「インド人を右に」とは?元ネタはゲーメストの誤植、原稿は「ハンドルを右に」
「インド人を右に」は、ゲーム雑誌に載った誤植がそのままネットミームになった言葉です。正しい原稿は「ハンドルを右に」でした。
手書きの「ハンドル」が「インド人」と読まれて、そのまま印刷された。30年近く前の誤植なのに、いまだに「伝説の誤植」と言えばまずこれが出てきます。
「インド人を右に」とは?
とんでもない誤植や誤変換の代名詞です。字が汚くて別の言葉に読めてしまったとき、変換ミスで意味が通らない文になったときに「インド人を右に案件」のように引き合いに出されます。
意味の通らなさが笑いどころです。レースゲームの攻略記事で、車がぶつかりそうな場面に突然インド人が登場して、しかも右に動かされる。前後の文脈と噛み合わなさすぎて、一度読むと忘れられません。
ネットでは2022年の「ネット流行語100」で92位に入っています(マイナビニュース、リアルサウンド テック)。元の誤植から25年たってのランクインです。
元ネタはゲーメスト193号の誤植
出どころは、アーケードゲーム専門誌『ゲーメスト』の193号(1997年4月30日号)です。セガの4輪レースゲーム『スカッドレース』の攻略記事で、写真に添えたキャプションに載りました(ニコニコ大百科、Wikipedia「ゲーメスト」)。
カーブで壁に突っ込みそうな場面で「ハンドルを右に切れ」と言っているだけの、ごく普通のキャプションです。それが「インド人を右に!」になって全国の書店に並びました。
なぜ「ハンドル」が「インド人」に読めたのか
カタカナで並べると仕組みが見えます。「ハンドル」と「インド人」は、真ん中の「ンド」が共通です。違うのは最初と最後の1文字ずつだけ。
手書きで「ハ」の左の払いが立つと「イ」に、「ル」の2画がくっつくと「人」に寄って見える。ニコニコ大百科でも崩れた「ハンドル」を「/lンド/レ」と書いて説明しています。この2か所が重なると、ハンドルがインド人に読めてしまうというわけです。
しかも「インド人を右に」は、文法としてはちゃんと成立してしまう文です。意味の通らない文字列なら打つ人も手が止まりそうですが、日本語として読めてしまうぶん、引っかかりにくかったのかもしれません。
チェックが入らなかった事情
当時の編集部にいた松井ムネタツさんが、2022年にRed Bullのインタビューで経緯を語っています(Red Bull)。
- 制作は完全なアナログ体制で、ライターの手書き原稿を、版下を作る会社の写植オペレーターが文字に起こしていた
- このページは本文と写真が入稿済みで、キャプション欄だけが空いていた
- 校了のタイミングでライターが手書きのキャプション原稿を出し、編集部がチェックする時間がないまま印刷所へ回った
担当編集は、原因を「校了時にキャプションを入れたこと」だとしています。写植オペレーターはゲームの中身を知らないので、読めた字をそのまま打つしかありません。最後の最後に差し込まれた数行が、誰の目も通らずに刷られたということです。
なお、キャプションを書いたライターが誰なのかは公表されていません。
『ゲーメスト』自体は1999年に休刊しました。雑誌はなくなっても、この1行だけは残り続けています。
2025年、書道で原稿が「再現」された
2025年7月には、福井県越前市の公認VTuber・紫式部さんが、この手書き原稿を毛筆で再現した作品を投稿しました。本文は「二度とリクエストするな」の一言です。
書かれているのは正しい原稿の「くお~!!ぶつかる!! ここでアクセル全開 ハンドルを右に」。なのに崩した「ハンドル」が、どう見ても「インド人」に読めます。投稿は13万いいねを超え、「長年どういう誤植?って思ってたけど、これは納得」といった声が寄せられて話題になりました(インサイド)。
28年越しに、写植オペレーターの気持ちがちょっとわかる作品です。
セガ自身が曲にした「The wheel to the right」
この誤植をいちばん楽しんでいるのは、たぶんセガ本人です。
音ゲー『CHUNITHM(チュウニズム)』には、稼働初期の解禁曲として「The wheel to the right」(Sampling Masters MEGA)が入っています。タイトルは「ハンドルを右に」をそのまま英訳したもので、曲中には「インド人を右に」「セガのゲームは宇宙一」というボイスまで入っています(ニコニコ大百科)。
自社のレースゲームの攻略記事で起きた誤植を、自社の音ゲーで曲にしたわけです。大百科ではこれを「セガ自身の自虐とも言えるネタ」と紹介しています。プレイヤーの間では、曲名より先に「インド人」で通じます。
この曲はその後、2017年4月27日に『maimai』へ、2019年7月18日に『オンゲキ』へも追加されました。maimai公式の告知も、しっかり「インド人」呼びです。
『イロドリミドリ』には「The wheel to the Night ~インド人が夢に!?~」というアレンジ版もあります。maimaiシリーズの最新作については「maimai でらっくす MAGiCAL」の稼働の記事にまとめています。
ほかにもあるパロディ
- 元『ゲーメスト』編集長・石井ぜんじさんのコラム集のタイトルが『石井ぜんじを右に!〜元ゲーメスト編集長コラム集〜』
- 麻雀漫画『むこうぶち』(天獅子悦也)の第349話にパロディがある(Wikipedia「ゲーメスト」の記載による)
- 『Fate/Grand Order』のネモ・サンタの「インド方面にターン!」も、元ネタはこれではないかと言われている(公式に明言されたものではない)
使い方・例文
ひどい誤植や、読み間違えられそうな手書き文字を見たときに使います。
- 「先輩の手書きメモ、完全にインド人を右に状態で解読できない」
- 「誤変換がひどすぎてインド人を右にレベル」
- 「この字、写植の人がいたら確実にインド人にされてる」
ネタとしての知名度は高く、2026年に話題になったカードゲーム「ミームかるた」にも「ここでアクセル全開、」→「インド人を右に!」の札が入っています(ミームかるたの記事)。上の句を読まれた瞬間に取れたら、たぶん古参です。