「アタカマ砂漠」が一面の花畑、200種が目覚めたのは記録的な180ミリの雨が理由
「世界でいちばん雨が降らない場所」として地理の授業に出てくる、南米チリのアタカマ砂漠。その砂だらけの地面が、いま紫の花でびっしり埋まっています。AFPが9月23日に伝えたもので、原因はエルニーニョ現象がもたらした記録的な大雨。地面の下で何年も雨を待っていた種と球根が、まとめて起きてしまったという話です。
スペイン語の映像ですが、砂の色が花の色に置き換わっていく様子は音を消しても伝わります。
「デシエルト・フロリード」、地面が見えないほどの紫
この現象はスペイン語で「Desierto Florido(デシエルト・フロリード)」、そのまま訳すと「花咲く砂漠」と呼ばれています。AFPによると、いまのアタカマには「広大な紫色のカーペットが敷き詰められたかのような光景」が広がり、ひび割れた大地からは「天使のように白い蕾(つぼみ)」が顔を覗かせているとのこと。
派手さの理由は、単純に色の面積です。乾いた土と岩しかないはずの地面が、見渡すかぎり花で塗り替わる。奥に見える山は砂のままなので、手前との落差で余計に嘘っぽく見えます。
普段のアタカマは、AFPの表現を借りれば「地球上で最も乾燥した地域の一つ」。それでも土の中には、約200種にのぼる植物の種子や球根が、雨が来るのをじっと待って眠っています。降らなければ、何年でも待つ。そして降った年だけ、いっせいに答え合わせをするわけです。
景色を一目見ようと車を止めてカメラを向ける観光客も多く、運が良ければ深紅の夕焼けに二重の虹が重なる場面にも出会えるそうです。
引き金は「過去に記録がないほど」の180ミリ
チリ国家森林協会(CONAF)でアタカマの生物多様性部門を担当するセサル・ピサロ氏はAFPに対し、一部の地域では180ミリを超える「過去に記録がないほど」の降雨が観測されたと語っています。多かった、ではなく、記録に残っていないレベルだったという話です。
その大雨を連れてきたのがエルニーニョ現象。赤道付近の太平洋中央部と東部で海面水温が上がり、世界各地の風と降水のパターンが大きく変わる現象で、今回のものは比較可能な記録がある過去40年間で最も強いものになると予想されています。各地では異常気象として警戒される一方、アタカマでは眠っていた種を叩き起こす側に回った形です。
ちなみに、雨さえ降れば咲くという単純な話でもありません。チリ政府観光局の解説ページによると、開花には6〜7月を中心にまとまった雨が降ることに加えて、冷え込んだ時間がきちんと積み重なることも必要だといいます。水と寒さの組み合わせが揃った年だけ、地面の下のスイッチが入る仕組みです。雨の量ひとつで作物の出来が変わる北海道のじゃがいもの話にも通じるものがあります。
増えたのは花だけじゃない、甲虫のフンが次の花を用意する
ここからが、この現象のいちばん面白いところ。ピサロ氏によると、アタカマで急増しているのは花だけではなく、昆虫、カタツムリ、鳥類、爬虫類、哺乳類までまとめて増えているそうです。花が咲けば虫が来て、虫が来れば鳥や爬虫類が来る。乾いた土地に、生き物の層が一気に積み上がります。
しかも、その生き物たちがやっていることが地味にすごい。ミツバチが受粉に励み、ゴミムシダマシなどの甲虫類がその残りものを食べ、窒素を多く含んだフンを落とす。それが「次の雨に向けて土壌を豊かにしていく」とピサロ氏は説明しています。
つまり一度咲くたびに、砂漠は次に咲くための仕込みを終えている。次の大雨が何年後に来るのかは誰も知らないのに、虫がせっせと土を肥やして待っている、という構図です。花が一面に咲く絵づらの派手さより、この裏方の話のほうが個人的にはグッときました。
ピサロ氏は、咲き誇る黄色い花を見ながらこう語っています。「雨が降ると花が咲く砂漠は世界にいくつかあるが、これほどの広大な面積と生物の多様性を誇る場所は他にはない」。
ピークは10月、見に行くなら守ることがある
CONAFによると、この現象は10月にピークを迎える見通しで、1万5000ヘクタールほどの広さで花の楽園が出現すると考えられています。つまり、いまはまだ本番前。
場所はチリ北部のアタカマ州で、政府観光局は今シーズン見込まれる地域としてワスコ、フレイリナ、バジェナル、カルデラ、コピアポ、チャニャラルを挙げています。同ページによれば、8月半ばの時点ですでにアニャニュカ(añañuca)やウイリ(huilli)、ススピロ(suspiro)といった花が咲き始めていたとのこと。
行ける人向けの注意も出ていて、決められた車道以外を走らない、歩くときは整備された道だけを使う、花を摘まない、種や球根を持ち帰らない、ペットを連れて行かない、ゴミは指定の場所に捨てる、といった内容です。種や球根を持ち帰っても自然の環境でしか育たないと明言されているので、記念に持って帰るのは本当に意味がありません。
日本からだと気軽に見に行ける場所ではありませんが、天気と連動するゲームが出てくるくらい、空の機嫌ひとつで景色が変わるのは地球のどこでも同じ。10月のピークに向けて、現地の写真は今後もっと増えるはずです。「砂漠」で画像検索すると茶色一色が出てくるうちに、今年の紫を見ておくと得した気分になれます。