「幻のモグラ」白神山地で初確認、正体はミズラモグラ
白神山地で「幻のモグラ」ミズラモグラが初めて確認された。正体は7年前に林道で拾われていた1匹だった。
確認したのは弘前大学 白神自然環境研究センターの中村剛之教授らのグループ。2026年9月2日に大学が発表し、10月3日朝に共同通信が配信したことで一気に広まった。
※冒頭の写真は国立科学博物館の展示標本で、1956年に長野県の上高地で採集された個体です。白神山地で見つかった個体ではありません。
拾ったのは2019年
発端は2019年6月。青森県西目屋村の白神山地で、研究員がモグラの死骸を見つけた。体長は約9センチ、尾まで入れても約11センチという小ささだ。
このときはまだ「モグラの死骸」でしかなかった。
話が動いたのは2025年。別の研究者から指摘を受けて詳しく調べ直したところ、下あごの歯並びの特徴からミズラモグラだと分かった(東奥日報掲載の共同通信記事)。
拾ってから正体が分かるまで、ざっと6年かかった計算になる。
見つかった場所がすごかった
論文によると、発見地点は世界自然遺産の緩衝地域に含まれる標高約320メートルの林道。これまで知られていた青森県内の生息地の中で、いちばん西にあたる。
大学の発表では、場所は「暗門の滝近くの遊歩道」と紹介されている。観光客も歩くエリアのすぐそばにいたことになる。
青森県内でこれまで生息が確認されていたのは、八甲田山系と岩木山麓の一部だけだった。そこから一気に西の白神まで記録が伸びたわけで、チームは「生息域が大きく塗り替えられるかもしれない」と期待している。
県内では標高60メートルから1,050メートルまで幅広い高さで確認されている。山奥の高い所だけにいるわけではないらしい。
ミズラモグラの特徴
弘前大は発表で、ミズラモグラを「本州の限られた山地に局所的に生息し、その生態についても不明点が多い原始的なモグラ」と説明している。
Wikipediaのまとめでは、頭胴長は80〜106.5ミリ、体重は26〜35.5グラムほど。スマホより軽い。
耳たぶ(耳介)が無く、手が大きくて爪はまっすぐで強い。いかにも穴掘り向きの体つきだ。
食べるのは昆虫やミミズ。地下に広葉樹の葉を集めて、直径36センチ前後の巣を作る。
分布は本州だけ
分布は青森県から広島県までの本州で、日本にしかいない固有種だ。ただ、どこにでもいるわけではなく山地にぽつぽつと散らばっている。
「幻」と呼ばれるのは、限られた山地にしかいないうえに生態の謎が多いから。しかも調べにくい。モグラを捕まえるには地中にわなを仕掛ける必要があり、とにかく手間がかかる。今回のように偶然拾われた1匹が新記録になることもある。
分類も揺れてきた。1880年にヨーロッパモグラ属(Talpa)の一種として記載され、1948年にアジアモグラ属(Euroscaptor)へ、2016年に独立したミズラモグラ属(Oreoscaptor)へと移されてきた。冒頭の写真のラベルが旧学名の「Euroscaptor mizura」なのはその名残だ。
名前の由来は古代の髪型
「ミズラ」と聞いて、水っぽい場所にいるモグラだと思った人もいるかもしれない。違う。
なぜモグラに髪型の名前が付いたのかまでは、今回調べた範囲では分からなかった。
論文と標本のその後
成果は2026年7月末に公開された論文「白神山地におけるミズラモグラOreoscaptor mizuraの初記録」(哺乳類科学)にまとまっている。著者はムラノ千恵さん、中村剛之さん、山岸洋貴さんの3人だ。
見つかった個体は、標本として弘前大の白神自然環境研究センターに収蔵された。詳しい経緯は弘前大学のプレス発表資料(PDF)で読める。
「幻」は意外と近くにいた
7年前に拾われた手のひらサイズの1匹が、白神山地の生き物リストを1行増やした。観光客も歩く遊歩道の近くだったのが面白い。
日本の生き物はまだ記録が埋まっていない。北海道の鎧竜に名前が付いたニッポノペルタ・エゾエンシスの話や、博物館にいたワニの化石のマチカネワニの話もあわせてどうぞ。新種のネコが見つかったティルカヨの話もある。