「スズキ目」解体、スズキ本人はホタルジャコ目に移っていた
魚でいちばん大きなグループだった「スズキ目」は、DNAで組み直した結果ばらばらになった。しかも当のスズキは、ホタルジャコ目に移っている。
9月29日の朝、水産経済新聞が「「スズキ目」消失 今後はホタルジャコ目ほかへ DNAで分類見直し」という見出しの記事を出した。
記事は同紙サイトの週間ランキングで1位になり、Yahoo!リアルタイム検索のトレンドにも「スズキ目」が入った。理科の授業や図鑑で覚えた名前が消えると聞けば、そりゃ気になる。
ただ、この組み直しは今日いきなり決まった話ではない。2016年ごろから少しずつ進んでいて、今年1月には釣り系メディアも取り上げていた。今回の報道で、あらためて知った人が多かったということだ。
魚の4割がスズキ目だった
魚類分類の定番書『Fishes of the World』の第4版(2006年)によると、当時のスズキ目は20亜目160科1,539属10,033種。全硬骨魚類の約41%にあたる。
マダイもアジもサバもハゼもベラも、みんなスズキ目だった。回転寿司のレーンに流れてくる白身や青魚の多くが、同じ目に収まっていたことになる。
なぜここまで膨らんだのか。サカナ研究所の脇本哲朗さんはTSURINEWSの解説記事で、スズキ目には「分類のゴミ箱」のような面があったと書いている。形に決め手がない魚を、とりあえず入れておく場所だったというわけだ。
DNAで調べたらバラバラ
見た目で分けていたころは、それで回っていた。ところが遺伝子を比べる分子系統解析が進むと、スズキ目の中身は血縁の遠い魚の寄せ集めだと分かってきた。
2016年の第5版では、スズキ目は2亜目・62科・約365属・約2,248種まで縮んだ。1万種あったものが、約2割になった計算だ。
抜けた魚たちは、アジ目、サバ目、ハゼ目、ベラ目など、新しく立てられた目に振り分けられている。
スズキはホタルジャコ目へ
いちばんのオチがここだ。魚類の学名を網羅したデータベースEschmeyer’s Catalog of Fishesの分類表では、スズキ科(Lateolabracidae)は Order Acropomatiformes、和名でいうホタルジャコ目の下に置かれている。
同じ目にはムツ科、ホタルジャコ科、ハタンポ科、イシナギ科などが並ぶ。ホタルジャコ目は分子系統解析で定義された目で、見た目の共通点はあまりない。
Wikipedia日本語版によると、ホタルジャコ目は全種が海の魚で、半数以上の科が深海魚だという。
一方のスズキは、河口や港の常連だ。利根川では河口から100km以上さかのぼる個体もいる。深海魚が多い目に、川を上ってくる魚が入ったことになる。
ちなみにスズキは、関東ならセイゴ、フッコ、スズキと名前が変わる出世魚だ。関西ではフッコの代わりにハネと呼ぶ。ルアー釣りをする人には「シーバス」のほうが通じるかもしれない。
「スズキ目」を名乗れない理由
ややこしいのはここから。スズキ目の学名 Perciformes 自体は、今もちゃんと残っている。カサゴ科、ハタハタ科、ハタ科などは、Catalog of Fishes でも Perciformes の下にいる。
Perciformes はパーチ属(Perca)に由来する名前で、スズキを含むことは条件になっていない。学名の上では何も困らないわけだ。
困るのは日本語のほうだ。スズキがいないグループを「スズキ目」と呼び続けると、話がねじれる。
そこで、スズキを含まなくなった Perciformes には「ペルカ目」という和名が提唱された。Wikipedia日本語版のペルカ目の項目は、2025年の図鑑『美し国の魚たち 三重県の魚類図鑑』を出典に挙げている。「スズキ目」で引くと、今はこのペルカ目のページに飛ばされる。
家主が出ていったあと、カサゴやハタハタが本家の看板を守っている格好だ。
スズキ目の魚の一覧、今はどこ
旧スズキ目の代表的な魚が、いまどの目にいるかをまとめた。学名は Catalog of Fishes、目の和名は Wikipedia日本語版の表記に合わせている。
並べてみると意外な組み合わせが多い。お祝いの席の主役マダイは、ナンヨウハギなどのニザダイ科と同じニザダイ目になった。
磯釣りで人気のイシダイとメジナは、サンフィッシュ目に入っている。ブルーギルやブラックバスが属するサンフィッシュ科と同じ目だ。
名前と中身がずれる魚の話
魚の名前が中身とずれるのは、実は珍しくない。スーパーでおなじみの「赤魚」も、読み方が割れたうえに「赤魚」という名前の魚はいないという話があった。
スズキ目の場合は、グループの名前の由来になった魚が自分から出ていった形だ。次に水族館や図鑑で「スズキ目」の文字を見かけたら、どの目に引っ越したのか確かめてみると面白い。