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「クマバチ」と「クマンバチ」の違い、長崎での正体はスズメバチ

胸部だけ黄色い毛に覆われ、腹は黒くつやつやしたクマバチが、花粉まみれで白い花の黄色いしべにとまっている
画像: 花粉まみれで花にとまっているクマバチ(CC BY 2.0 / TANAKA Juuyoh (田中十洋), via Wikimedia Commons)。当サイトで縮小・切り抜きをしています

「クマバチの事をクマンバチと呼んでいる地域の皆様。ごきげんよう。」。9月22日の朝にshiro@焼肉たべさせて下さい。(@nikutaberuru)さんが投稿したこの3行に、7万3,000を超えるいいねと700件以上の返信が付いた。心当たりのある人が全国からわらわら出てきた形だ。

ただ、この「クマンバチ」がなかなかの曲者で、そう呼んでいる人の頭に浮かんでいるハチは、地域によってまるで別物だったりする。長崎あたりで「クマンバチ」といえば、それはスズメバチのことだ。

「クマンバチ」が指すハチは1種類に決まっていない

まず語としての成り立ちから。クマバチはミツバチ科クマバチ属(Xylocopa)に属する昆虫の総称で、世界で約500種が記載されている。Wikipediaのクマバチの項目によると、「方言によっては、連濁に伴う入り渡り鼻音を挟んでクマンバチとも呼ばれる」。要するに、クマバチに鼻にかかった「ン」が挟まった形、というだけの話に見える。

ところが同じ項目の「クマンバチ」の節を読むと、話がややこしくなる。

日本各地の方言において「クマンバチ」という地域が多数あるが、クマンバチという語の指す対象は必ずしもクマバチだけではない場合(クマバチ・スズメバチ・マルハナバチ・ウシアブほか)があり、多様な含みを持つ語である。

犯人は「クマ」のほうだった。哺乳類の熊になぞらえて、大きいもの・強いものを修飾する語として使われるので、でかくて羽音のうるさい飛行物体は片っぱしからクマンバチになりうる。リストの最後にハチですらないウシアブが混ざっているのが、この語のゆるさをよく表している。

長崎ではスズメバチを「クマンバチ」と呼ぶ

そのなかでも実害が出ているのが長崎だ。同項目の「スズメバチとの誤解」の節には、こう書かれている。

主に長崎県においてスズメバチのことを「クマンバチ(熊蜂)」と呼ぶことがあり、これが誤解の原因のひとつと考えられる。

「クマンバチに刺された」「軒下にクマンバチの巣がある」という話を、クマバチだと思って聞くと話が噛み合わない。呼び名は同じでも、片方は花の蜜を吸っている温厚なハチで、もう片方は虫を狩る肉食のハチだからだ。呼び名と実物がズレたまま定着してしまう現象としては、緑にしか見えない信号を全員で「青信号」と呼び続けている話と、根っこは近い。

本物のクマバチはきわめて温厚で、オスには針がない

では誤解されている側のクマバチはどうなのか。Wikipediaの「生態」の節はかなりはっきり書いている。

体が大きく羽音の印象が強烈であるため、獰猛な種と誤解されることが多いが、実際の性質はきわめて温厚である。

しかも、

オスは比較的行動的であるが、針が無いため、刺すことはない。毒針を持つのはメスのみであり、メスは巣があることを知らずに巣に近づいたり、個体を脅かしたりすると刺すことがあるが、アナフィラキシーショックが出なければたとえ刺されても重症に至ることは少ない。

春先の山道や林道で、目の前をブンブン低空ホバリングしてくるやつがいる。あれはたいていオスで、交尾相手を待つ縄張りの見張りをしている。そしてオスには、飛んでいる他の昆虫や鳥まで全部追いかけて「メスかどうか」を確認する習性がある。つまり近づいてきたものを追いかけるのは威嚇ではなく、ただの確認作業だ。針を持っていないので、寄ってきたところで何も起きない。

見分け方も、知ってしまえば簡単だった。

花粉を集めるクマバチが軟らかい毛で覆われているのに対し、虫を狩るスズメバチはほとんど無毛か粗い毛が生えるのみ。記事冒頭の写真がまさにその毛だらけの状態で、胸は黄色い毛でモフモフ、腹は黒くつやつやしている。Wikipediaも「外見上で取り違えることはまずない」と言い切っている。羽音だけで判断していたのが、そもそもの間違いだったわけだ。

ついでに、クマバチにまつわる誤解はあと2つある

ひとつは「クマバチは航空力学的に飛べるはずがない」という都市伝説。20世紀から流布しているが、Wikipediaははっきり「これは誤りである」としている。昆虫の飛行の原理は長いこと謎とされていたものの、1980年代ごろから前縁渦(leading-edge vortex)の役割がわかってきて、いまは工学への応用まで研究が進んでいる。飛べるはずがないどころか、普通に理屈で飛んでいる。

もうひとつがリムスキー=コルサコフの『熊蜂の飛行』。あの高速で駆け上がるやつだ。これも原題は “Полёт шмеля” で、ロシア語の шмель も英題の “Bumblebee” も指しているのはマルハナバチ。クマバチではない。邦題が「熊蜂」になっただけで、クマバチは1回も飛んでいなかった。

自分の地元の「クマンバチ」がどっちか、確かめてみて

元の投稿への返信が700件以上付いているのは、それだけ「うちもクマンバチって言う」という人がいるということだ。ただ、そのうちの何割かは、たぶんスズメバチやマルハナバチの話をしている。

次に誰かが「クマンバチがおった」と言い出したら、まず全身モフモフかどうかを聞いてみるといい。モフモフで胸が黄色いなら刺されない相手だし、黄色と黒の縞でつるっとしているなら、それはさっさと離れたほうがいい別のハチだ。

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