オゾン発生器が自分の出したオゾンで壊れた、正体は「オゾンクラック」
職場のオゾン発生器が動かなくなった。えらい人の「ダメ元でバラしてみようぜ」という一言で解剖したら、壊した犯人は本人だった。そんな投稿が9月22日の昼前に上がって、いいねが3万4,000件を超えている。
投稿したのは Janek Chenowski(@chenowski)さん。「自らが放出するオゾンで自分を腐食させて故障した事が判明」と書いていて、締めが「この機械めちゃくちゃロックじゃないですか?」。返信は66件付いた。内部のどの部品がやられたのかまでは書かれていないので、そこは分からない。ただ、オゾンがゴムを壊すこと自体は、ゴムの世界ではとっくに名前の付いた現象になっている。
ゴムがオゾンで割れる現象は「オゾンクラック」と呼ばれる
Oリングメーカーの森清化工は、用語集でオゾンクラックをこう説明している。「ゴムや一部のプラスチックなどのポリマー材料がオゾンや紫外線のような酸化力の強い気体にさらされることにより、ゴムポリマー鎖の切断と架橋が進み、劣化(低分子化による強度の低下と硬化による柔軟性の低下)し、ひび割れが生じる現象を指します」。
要するに、ゴムを作っている長い分子の鎖がオゾンにぶつ切りにされる。切られた側は強度を失い、残った側は硬くなる。しなやかさで持っていた部品が、硬くてもろい板に変わっていく。
割れ方にも特徴がある。富士ゴム化成の解説によれば、オゾンによる亀裂は「応力(ひずみ)がかかっている部分へ垂直方向に走っている、無数できている」。引っぱられている向きに対して直角に、細い線が何本も入る。同じページには、二重結合を主鎖に持つ不飽和構造のゴムはオゾンへの耐性が低く、オゾンクラックが起きやすいとも書かれている。オゾンは二重結合と反応しやすいので、二重結合をたくさん抱えているゴムほど狙い撃ちにされる。
タイヤの細かいひび割れも、同じオゾンクラック
この話、実は日常でいちばん目にしているのはタイヤかもしれない。森清化工は発生する場所の例として「タイヤやフューエルライン、ゴムシール(ガスケットやOリングなど)といった、引張応力のかかった製品」を挙げている。どれも常に引っぱられたり押しつぶされたりしている部品だ。
しかもタイヤの主役であるスチレンブタジエンゴム(SBR)と天然ゴム(NR)は、富士ゴム化成の分類だと「耐オゾン性が劣るゴム」のグループに入る。ニトリルゴム(NBR)も同じ組で、このグループはオゾン環境で使うならオゾン亀裂防止剤が必須とされている。弱いゴムを、いちばん過酷な使い方で、屋外に置きっぱなしにしているのがタイヤという製品になる。
だから対策が練り込んである。ゴムにワックスを入れておくと、加硫後に表面へ少しずつ染み出して薄い皮膜を張り、大気中のオゾンとゴムが直接触れないように物理的に守る。しばらく走っていないタイヤの側面が白っぽく見えることがあるが、富士ゴム化成もワックスを入れるとゴム表面に白化や茶化が出ると書いている。汚れではなく防御側の仕事の跡というわけだ。
弱いゴムと強いゴムは、はっきり分かれている
オゾン発生器メーカーのオーニットは、公式サポートのFAQで「オゾンはゴムを劣化させますか?」という質問に正面から答えている。回答は「ゴムの種類と使用環境によっては、劣化することがあります」。そのうえで、弱いゴムと強いゴムを名指しで並べている。
面白いのは、オゾンを売っている側がこれを自分で書いていることだ。低い濃度なら心配いらない、ただし高濃度で長く回すならゴムは気にしてね、という線の引き方をしている。記事冒頭の写真も、ニトリルゴム(NBR)のダイヤフラムシールに入ったオゾンクラックを拡大したもので、弧を描く亀裂が一本くっきり走っている。
ゴムの保管で避ける場所に「オゾン発生装置の近く」が入っている
富士ゴム化成は、ゴムの劣化を防ぐための保管場所として、避けるべき環境をリストにしている。日光の当たる場所、高圧電流(モーターやクラッチなど)の近く、湿度の高い場所、オゾン発生装置の近く(クリーンルームなど)、水銀灯の近く。
ゴムを作っている側が「その機械のそばには置くな」と名指ししている装置、その内部にゴム部品が入っているとどうなるか。答えが今回の投稿というわけだ。しかも保管のコツとしてもう一つ、重ねる・曲げる・吊るすを避けて応力をかけない状態にしろとも書かれている。オゾンクラックは引っぱられている部分に入るからで、機械の中で押しつぶされて気密を保っているシールは、その逆をずっとやっている。
ちなみにオゾンが発生しやすい場所の例にも「高圧電流の近く」が入っている。オゾン発生器の多くは放電でオゾンを作るので、発生器の内部は放電もオゾンも同時に揃う場所になる。ゴムにとっては条件が悪いほうへ全部倒れている。
自分で自分を消していく機械
オゾンはにおいの元や菌を酸化して分解する。その酸化力をそのまま浴び続ければ、内側のゴムだけ例外というわけにはいかない。強い酸化剤を作る装置が、作った端から自分の部品を酸化させていく構図だ。投稿者が「めちゃくちゃロック」と表現したくなるのも分かる。
とはいえ家庭の脱臭機や空気清浄機を疑う必要はあまりない。メーカー自身が、0.1ppm未満の低濃度なら日常使用でゴムが劣化することはほとんどないと書いている。気にするラインは10ppm以上を長時間、つまり業務で部屋を丸ごと処理するような使い方のほうだ。
ただ、家の中でも輪ゴムだけは避けておくといい。天然ゴムは名指しで「劣化しやすい」側に入っている。脱臭機の上に輪ゴムの束を置きっぱなしにして、後日ボロボロになっていたら、それはもうオゾンクラックだ。