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「てあカノ」ヒロイン栗志江の名前、由来はフランス語の「クリシェ」

チョコミントを出せば歯磨き粉扱い、ホラー映画を見終われば「本当に怖いのは、人間なのかもしれません」。そんな、インターネットで擦られきったネタしか言わない女の子とデートするフリーゲームが公開された。タイトルは『てあカノ 手垢のついたことしか言わない彼女』。作者のHIJIKIさんが9月17日の夕方に投げた告知が3,800いいねを超えて、そこから一気に広がった。

ゲームの公式ヘッドコピーは「史上初! つまんねー女(?)とのデートADV(帰宅可)」。カッコ書きの「(?)」と「(帰宅可)」だけで、だいたいの人が察して開いてしまう強さがある。

「インフルエンザの時の夢みたいですね…♥」がずっと続く

主人公は、憧れの女子である栗志江(くりしえ)さんとのデートに漕ぎ着けたところからスタートする。ところが彼女は、ネットで何万回と見た言い回しを平然と繰り出してくる。PLiCyの紹介文に並んでいる台詞がこれだ。

  • 「インフルエンザの時の夢みたいですね…♥」
  • 「本当に怖いのは、人間なのかもしれません」
  • 「きのこ、たけのこ、どっちが好き?」

どれも初出が思い出せないくらい擦られている。猫ミームやフリーレン構文のように名前が付いたものならまだ自覚もできるが、この手の言い回しは名前すら付かないまま各自の口に染み付いている。それを目の前の女の子に全力でやられると効く、という設計になっている。

PLiCy側に付いているタグが「デートシミュ」「あるある」「ギャルゲー」で、真ん中の「あるある」が一番効いている気がする。

苗字「栗志江」はフランス語の「クリシェ」から作った

いちばん気になるのが、この栗志江という苗字だ。日本には実在しない。作者のHIJIKIさんが公開した解説noteに答えが書いてあって、「栗志江(くりしえ)という存在しない苗字はフランス語のクリシェから取りました」とのこと。

クリシェ(cliché)はありきたりな決まり文句・常套句を指す言葉で、小説や映画のレビューで「クリシェの塊」みたいに使われる。つまりこの子は、名前の時点で設定そのものになっている。フルネームは栗志江モカ。

そしてnoteによると、名前が決まるまでの開発中の呼び名は「再発明お嬢様」だったという。誰かがとっくに言ったことを、本人だけは初めて思いついた顔で差し出してくる。仮称のほうが刺さるまである。

見た目についても本人が触れていて、前髪は「エアインテーク(なんかカクカクした前髪)」が近年流行っているから趣味全開にした、と書いている。立ち絵では見えないが、下はスカートにシアー素材のロングスカートを重ねた二重構造らしい。

きっかけは「おもしれー女」の逆張りだった

なぜこんなヒロインを作ったのか。noteの「開発のきっかけ」には、『ドカ食いダイスキ! もちづきさん』の望月さんのような、独特なヒロインが出てくる漫画の流行が挙げられている。

ああいうキャラは、従来のフィクションでは考えられない個性を積んだ「おもしれー女」だから人気になった。では逆に、どこまでも”ありきたり”なキャラは魅力的になるのだろうか。その疑問が栗志江さんの出発点だったと説明されている。

「つまらないキャラ」は前例がいる。それでも差をつけた一点

浅い・つまらない・ありきたりな発言をするキャラは、実はすでに先例がいる。noteで名前が挙がっているのは、ショートコントアニメ『ネガハピ』の糸井光莉(公式からつまらないアイドル呼ばわりされている)と、『ふつうの軽音部』のヨンスの2人だ。

HIJIKIさんはこの2人の特徴を「それらの言動をやりに行っている点」と整理したうえで、「栗志江さんはいつでも「本気」で、笑いを取る気はないという点で、ひかりちゃんやヨンスと差別化を図りました」と書いている。ウケを狙っていないから逃げ場がない、ということらしい。

ネタ選びでも露骨にウケを取りにいかないよう心がけたそうで、それでも「令和」ネタだけは「ギリアウトなのですが、絶対に入れたいネタなので残してしまいました」と白状している。作者も1個は擦りたかった。

つらくなったら右上の「帰る」を押していい

このゲームの変わっているところは、選択肢とは別に「帰る」機能が付いていることだ。右上のボタンを押すといつでもデートが終わり、その時点がエンディングになる。早々に切り上げれば関係はそれっきりで終わる。

エンディングはED1からED5まで。noteによればED1〜ED4は当初の想定よりバッドエンド寄りの暗い内容になってしまったそうで、「辛くなりそうな人は気になるEDだけ見ていただけたら」「全EDを見ても特に報酬などはないので」と作者自身が逃げ道を用意している。ED5は結構仲良くなって楽しくやっている、とのこと。

最後まで付き合うと、彼女がなぜ手垢のついたことしか言わないのかという理由にも触れられる。最終的には「ネットだけじゃなく自分の経験も大切に」という話になると本人が明かしていて、さらにnoteには、栗志江さんみたいな人を見かけたときに作中の「何かに一家言ある」生徒のようなジャッジをしていないか、という自戒を込めて書いたとも添えられていた。笑わせに来ているだけの作品ではないわけだ。

「初手クリシェで爆笑した」「俺はつまらない奴だったか」

反応で目立ったのは、笑いながら自分に刺さっている人たちだった。

  • 「てあカノ、初手クリシェで爆笑した」
  • 「話題のてあカノやったけどそうか……俺はつまらない奴だったか……ってダメージ受けてる」
  • 「てあカノのせいで普段の発言が手垢の付いた浅いネタまみれであることを実感しているみなさ〜ん♡ 苦しいよな」
  • 「インターネットミームでしか会話できない女がこのゲームをやると、初手オウンゴールで負ける」
  • 「てあカノってネーミングセンスに脱帽だわ」

大判焼きの呼び方で揉める場面もあるらしく、「選択肢が多すぎるだろ 今川焼と任意の2択で十分だろうが」という、それはそれで手垢のついた主張も流れてきた。

伸びた要因のひとつが実況だ。VTuberの名取さなさんが「俺はお前かw…」というタイトルで配信し、視聴者からは「やっぱ名取さなってすごいな…ネットミームだけで一生喋れるんだもん…ネットずっと見てても出来ないわよ」という声が出ていた。栗志江さんに張り合える人間が実在したことになる。個人制作のゲームが実況で一気に広がるのは、キヨさんの実況で伸びた『八尺様がいた夏休み』やRTAで盛り上がった『ウンコテクニカ』と同じ流れだ。

なお実況・配信は歓迎で、連絡不要、収益化も可能。概要欄にゲーム名とURLを書くのが条件になっている。

PLiCyのプレイ数は9月18日13時の時点で12,021、コメントは661件まで伸びていた。電ファミニコゲーマーにも記事が出ているが、HIJIKIさんはnoteの最後で、東京ゲームショウ初日というゲームメディアが最も忙しい日にプレスリリースを送った「凶行」を詫びつつ礼を述べていた。

一周10分で、無料で、ブラウザで開くだけ。PLiCyのページからすぐ遊べるし、実況向けに通信が安定したWindows版がBOOTHでも配られている。HIJIKIさんはSteamでアイドルのネットストーキングをテーマにした謎解きゲーム『プリコラージュ -IDOLIZED-』も出しているので、10分で気に入ったらそちらもどうぞ。

自分の口から最近出た言葉を10個思い出してみて、何個が手垢まみれか数えてから遊ぶと、たぶん倍つらい。

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