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新幹線の“長い鼻”は鳥から生まれた。500系のトンネル騒音を解決したのは、カワセミのくちばしだった

2026年7月14日 ・ トレンド「新幹線 500系 カワセミ くちばし トンネルドン バイオミメティクス」より

新幹線の先頭にある、あの長く突き出た“鼻”。とくに、鉄道ファンに根強い人気の「500系」の、鋭くとがったロングノーズは印象的です。じつはあの形、デザイン上のカッコよさのためだけではありません。手本になったのは、なんと 1羽の鳥。カワセミのくちばし。自然の造形に学ぶ「バイオミメティクス(生物模倣)」の、代表作のひとつなのです。

高速化を阻んだ「トンネルドン」

話は1990年代、時速300キロを目指して開発された500系にさかのぼります。スピードを上げていく中で、技術者たちを悩ませたのが「トンネルドン(トンネル微気圧波)」という現象でした。

これは、高速の列車がトンネルに突入した瞬間に、前方の空気が押し縮められ、その圧力の波がトンネル内を音速で伝わって、出口で「ドン!」という大きな衝撃音になって飛び出すというもの。速く走れば走るほど激しくなり、沿線の騒音問題に直結します。スピードの壁は、空気の壁でもあったのです。

タネ明かし:水しぶきを立てない鳥に、答えがあった

この難問を解くヒントは、意外なところにありました。開発に携わった技術者・仲津英治(なかつ・えいじ)さんは、バードウォッチングが趣味。そこで彼が注目したのが、水辺のハンター「カワセミ」でした。

カワセミは、水中の小魚を捕らえるために、空中から高速で水面に飛び込みます。ところが不思議なことに、あれほどの勢いで突っ込むのに、水しぶきがほとんど立たない。研究を重ねた結果、その秘密はくちばしの形にありました。空気から水へ密度が急に変わる“壁”に飛び込むとき、カワセミのくちばしの形状が、抵抗を最も小さく受け流すことがわかったのです。

まさに、新幹線がトンネル(=空気の壁)に突っ込む状況とそっくり。そこで、この“くちばしの形”を500系の先頭形状に応用したところ、悩みの種だったトンネルドンは見事に克服され、あわせて走行時の空気抵抗も約30%減らせたとされます。1996年、カワセミそっくりの鼻を持つ新幹線が、こうして走り出しました。

その手本になったカワセミの“しぶきを立てない飛び込み”は、こちらのスローモーション映像で見ると惚れ惚れします。

ボーナス:フクロウにも学んでいた

じつは、500系が自然から借りた知恵はカワセミだけではありません。同じく騒音対策として、フクロウにも注目したといいます。フクロウは、羽ばたいてもほとんど音を立てずに飛ぶ“静寂のハンター”。その秘密は、風切り羽根のふちにあるノコギリ状のギザギザが、空気の乱れを細かく分散させることにあります。

この構造を、電線から電気を取り込む「パンタグラフ」の部品に応用。すると、風を切るときの騒音を大きく減らすことに成功したそうです。速く、静かに、省エネで高速鉄道が求めた性能の答えを、鳥たちはとっくに持っていた、というわけです。

自然は、何億年ぶんの“先輩”

カワセミもフクロウも、長い進化の歴史の中で、水や空気とうまく付き合う形を磨き上げてきました。人間が最新技術で挑んだ難問の答えが、身近な鳥の体にすでにあった。バイオミメティクスの面白さは、まさにそこにあります。

次に新幹線に乗るとき、あるいはホームでその鋭い先頭を見かけたとき。あの“鼻先”に小さなカワセミがとまっている姿を、ちょっと想像してみてください。日本の高速鉄道は、鳥に頭を下げて学んだ、謙虚な技術の結晶でもあるのです。

※開発の経緯・数値は各種資料や報道にもとづく一例です。