網戸をすり抜ける黒い虫「クロバネキノコバエ」、対策の正解は換気扇を止めること
窓は閉めて網戸にしているのに、気づくと部屋の中を小さい黒い虫がふわふわ飛んでいる。朝起きたら窓際に死骸が点々と落ちている。9月に入ってから、この話をXでちょくちょく見かけるようになった。
正体はクロバネキノコバエ。そして、この虫については岐阜県が専用の公式ページをひとつ持っている。そこに書いてある侵入防止対策を読むと、殺虫剤より先に並んでいるのが「換気扇を止める」だった。空気を外に出すほど虫を吸い込む、という理屈になっている。
体長1〜4mm、刺さないし病気も運ばない
殺虫剤メーカーの大日本除虫菊(KINCHO)の公式アカウントが、9月7日にこの虫のことを投稿している。
「キノコバエは体長1-4mmの小さな羽虫。雨の日が続くと屋外で大量に発生することがあります。人を刺したり病気を媒介したりすることはほとんどありませんが、岐阜県ではクロバネキノコバエの一種が毎年大量発生し問題になっています。」
同社の公式noteにはもう少し詳しく書いてある。幼虫はキノコや腐葉土、落ち葉、湿った植物質などにいて、カビや菌類を餌にして育つ。成虫は光や白いものに集まる性質がある。そして「か弱い虫なので比較的すぐに死んでしまい、死骸がたくさん落ちて部屋を汚します」。刺されない代わりに、掃除が増えるタイプの虫だ。
同じページには、観葉植物の鉢の土やミズゴケが発生源になることもあると書かれている。屋外から入ってきたと思っていたら、部屋の植木鉢から湧いていたというパターンもあるわけだ。キッチンで再収穫用に育てている豆苗も「根や豆に微生物やカビが発生しやすい」ので要注意、とのこと。
岐阜県の公式ページに「網戸のメッシュをくぐる」と書いてある
岐阜県の生活衛生課はクロバネキノコバエについてというページを出している。記事IDは0222851、更新日は2026年7月7日。書き出しは「岐阜県内で、クロバネキノコバエが大量に発生しています。」の一文だ。
特徴の欄に並んでいるのがこれ。
- 「小さな黒い虫で、網戸のメッシュやサッシの隙間等をくぐって室内に入ってくる。」
- 「通常、梅雨時期(6月から7月中旬)に発生するが、秋期に発生する場合もある。」
- 「1日のうちでは朝方に多く発生する。」
- 「気温が25℃を上回ると活発に稼働することがうかがわれる。」
- 「手足や顔などをはいまわる。」
1行目がなかなかつらい。網戸をちゃんと閉めていても入ってくる、と県が公式に書いている。網戸が壊れているわけでも、閉め忘れたわけでもなかった。
気温25℃を境に活発になるという線引きも、涼しくなってから急に見かける理由の説明になっている。ちなみに同じ25〜30度で元気になるのが蚊で、蚊が活発なのも真夏より今だとアース製薬が言っている。今の気温は、小さい虫にとってわりと天国らしい。
健康被害についてはこう書かれている。「クロバネキノコバエに触れたり、囲まれるとアレルギー反応を引き起こす可能性があるとされているため、発生しやすい時期、時間帯はご注意ください。」
県庁所在地の岐阜市も独自のページを持っていて(更新日は令和7年3月10日)、そちらには成虫の生態がもう少し細かく出ている。体長は1〜2mm、体色は黒色から暗褐色、寿命は4〜10日前後。「岐阜市内で平成28年に大量発生して以降」発生情報が寄せられ続けているという。発生源は畑やプランター、野山の腐葉土あたりと言われているが、現在のところ特定はされていない。
侵入防止対策の3番目が「換気扇を止める」
同じページの侵入防止対策の欄は、上から順にこう並んでいる。
- 「サッシの隙間を隙間シート等で目張りする。」
- 「大量発生する時間帯は窓やドアを閉めきる。」
- 「室内が陰圧(外より気圧が低い状態:換気扇などで室内の空気を外に出す場合など)になると虫を吸い込んでしまう可能性があるため、大量発生する時間帯は換気扇を止める。」
- 「殺虫剤を噴霧する。」
- 「網戸や窓ガラスに忌避剤を噴霧する。」
殺虫剤が4番目で、その前に換気扇の話が来ている。虫が入ってきたら追い出すために換気扇を回したくなるけれど、やることは逆だった。
理屈はカッコの中に書いてあるとおりで、換気扇は室内の空気を外に出す装置だ。出した分だけ室内の気圧が外より低くなり、その差を埋めるために隙間から空気が入ってくる。体長1〜2mmの虫は、その流れに乗って一緒に吸い込まれる。網戸のメッシュをくぐれるサイズなので、吸い込み口になりそうな隙間はいくらでもある。
岐阜市のページも同じことを別の言い方で書いている。「換気扇を自粛し、外からの空気の流入を避ける。」さらに岐阜市は、屋外に扇風機を置いて窓の横から送風し、虫が近寄れないようにする方法も挙げている。吸い込むのをやめて、外から吹き飛ばす側に回るという発想だ。
効く殺虫剤の成分は、県が名指しで公開している
殺虫剤についても、県のページはかなり具体的だ。保健環境研究所の調査で、クロバネキノコバエに対する殺虫効果が確認された有効成分として、次の4つが名前で挙がっている。
- 「シフルトリン及びd-T80-フタルスリン」
- 「d-T80-フタルスリン及びd-T80-レスメトリン」
- 「トランスフルトリン」
- 「ピレトリン」
網戸や窓ガラスに吹いておく忌避剤のほうは、「シフルトリン」が含まれているもので侵入阻止効果が確認されたとある。県は効力試験の結果を「クロバネキノコバエ実態調査 市販殺虫剤の効力試験」というPDFで公開していて、ページからリンクされている。
そのうえで添えられているのが「市販の殺虫剤・忌避剤を使用する場合は、製品のラベルに記載されている有効成分をご確認ください。」という一文。商品名で選ぶのではなく裏の成分表示を見ろ、という案内になっている。ドラッグストアでスプレーの裏をひっくり返す作業が発生するわけだが、効かないものを買って帰るよりはいい。
この虫、名前がついたのは2022年
ここまで散々出てきた岐阜県の大量発生だが、その犯人に学名がついたのは、じつはかなり最近だ。
森林総合研究所が2022年9月15日に発表している。岐阜県や静岡県などで梅雨時に大量発生していた体長2mm前後のコバエを、標本の形態と遺伝情報から調べたところ、アジアではこれまで知られていない種だと分かった。学名は Hyperlasion breviantenna。和名のほうは2014年に静岡県の個体群へ付けられていた「シズオカコヒゲクロバネキノコバエ」をそのまま当てることが提唱された。論文は2022年7月25日にZootaxa誌でオンライン公開されている。ドイツ昆虫学研究所との共同研究だ。
研究所のプレスリリースによると、この虫は「成虫の発生は晴れた日の早朝から正午までであり、成虫はその日のうちに死滅」する。岐阜市がクロバネキノコバエ全般の寿命を4〜10日前後としているのに対し、大量発生するこの種は1日で終わるわけだ。朝だけどっと現れて、その日のうちにいなくなる。窓際に死骸が積もるのはこのせいだった。
さらに変わっているのが性別の偏りで、「発生した成虫のほとんどがメス個体であることが観察されていました」とある。KINCHOの公式noteも「家に入ってくるのは雨が続いた日の午前中が多く、ほぼ全てがメス成虫です」と書いている。部屋に入ってきているのは、ほぼ全部メスということになる。
岐阜県での大発生は平成22年ごろから毎年起きていて、学校や病院で給食の提供が難しくなるほどの規模になった年もあった(KINCHO公式noteより)。学名のないまま10年以上あばれ回っていた計算になる。
化石にも翅と脚が残っている
ついでに、この虫の地味にすごい話をひとつ。産業技術総合研究所の公式アカウントが9月18日に投稿している。
「同じ地域の地層から見つかった「クロバネキノコバエ」類の化石。翅や脚の形までくっきり残っています」。この投稿は連投の2本目で、「同じ地域」というのは直前の投稿に出てくる更新世中期のシダ植物の化石と同じ地域、という意味だ。化石そのものは、地質標本館が30年にわたって開催している「化石クリーニング体験教室」で取り出されたものだという。
体長数mmの虫が、翅の筋まで分かる状態で石の中に残っている。いま網戸の隙間から入ってきているやつと同じ仲間だと思うと、ちょっと見る目が変わる。
「窓開けられない」「死骸の回収が朝のルーティン」
Xでは9月中旬から、実際に困っている人の投稿がぽつぽつ出ている。
「クロバネキノコバエが網戸抜けて入ってくるから窓開けられない」という声や、「連日の雨のせいで大量発生中の クロバネキノコバエの死骸を 掃除機で回収するのが 朝のルーティンに追加されてしまった」「窓はもちろんシャッターまで閉めてるのに涼しさの代償でかすぎ」という投稿もあった。どちらも9月14日の書き込みで、雨続きのあとという条件も公式情報と一致している。
警戒すべきは「雨が降った翌日の晴れた朝」ということになる。その時間帯だけ窓とドアを閉めきって、換気扇は止める。サッシの隙間が気になるなら隙間シートで目張りしておく。網戸は過信しないほうがいい。向こうはメッシュをくぐれるので、閉めてあっても防波堤にならない。今年の秋、窓際に黒い点が積もっていたら犯人はだいたいこいつだ。