は、唇の振動で音を出すため金管楽器に分類される」とある。トランペットやホルンと同じグループだ。
金管楽器は、管そのものが音を出しているわけではない。唇を細かく震わせて音の元を作り、それを管に送り込んで響かせている。つまり音源は演奏者の顔面のほうにある。だから「唇を震わせる」動作が体に入っている経験者は、初めて触る法螺貝でもいきなり鳴らせてしまう。逆に未経験だと、そもそも音の元が作れないので息だけが抜けていく。
法螺貝を試し吹きできる施設は実在する
投稿者は「どこの博物館だったか忘れちゃった」と書いているので、この話の舞台がどこなのかは分からない。ただ、法螺貝を来館者に吹かせてくれる施設そのものは実在する。
山形県鶴岡市羽黒町にある、いでは文化記念館だ。羽黒山のふもとで出羽三山の文化と修験道を紹介している施設で、体験メニューのひとつに法螺貝試吹体験がある。公式の説明はこうだ。「出羽三山の山伏が吹く法螺貝の音色には、衆生の迷夢を覚し、諸悪を祓う力があるといわれています。この法螺貝を実際に試吹できます。」
山伏が使う本物の法螺貝を、観光で来た人が自分の口で鳴らせる。公式ページには「体験には十分に感染症対策を行ってください」という但し書きも添えられている。景品が出るとはどこにも書かれていないので、そこは期待しないでほしい。お菓子の詰め合わせのくだりは、あくまで元投稿の博物館での話だ。
博物館まわりの話題だと、ブルボンが博物館支援を始めた時のフローチャートも今年ざわついていた。展示より先に運営のほうが注目される、みたいなことが最近はよく起きる。
1万8000年前の笛から東大寺の修二会まで、人はずっと貝を吹いてきた
法螺貝を吹く文化は日本の山伏だけのものではない。2021年2月10日にフランス国立科学研究センターが発表したところでは、ピレネー山脈の麓にあるマルスラ洞窟の遺跡から、約1万8000年前のホラガイの一種(ボウシュウボラ)で作られた笛が見つかっている。旧石器時代の人間もこれを吹いていたことになる。
日本では山伏の道具として定着していて、東大寺二月堂の修二会でも、堂内から鬼を追い祓うために吹き鳴らされる。合戦の合図に使われたのも本当の話で、投稿にあった「開戦の音」という表現は決して大げさではない。博物館に置いてある法螺貝を全力で鳴らすというのは、地味に千年以上の使い方をなぞっている行為だったりする。
衛生面はどうだったのか、投稿者が自分で答えている
口をつける展示となると気になるのが衛生面だが、投稿が伸びたあとに本人が補足を出している。衛生面が実際どうだったかまでは覚えていないものの、なんの抵抗もなく「やってみよ〜」となれたので、何かしらの消毒対策はされていたはずだという。そのうえで、コロナ禍より前の出来事なので今はもう置かれていないかもしれない、とも書いていた。返信は307件付いている。
たしかに、来館者が次々に口をつける展示は今のご時世だと運用が難しい。展示物が静かに消えていくのはさみしいが、ニンテンドーミュージアムの傘立てがチャームになった話みたいに、館内の細部が話題になる館も増えている。触れる展示は、あるうちに触っておくのが正解だと思う。
もし「ご自由にお吹きください」の法螺貝に出会ったら、覚えておくといいのは唇を震わせるという一点だけ。強く息を吹き込むほど鳴らないので、コツを知っている人が勝つ。景品が出るかどうかは館次第だけど、少なくとも音は出せる。