浦和高校「浦高祭」の巨大な門は日光東照宮の「陽明門」、完成は2日目の朝9時
埼玉県立浦和高校の文化祭「浦高祭」では、毎年でかい門が建つ。第79回の今年は日光東照宮の陽明門だった。9月13日の朝、来場した人が撮った写真がXに流れて、そのまま表示170万回まで伸びている。
二層造りで、上層には「浦高祭」の扁額。白い龍の彫刻に極彩色の欄間、下層の左右には金色の随身像が2体。柱は白く塗られ、金具は金。撮影者のざわわさんが添えた一言が「ほんとに高校生が作ったんかこれ…」で、実物を見た側の感想としてはこれ以上ないくらい的確だと思う。
ただ、この門には続きがある。浦高祭が開かれたのは9月12日と13日の2日間で、この門が完成したと発表されたのは、2日目の朝だった。
浦高祭の門は、日光東照宮の陽明門を模していた
浦高祭の公式サイトには「ことしの門」という専用ページがあって、そこにはっきり書いてある。「今年の門のモチーフは 日光東照宮の「陽明門」 です。」。
本物の陽明門については、同じページがこう説明している。「徳川家康を祀る日光東照宮の中心的な門で、江戸時代初期の建築技術と装飾技術が集約された建造物。」。規模は間口約7メートル、奥行き約4メートル、高さ約11メートルの二層造りで、使われている金箔は24万枚。彫刻の説明も具体的で、「門には龍や鳳凰、聖人賢人、遊ぶ子供など、500体以上の精密な彫刻が施されている。」とある。
500体以上の彫刻。それを模した門を高校の文化祭で建てようという時点で、スタート地点がおかしい。
作っているのは「門隊79th」という生徒の組織だ。浦高祭の前日、9月11日の夜に門隊のアカウントが「79期門隊の作った、ほぼ原寸大サイズの陽明門が皆様をお待ちしています。」と投稿している。ほぼ原寸大。高さ11メートル級のものを校門の前に立てたことになる。
浦高祭そのものも小さいイベントではない。公式サイトの説明では「浦和高校文化祭「浦高祭」は、浦高生が主体となって創り上げる県内最大級の文化祭です。」とされていて、「ここ数年は、なんと1万人以上の方々にご来場いただいています。」と書かれている。1万人が正門をくぐる前提で門を建てているわけだ。
門隊79thが完成を告げたのは、2日目の開場時刻ちょうどだった
門隊のアカウントが完成報告を出したのは、9月13日の朝9時だった。
「1日遅れとなりましたが、ついに門が完成しました!!!! 是非浦高祭にご来場下さい!」。投稿時刻は9時00分。浦高祭の2日目は9時開場なので、開場と同時に完成を告げた形になる。秒単位でギリギリという意味では、これ以上ないタイミングではある。
裏を返すと、初日の門は完成していなかった。1日目の公開時間は13時から16時までの3時間だけ。初日に来た人は、完成前の門を見て帰ったことになる。どちらが得だったのかは、正直よく分からない。
門隊は日光まで見に行き、本物には無い三猿を足していた
付け焼き刃で作ったものではない、というのは投稿の履歴から分かる。8月18日、門隊は「日光東照宮に赴いた時の写真です。」と、現地で撮った写真を上げている。資料を画像検索で済ませず、実物を見に行っている。
そのうえで、9月3日にはこんな投稿もしていた。
「日光東照宮と言えば🙈🙉🙊 元々陽明門にはないですが、今年の浦高の門には内装にこの絵を貼り付けているので是非一度お目にかかってみては!」。三猿のことだ。
三猿は東照宮の神厩舎にある彫刻で、陽明門のものではない。門隊もそれを分かったうえで「元々陽明門にはないですが」と断って、門の内装に貼っている。忠実な再現だけを目指すなら要らない要素を、自分たちの判断で足しているわけだ。門の外側は本物に寄せて、内側で遊ぶ。うまい分け方だと思う。
ギリギリまで作るのは毎年のことで、今年は初日をはみ出した
浦高祭の門が毎年違うモチーフで作り直されているのは、過去のインタビューを読むと分かる。高校生新聞に載った第77回(2024年)実行委員長・齊藤春希さんの話には、こうある。「今年のモチーフは中国の天壇です。毎年入場開始時刻ギリギリまで作業して完成させます。」。
翌年、第78回(2025年)実行委員長・村山煌介さんは「今年のモチーフはメキシコの「サン・ミゲル教区教会」で、例年の門と比べ、門の高さがかなり高くなっていることが特徴的です。」と答えている。中国の天壇、メキシコの教会、そして日光東照宮。国も時代もばらばらで、共通点は「デカくて装飾がしんどそう」だけだ。
村山さんは学校の自慢できる点として「先生方の指導が入ることもありますが、体育祭や文化祭は基本全て生徒が運営しています。」とも答えている。教員が上から仕切る体制ではない分、間に合わなかった責任も自分たちで負うことになる。
そう考えると、「毎年入場開始時刻ギリギリまで作業して完成させます」という2年前の言葉が効いてくる。例年はギリギリで間に合わせてきたものが、今年は初日をまるごとはみ出した。伝統の延長線上にある事故という感じがして、そこが妙におかしい。
毎年作り直される巨大な手作り造形という点では、阿佐ヶ谷七夕まつりの巨大はりぼてや、青森ねぶた祭の「社畜ねぶた」と同じ系譜だ。1年かけて作って、数日で役目を終える。
作った側の完成報告より、来場者の写真のほうが伸びた
数字を並べると、この件の面白さがもう一段はっきりする。
門隊79th本人が出した完成報告のいいねは、9月13日午後の時点で約4,860。一方、ざわわさんが撮った門の写真は同じ時点で表示170万回、いいね3万9千まで伸びていた。いいねの数だけ見ても、作った当事者の完成報告より、通りすがりに撮られた実物の写真のほうが8倍伸びたことになる。
まあ、そうなるだろうなとは思う。1日遅れという前置きから始まる報告は当事者の文脈が要るけれど、あの門の写真は説明が1行も要らない。高校の文化祭で建てるものの規模ではない、というのが一目で伝わってしまう。
第80回の門が何になるのかはまだ分からない。ただ、完成するのが何日目の何時になるのかのほうが、正直ちょっと気になっている。